1-4 追跡者
仕事というのは、魚釣りだった。
『我は見ての通り手負いでな……回復のため、魔力を多く含んだ食事が必要なのだ。そのジュエルフィッシュを1日10匹。我に献上せよ』
毎日、魚を釣る場所を変えては、10匹。あと、たまに釣れるハズレの魚は俺の食事になる。
その間に、釣り竿も少しずつ強化を施していく。
魚の骨を使って釣り針の代わりにしたり、小さな虫をエサにしたり――
川には多くの魚が見えるが――本当に俺だから釣れているんだろうか。
「あれは……」
シュッ――と、川の水面へ1羽の鳥が突っ込んでいき――手ぶらで空へと舞い上がる。
どうやら魚を狙ったようだが、捕まえられなかったようだ。
「野生の鳥でも難しいのか……」
そうやって数日、川と洞穴を行ったり来たりする生活が続いた――
基本的に寝ているシュバルだったが、起きている時に暇だというので、
「グッハハッ! 異世界では、ドラゴンは自動車という荷車と交尾するのか!」
「他にもよー。ドラゴンがメイド――給仕服着たり、変身してロボットになったり――すげーのなんの」
すっかり俺は、シュバルと打ち解けていた。
いや、それも俺の勘違いで――向こうにしてみれば、食事を運んでくれる愉快なペットのつもりかもしれない。
それでもいい――
こうして俺のバカな話を聞いて、笑ってくれるコイツといるのが――最高に楽しかった。
さらに数日後――
「……さて。ではそろそろ仕事の報酬をやらねばな」
「はい?」
今日の分の魚を焼いて渡すと――そんなことを言われた。
「なんだ。最初に仕事だと言っただろ――お前の世界では、仕事に対価は発生しないのか」
「いいえ! でも、その……」
契約の書面にサインしたわけでもないし、ただの口約束――いや、俺を効率良く働かせるための方便とさえ思っていた。
「とはいえ、ワシもすぐに用意できる財宝はないので――そこに落ちているウロコをくれてやろう。何枚でも、好きに持っていくがいい」
俺が目をやると――たしかに、シュバルの側に置いている黒いウロコが何枚かある。
何枚でも……と言われても気が引けるので、二枚ほど持っていくことにした。
「これですか?」
「そうだ、それ持って――むっ」
シュバルが顔を上げ、洞穴の出口を睨めつける。
俺も釣られて振り返れば――剣を携えた白銀の騎士が、光を背負って立っていた。
◆ ◆ ◆
「追い詰めたぞ――邪悪なブラックドラゴンめ」
声からして青年だ。
しかしその顔はフルフェイスの兜に覆われ、詳しい表情も分からない。
上から下まで覆われた白銀の鎧は、RPGにおける騎士のようだ。
「ここまでまで追いかけてくるとは……大した根性だな。人間よ」
「黙れ! 貴様に殺された仲間の仇のため――」
やはり魔物と人間は争う定め――
「――我が宝物庫へ無断で侵入し、罠へとかかり勝手に死んだマヌケ共のことか」
「死ぬがいい! そして、我が資金となるがいいッ!!」
……不法侵入の末に逆ギレかよ。
「強欲な人間風情が――」
そんな会話をしている最中、俺はシュバルの陰に隠れていた。
どう考えても鎧騎士は、手負いであるシュバルを追いかけて来たのだ。
同じモンスターである俺を、見逃すわけもない――いや、それとも眼中にも無いか。
「はぁッ! 喰らえ、我が剣技。セイント、セイバァァッ!!」
鎧騎士が、その剣を上段から振り下ろすと――剣閃は、ビームのように伸びてシュバルの肩を切り裂く。
「ぐっ!」
「このような狭い場所では、満足に逃げられんだろう!」
「小癪な――ガァッ!」
口から黒い炎のブレスを吐き、鎧騎士ごとすべてを焼き払った。
「す、すげぇ……」
「――この穴の奥に、お前1匹程度なら抜けられる出口がある――そこから逃げるといい」
「アンタはどうするんだ!?」
「ワシは、こやつと決着をつける」
「そんな――」
黒い炎の中から――足音が聞こえる。
灰になりそうなほどの高熱にまかれながらも、鎧騎士は生きている。
「さすがは悪名高きブラックドラゴンだな」
全身に淡い水のようなオーラが出ている。
それだけで、あの炎を耐えきったというのか。
「しかしこのドラゴンガードが掛かった鎧――高い金を出して買っただけはある」
「ならば、直接我がツメで切り裂いてくれよう」
「貴様に、出来るかな!!」
両者の激突。
俺は這うように動き、穴の最奥を目指す。
彼の言う通り、そこには小さな穴が開いて、外からの光が漏れていた。
「逃げなきゃ……」
自分の何百倍、何千倍も強いブラックドラゴンが手負いを追うような相手――
しかも相手は、対ドラゴンメタを仕込んできている。
(なに考えてんだよ。最弱モンスターになにができるんだよ)
穴に身体をねじ込むようにハメる。
「そうだ、町へ行って助けを呼んで……」
ドォン――と背後で爆音。
ケツに熱風が当たる。それだけで、ライフが0になりそうだ。
「あつ、あっつッ――ッ!?」
あまりの熱さに、そのまま外へ追い出されてしまったようだ。
外は、やはり鬱蒼とした森が続いている。
『ぐあああッ!?』
「助けに……」
誰が話を聞くというのだ。
最弱が、ドラゴンが人間に襲われているから助けてくれと懇願して――
そんなの助けに行く義理も無い。
最悪のパターンとして、人間と協力してシュバルを討伐しようとするかもしれない。
「……」
結局、最後まで俺は食われずに済んだ。
あんな魚だけで――少しでも体力や魔力は回復できたんだろうか?
『ぐあああ!?』
シュバルの叫び声が響く――
俺は、決断した。




