5-5 広告料、いただきます
「――シローさんに頼まれて調べた結果、およそシュバル様が通っていた50年前より――ブラックドラゴンが出演されたCMをいくつも流していますね」
「本人にも確認して貰った。アレは幻影でもなんでもなく、シュバル本人だって!」
「えー?」
とぼけているのか、愛らしいボルのボディを横へ揺らすクイーン。
「でも夢の中で~。CMで使っていい? って聞いたら『イイヨ』って言ってくれたよ?」
「このように契約書もございます」
青髪のサキュバスは、秘書なのだろうか。
魔法で出した古びた紙に書かれた契約書には、たしかにシュバルの名前はある。
「いいや……竜との正式な契約には、それは通用しないよ。そんなの、クイーンなら知ってるんじゃないの?」
正式な契約には、その確固たる証明『竜の魔力』による刻印が必要なのだ。
当然。この契約書にはサインの記載のみ――というか、本人が書いたかどうかさえ不明瞭だ。
「うふふーそうねー」
クイーンは、クルっと一回転すると同時に元の少女のへと戻る。
「まぁ口約束みたいなもんだけどー。それでもドラゴンってプライドがあるからねー」
「そんなの知らないよ。とにかく――正式に契約して貰うよ」
「はえ?」
これにはクイーンも想像してなかったのだろう。
きょとんとした可愛らしい顔をしている。
「フェルネ」
「眠りの塔マスター、スリーピィ様。この契約は、こちらのダンジョンへのCM出演を認可するものになっております。ただし――」
用意してきた新しい契約書の内容を、分かりやすく説明してくれるフェルネ。
「1回の出演につきギャラとして金貨100枚。CMの配信のたびに、ロイヤリティとして銀貨1000枚をいただきます。
加えて、契約が締結された時点で、過去すべての出演、配信にも適用されます。
「50年分の出演料と配信料――全額まるっと一括で払ってもらうよ」
クイーンの前に、請求金額の明細を出した。
「うーん――」
フェルネには過去のCM出演、配信の履歴を。
俺は、ギュスター商会に取り寄せて貰った大量の資料(眠りの塔の年間売り上げなど)を使い計算。恐らく資産として持ってるだろう金額をはじき出した。
そこまで法外の値段じゃない。
でも決して小さい額でもない。
「どうしようかな~?」
迷惑客を即断で処理すると決めたクイーンが、少し迷った素振りをしている。
ドラゴンの広告による効果は――やはり思っている以上に効果があるのだろう。
だからこそ、本命の一手が刺さるはずだ。
「そこで……ここだけのお話があるんです」
「なぁに?」
「これまでの請求金額を、ぜんぶチャラにできる――お得なお話です」
「ふんふん。聞くだけ聞くよ?」
「――この眠りの塔。冒険者向けのサービスを、1か月だけ営業停止にしてください」
「ん?」
「はい?」
クイーンだけでなく、周囲のサキュバスたちも目が点になっている。
「そして、当面の間は……黒の迷宮に出張所を作って貰いたいです」
これが、俺の考えだした逆転の作戦――2つあるうちの、1つだ。
「おもしろいこというね~、シローくん」
「そんな要求、飲めるワケありません。ここで金だけ払った方がまだマシです」
「この条件を飲んでくれるなら……ここからのシュバルのCM出演はギャラだけでいいよ。ロイヤリティはナシでいい」
「それでも――!」
「あれあれ? いいのかなー。もうシュバルはここに遊びに来ないし、ブラックドラゴンとの貴重な縁を、君の意見なんかでフイにしちゃっても?」
ワザと小憎らしい態度をとる。
こちらとしても、この件でちょっとは怒っているところをアピールしなくては。
「さぁクイーン。どうする?」
「――なるほどね」
思案しているような、なにも考えていないような顔だが――
「あのグリュウとのダンジョン勝負。そういった作戦でやるんだね」
「な――」
グリュウに勝負を挑まれてからまだ数日も経ってない。
黒の迷宮のメンバーには伝えてあるが、決してダンジョン外には漏らしてはいけないと、エルに頼んでお願いして貰った。
エル推しのみんなが、そのことを破るとは思えない。
なのに、もうそのことを知ってるとは――クイーンの情報網、恐るべし。
「昨日、そこのスケサンが喋ってたよ」
「うん? おう。酒の勢いで全部ゲロっちまったぜ――いやぁ、サキュバスは恐ろしカワイイなぁ」
またお前か、この骨!
「だからねー。みんなと一緒に、シュバルちゃんとシローくんが来たら、どんな要求してくるか話してたんだよねー」
「ダンジョンモンスターの慰安にサキュバス貸し出せ11票。眠りの塔のサービスをタダで受けさせろ14票。クイーンとヤらせろ33票でしたね」
どんな投票やってんだよ。
「それでね。どんな要求を出してきても――こっちの条件を2つクリアしたら、受けてあげようかなって結論がでたの」
「本当!? 条件ってのは?」
逆に、これは骨のファインプレーか。
向こうに考えさせる時間を作ったおかげで、当日の交渉がスムーズにいったと考え――この骨がそこまで考えたか?
間抜けな面でワインをグビグビ飲む骨を見て――ないな、と心の内で断定する。
「1つは――えいっ」
可愛らしい声と共に。
格闘技の技で言うならば、手刀。
これにより――俺の視界は、左右別々に切り裂かれたのであった。
「あ?」
5回目の死亡――と、同時に俺の視界はブラックアウトした。




