4-6 碧竜
「よーし、みんなー飲んでるかー!」
『おー!』
ここはダンジョンにある転送魔法陣から直通で繋がっているミッテルガルズ・スタオーの町。
そこにある『妖魔の酒場』というお店だ。
「あらー? ボルちゃんもお酒飲むのかしらぁ」
「カワイイーよねー。この弱いのに背伸びして生きてるところとかさー」
微妙にひっかかる物言いだが、今日はなんでも許しちゃう気分だ。
なにせ、サキュバスのお姉さん方の――柔らかいお膝に乗せて貰ってるのだ。
店員へのお触りは厳禁だが、向こうから触ってくる分には全然OK。
「ぼく、シローって言いますー!」
「なにぶってんだよ~」
「たまにはいいだろー!」
とかまぁそんな良い感じで楽しんでいたのだが。
「ハッ! ボル風情が、なに鼻の下のばしてんだよ」
お姉さんたちを俺に取られたせいで、仲間だけで酒を飲んでいるモンスター3人組だ。
リザードマン(トカゲ男)が2匹と――人間にしか見えない屈強で汗臭そうな男。
しかし耳がとがっているので、魔族かなにかかな?
「ごめんなさいねー。ぼくがかわいいせいで……」
身体全体をモキュッと傾けるだけで、黄色い声がまた上がる。
ふんふん――このマスコットみたいな見た目も、女性受けがいいのは良い収穫だ。
「アニキ! あんなザコ、ここでシメちゃいましょうよ!」
「そうですぜ。ありゃケンカ売ってますよ!」
なんか物騒なこと言い始めたが、
「バカ野郎。お店に迷惑がかかるだろうが」
意外と理性的だ。
脳みそまで筋肉で出来てそうなゴリラ顔なのに。
「――あっ、じゃあ……お詫びに、このお酒を奢ってあげるね」
「ほぉ」
そう言って彼らのテーブルまで行って、酒瓶を1本置いたのだが――
ゴリラ男はそのギラッとした目を、ニヤリと歪めた。
「そりゃ悪いな、気を使って貰って――なっ」
あろうことか、酒瓶のフタを開けると――全部俺の頭にぶっかけやがった。
「うわっ、もったいな……」
ドンッと開いた酒瓶をテーブルに置き、ゴリラ男は顔面を近づけてきた。
「このグリュウ様に奢ろうたぁ、いい度胸だなぁ?」
「やっちまってください兄貴!」
割と本当に申し訳ないと思って奢ったんだけどなぁ――
「おいおい――どうしたんだよぉ、シロー」
そんな一触即発な雰囲気が漂う中、ジョッキを片手にこっちまでやってきたスケサン。
なんか硬い骨が蕩けたようにグネグネしてる。
酔ってんな、コイツ。
「ああ? お前のツレか?」
「ツレっていうか、先輩だな!」
「おおそうかい。じゃあ後輩の躾は――お前の責任だな」
「コイツがなんか失礼なこと言っちまったか。そりゃすまなかったなーゴリラ獣人さんよ」
一瞬の間。
後ろの2匹が、変温動物なのに表情が青ざめている。
「誰が、ゴリラだって……?」
「きっとオヤツのバナナが足りてないだろ。お姉さん、コイツにバナナご馳走してやって――」
「この誇り高きグリーンドラゴンのグリュウ様の、どこがゴリラだって!?」
「抑えて、抑えてアニキ!」
「人化、ここで解くのはマズいですよ!」
「てめぇらはどこのもんだ!!」
「ふっ――泣く子も黙る、ブラックドラゴン。シュバルの片腕!」
スケサンは両手を構え、歌舞伎役者のような大見得を切る。
「あっ、スケルトンナイトのスケサンとは、オレ様のことよぉ~!」
「ブラック……」
「ドラゴン……?」
リザードマン2匹が顔を見合わせ、首を傾げる。
するとゴリラ――もとい怒り狂ってたグリュウが、突然大笑いを上げる。
「がっはっはははッ!」
「むっ?」
「なんだお前ら――あの泣き虫シュバルんとこのモンスターかよ!」
「……泣き虫?」
今度は俺が首を傾げる番だった。




