4-3 ダンジョン側:バックヤード
『ダンジョン入り口の監視より、冒険者3名が入り口に入った模様』
冒険者は村からは獣道にも近いところを通ってくる。
だから整備まではいかなくても、それとなく通りやすくしておいた。
そしてダンジョン入り口には、利用した後に見える小細工をした休憩所――
ちょっと怪しい魔動自販機だが、モンスターが運営しているなんて、人間側は少しも思ってない。
手持ちの保存食は、食べ飽きているラインアップ。
晩に食べたあの美味しい料理の数々――酒場の店主の名を出せば、期待値は勝手に上がるというワケだ。
『ゴ注文、ウケタマワリマシタ。少々、オマチクダサイ』
カラッカラッという鳴子の音。
魔動自販機――なんていかにも魔力で動いてそうだが、実はかなりアナログだ。
ボタンを押せば、糸を通じて商品名の書かれた鳴子が音で知らせる。
「はいよ、卵焼きねー」
厨房にいるローパー族のヌメルン(♀・人間換算35歳)は、その多数ある触手でフライパンを器用に動かして、卵液を少しずつ流しながら卵焼きを作っている。
彼女は普段、その自由自在に動く触手を使ってみんなの料理を作っている。
「さすがヌメルンさん。少し教えただけで、もうここまで作れるなんて」
「いやだねぇ。こんなオバサン褒めても、なにも出ないわよ」
出来上がった卵焼きは紙の容器に入れられ、厨房から自販機までベルトコンベアで繋がっていて、自動で運ばれる――ここだけが魔動だ。
少し間を空けてから、さらに追加注文が入る。
「じゃあ、ここは任せたね!」
「はいはい~」
◆ ◆ ◆
「じゃあ、これとこれ。チリる前に身体から離すの忘れないように」
「ブヒ……」
通路でダンジョン徘徊予定の若いオーク(♂・シシオ)へ、切断された牙と麻袋を手渡す。
袋の中身は銅貨2枚ほど。
「複雑な気分ブヒ。わざわざ同族の牙を渡して、お金も落とすなんて……」
「分かる。分かるけど、これも冒険者を呼び込むためなんだ」
「ブヒ……分かったよ」
スケサン首謀によるスト事件。
昨日、俺をボコったおかげか。
あるいは、スケサンが一応フォローしてくれたのか――
渋々ながらも、みんなは俺の言うことは聞いてくれている。
「じゃあ、行ってくるブヒ」
「頑張ってね~」
俺は彼を見送り、一旦ダンジョン本部へと向かった。
◆ ◆ ◆
「……冒険者の様子はどんな感じ?」
「ポム(おう。順調に進んでいるようだ……)」
いくつもある水晶玉から投影された映像は、このダンジョンの内部を映し出している。
このダンジョンの構成は、元々は地上1階から地下4階(地下5階はモンスター専用フロア)まで。
しかしこれは、ブラックドラゴンであるシュバルの出入りがしやすいよう天井を高めに造ってあった。
なのでこれを分割。
地下は10階まで作成可能になったのだが――ここで大きな問題点がある。
そんな深いダンジョンへ潜ってくれる冒険者は、どれだけいるのか。
たった2か月でランキング1位を目指さないといけない。
それには、ダンジョンへの強い“引き”が必要なのだ。
簡単に踏破されては、冒険者は何度も来てくれない。
だからといって無暗に難易度は上げたくない。
そこで採用したのが、不思議のダンジョンと劇場型ダンジョン。
地下4階はそのままに、床下から壁が上がったり下がったりしてダンジョンの形をリアルタイムでも変更が可能になっている。
これで簡単には踏破されず、さらに明確な目的を与えることで冒険者にはリピーターになって貰うのだ。
そんな設計思想を思い起こしながら映像を眺めていると――
目標が地下2階中盤へと差し掛かっている。
「エルさん。初回だし、この冒険者は地下3階まで通したいんだ……準備はいい?」
『あー、あー。うん――わ、わたしはエルフの姫……』
台本を片手に練習しているようだ。
『ひ、姫って……この設定、どうにかならなかったの?』
「ファンタジーの王道! 魔王やドラゴンに攫われたお姫様ってのは基本なんだ! 誰だって英雄や勇者って呼ばれたいし、ここが正念場だよ!」
映像では牢屋に囚われたエルフのプリンセス役となったエルが、若干渋い顔をしながらも頷く様子が見える。
『わ、分かった……』
それから数十分後に、この牢屋へ3人組の冒険者たちがやってきた。
台本通りのやり取りを行ってから、冒険者たちは意気揚々と部屋を出て行く。
この地下3階フロアには、謎解きが必要な3種の伝説の武器が置いてある。
謎って言っても、同時に同じ角度に回る石像の向きを揃えたりとか、RPGでよくあるギミックをそのまま流用してる。
さらに伝説の武器は、ギュスター商会で用意して貰ったドラゴンキラー武器だ。
それっぽい名前を彫ってる。元ネタは全部ファ〇ナル〇ァンタジーだ。
……こっちの世界じゃバレないでしょ。
「ああ! そのスイッチはそこじゃなくて……もどかしいなぁ」
「ポム!(さっきもそれ同じことやったじゃねーか!)」
◆ ◆ ◆
こちらで用意した簡易休憩所を利用しながらも、彼らは最奥の部屋へと向かっているようだ。
「シュバル。そろそろ出番だよ」
『了解した』
「武器は本物だから、痛いとは思うけど……」
『すべては我らの目的のためだ。それに傷はすべて、ダンジョンの魔力が癒してくれる』
『おい、シロー! なんでオレが“無残にもやられてしまった冒険者の亡骸”なんだよ!』
同じ部屋で待機してる――というより、寝っ転がっているだけのスケサン。
「いいじゃん。寝てるだけで楽で」
『エルちゃんなんかお姫様だろ? オレもこう、ビシッとカッコイイ役がやりてーよ』
「あっ、扉の前に来たよ」
「ポム(魔動点火装置、スイッチオン)」
冒険者たちが重々しい扉を開き――等間隔へと並べられた松明に、青白い炎が灯る。
『お前が、このダンジョンのボスだな』
『いかにも――我はブラックドラゴン、シュバルだ』
ここからのバトルは――本当に筆舌に尽くしがたいものだった。
常にシュバルが優位を取っているものの、ドラゴンキラー武器は本物なのだ。
肩が貫かれ、ウロコが散らばる――
画面越しでも、痛々しさが伝わってくる。
(痛いよなぁ……ごめんよシュバル)
予定通り、シュバルは冒険者たちを退け――
伝説の武器に施してた魔法文字の魔法を起動する。
これは記したアイテムを、所有者の下へ回収できる魔法、らしい。
「ポム(奈落落下装置、スイッチオン)」
シュバルの巨体は深い闇の底へと落ちていった。
ちなみに。仮に冒険者がこのまま後追いして落下したとしても、地上へ強制送還される魔法陣が設置してある。
冒険者たちは――挑発的な文章が刻まれた魔法陣を利用して、ダンジョン外へと帰還していった。
「……なんとか終わった」
俺は、深い息を吐くのであった。




