6-7 ダンジョン総選挙・4
◆エルフ姫の牢獄
「ありがとうございます……黒竜は恐ろしいです。気を付けて下さいね」
桃色のドレスを着たエルフ姫。
にっこりと微笑み、鉄格子より手を握られる冒険者。
「は、はい! 俺、頑張ります!」
分かりやすくテンションがあがる冒険者。
「これは、ヤツのウロコと……ドラゴンのブレスを軽減できる巻物です」
「黒竜のウロコ!? それに、吐息庇護魔法まで……」
「奴のブレスは、この世のすべてを焼き尽くします。これがあれば、きっと――」
その時、冒険者の姿が光の粒子へと変わっていく。
「……時間のようです。どうか、お気を付けて」
「任せてください! あんなドラゴン、僕が絶対――」
◆
俺はイベントフロアのモンスター専用の隠し部屋(休憩所)で、牢屋の様子を伺っていた。
「上手くいってるようだね」
正直、ブレス対策配るのはどうかと思ったけど――
むしろシュバルが乗り気だったんだよな。
『すべてはダンジョンの……シュバル様のためだ』
「……エルさぁ、スリーピィもサキュバスって種族なんだし……その……」
『いつの間にか気安くなりましたね……いいですけど』
どさくさに紛れて呼び捨てにしちゃってるの、バレたか。
『分かってますよ。ああいう行動が、彼女らにとっての生存戦略であることは――』
「じゃあ――」
『それはそれとして。決着はつけなければなりません』
うーん、頑固者。
『それは向こうも同じはずです。白黒ハッキリと、序列をつけることが、魔界ではなによりも尊重されます』
画面の向こうでは、ふんすっ――といった感じで腕組みをしているエル。
「分かったよ」
俺は水晶を操作して、岩壁に映す部屋を切り替える。
「調子はどう? スリーピィ」
冒険者が来ていない合間を狙い、ゆったりと座れるソファに体育座りしているスリーピィ。
カメラの角度が上じゃなかったら、パンツが見えてそうだ。
「絶好調だよ~……って言いたいけど」
ヒラヒラした赤いドレスは、少し彼女にとって窮屈そうだ。
不満そうな顔で、こちらを見上げてくる。
「けど?」
「もう疲れた~……ひっきりなしに冒険者来るんだもん」
「でもまぁ。これでエルちゃんにも勝てるでしょ」
「スリーピィ、もしも勝ってもその……酷いことはしないでね?」
エルも演技として冒険者を気遣うことはできるが、あくまでお上品なお姫様キャラ。
こっちは自由奔放な、男性の心を奪うかのような立ち振る舞いができる。
送還された冒険者が、仲間へそのことを伝え、それが広まれば――どちらが優位か。
「うーん……まぁシュバルちゃんのしもべだし。これからのお付き合いを考えると、たしかにね~」
「そうそう。シュバルの顔も考えて、あまり変なことは――」
「じゃあ。裸になってダンジョン内を四つん這いになって徘徊で許してあげようかな!」
一切の悪意がない、満面の笑み。
う、うーん……これはやはり――最初の予定通りやるしかないか。
「その、お手柔らかにね……」
◆ ◆ ◆
『ここまで長い時間、よくぞ戦ったな……冒険者どもよ』
「ブラックドラゴン!」
「どこだ、どこから声が聞こえるんだ!?」
ダンジョン内では分かり難いが、夕暮れも近い時刻。
さっき外の映像も確認したけど――マッテン村の人らが、即席の屋台や休憩所を出している。
前もってそれとなくイベントのことを伝えておいた甲斐もあり、離脱する冒険者も少なく済んだ。
『どれ。直々に、我が相手をしてやろう……疲弊した貴様らを、一網打尽にしてくれよう』
「どこだブラックドラゴンめ! 姿を表せ!」
『いいだろう……ルオオッ』
突如、フロアの中央の床が崩れ――漆黒の巨体が姿を現した。
その黒き翼を羽ばたかせ、ダンジョンの内部を自由に飛び回る。
フロアに残っている冒険者は、総勢100人ほど。
割と残ってるな――
しかも、半数以上は例のブレス対策もしてある。
「出たぞみんな!」
「撃ち落とせ!」
魔力を帯びた矢、火球や氷のつぶて、雷撃など。
様々な攻撃が、シュバルの背中を掠める――
当然、そこに乗っている俺もギリギリ当たりそうになる。
「危ねッ!」
「スゥ――……カアッ!!」
一瞬のタメのあと、シュバルの吐息攻撃。
宙を飛ぶドラゴンより放たれた闇のような炎が、冒険者たちを焼き尽す――はずなんだけど。
「うわっ。ブレスだ!」
「発動せよ、吐息庇護魔法!」
冒険者たちは次々と光のオーラに覆われ、黒炎のブレスを遮断していく。
まるでノーダメージだ。
「ほぉ、ならばこれはどうだ――」
奥へと集結していたダンジョンモンスターたちの目の前へと降り立つシュバル。
「いくぞお前たち――ルゥ、ルオオオッ!」
その喉奥より遠吠えのような声が、フロア内に響き渡る。
まるで、開戦を告げるほら貝のように――
「あれ、これって」
俺の身体が、黒いオーラに覆われている。
ほかのモンスターたちも同様だ。
これは――
「竜魔法により、我が眷属たちは――」
「なんか知らねーが、集まってるなら好都合だ。お前ら!」
「おう!」
3人ほどの剣士が、その身体と剣に闘気と魔力をまとわせ、突っ込んできた。
『青天ウィンドソード!』
3人がまったく同じ技を繰り出す。
それらは相乗効果により、真空刃となってこちらへ向かって――
『ゴブッ!』
ゴブリン隊が5匹、仲間の足を持ってハシゴのような形態をとる。
それを――
「ふん、ふーん!」
ホブゴブリンが足を掴み、ぶんぶんとジャイアントスイングのように振り回す。
その回転速度はどんどんあがり、その速度は大気を切り裂くほどの黒い竜巻へと変貌する。
「バカな!?」
黒い竜巻は、冒険者たちの真空刃と衝突――!
バチィッ!
そのまま真空刃は打ち破られ、黒い竜巻は3人の冒険者を含め、その後ろにいた数名も巻き込んでしまう。
「ぎゃあああッ!?」
「なんだこれッ!?」
それはこっちも言いたい。
なにあれ!?
「これがボスの竜魔法。ブラック同じカマのメシでしたっけ?」
「黒竜領域<ブラックカースドメイン>だ」
「ぜんぜん合ってないじゃん!」
同じダンジョンの仲間全員に強化魔法をかけられる、みたいなもんなのかな。
これなら……俺もバトルでいいところないけど、これで頑張れる!
「ふん。あの邪竜の魔法か――冒険者どもよ、狼狽えるでないわ!」
下等モンスターであるゴブリンたちのパワーアップっぷりに、完全におよび腰になった冒険者たち。
その間より、チョビ髭の鎧騎士が前へ出てきた。
「ア、アンタはまさか……」
「我はアッサム王家に仕えし、由緒正しきロバート家が嫡男。ロバート=ガーナンである」
この地方の名前を冠した王家ってことはまさか――
「王都の騎士様!?」
「そうである。国の顧問占い師が悪しき竜の気配を感じ取り、こうして遠征して見れば――なんと! かつて地上を恐怖へと陥れた、ブラックドラゴンの生き残りとは!」
ガーナンは剣を引き抜く。
それは、複雑な紋章が刻まれた見るからに業物の剣。
「――なんたる行幸!」
剣が、青白い光に包まれる。
「これよりは我が指揮を執る。そこの槍を持つお前と、ハチマキのお前。名をなんという」
「カインだけど」
「俺はセシルだ」
最初にここへやってきたあの若い冒険者2人だ。
「黒竜の魔法は、我が聖なる剣技で弾き飛ばす。左右より、奴らに突貫せよ」
「なんだよいきなり!」
「よせ。奴らが、来るぞ!」
「面白い――いくぞ、ニンゲン共!」
『オオオオッ!!』
こうなりゃ、俺も気合入れていくぞ!
「うおおおおおッ!」
全身にシュバルの魔力を感じる。
土ぼこりをあげながら全力で走っても、ぜんぜん疲れない。
いける――
「喰らえ。ボルパァンチ!!」
「貫け我が槍――レイジング、スピラッ!」
カインの光槍が俺に迫る。
なんの、この徒手空拳スキル強化の入ったパンチならこんな槍――
ズブッ。
「……ぐふ」
槍ごと弾けるなんてことはなく。
普通に貫かれたのであった。
6回目死亡――




