3-2 ダンジョン講習会
ダンジョン改装前に、まず知識が必要だ。
俺はシュバル、そしてボル班のみんなと一緒に並んで、フェルネの講義を受ける。
エルと違ってお胸は小さいが、どこからか取り出した眼鏡を掛けると――魅力度が増してイイ!
「では、ランキング上位を目指されるということなので――改めてランキングシステムについてご説明させていただきますね」
「お願いします!」
水晶玉から壁へと映像が投影される。
簡単なイラスト付きで、ランキングの説明が書かれている。
「ランキングは『魔界』と『人間界』で区別され、さらに人間界でも『世界』『大陸』『地方』の3種類に分かれます」
「今回、目指すのは地方ランキング……区分が下で助かった」
「そう甘い話ではありません」
画面が切り替わる。
これは――この辺の地図っぽい。
「このアッサム地方、人間界でも第2位を誇る人気ダンジョンスポットなのです」
壁に投影されたのは、このアッサム地方を含んだチャコー大陸の地図だ。
黄色の丸がダンジョンの場所――さらに上位ダンジョンは、赤色で示されている。
一目で分かるほどに、このアッサム地方に集中している。
「このアッサム地方は、都からの距離で4つのエリアに分けられています」
フェルネが順番に指し示す。
・人間たちの住む都から、馬車で半日圏内が1丁目
・それより外、1日から3日以内圏内が2丁目
・遠征確定。片道1週間はかかる3丁目
・ほぼ別地方。広大な山や森、海まで含まれる4丁目
「ポム!(3丁目が、ここのダンジョンあるところだよねぇ)」
「……御覧の通り、必ずしも都に近い1丁目に、上位が集中しているワケではありません。ですが――」
「交通の便が良い、街道沿いからちょっと入った所とか多いよねー」
それでも集落すら無いような場所にも、ダンジョンは存在するようだ。
となれば、何かしらのやりようはあるはず。
地図を詳しく見てみると、色んな立地のダンジョンがある。
湖の真ん中にある洞窟、山の頂上からそびえ立つ塔、荒野にポツンとある穴が入り口――
町の中心にあるダンジョンとか、どうやってモンスターは出入りしてんだろ。
「それは転送魔法陣ですね。他に拠点があり、そこから飛ぶワケですが……割と維持費がお高いので、このダンジョンのように裏口作る方も多いですよ」
「ポム……(使ったことあるがぁ……転送酔いが酷かった記憶しかないなぁ……)」
「では、次に黒の迷宮周辺の現在です」
映像は拡大され、このダンジョンの周囲のみをクローズアップする。
山が多く、平地も森や荒れた土地などで、ダンジョンへの道は……獣道より若干マシ程度。
通りやすいのは、定期便の出てる村と村を繋ぐ道くらいか。
「数は少ないですが、この黒の迷宮周囲にもダンジョンは点在します……昨日来たという冒険者も、近場の村を拠点にしてるみたいですねぇ」
「周囲のダンジョンのランキングは?」
「47位『獣人館』、66位『深奥の闇』、82位『沼地の洞窟』……」
中堅だが、三桁のこっちからして見れば、どれもライバルとして強力な相手だ。
しかし、次にフェルネの出してきた順位――
「そして4位『眠りの塔』です」
「ぶっ――なんだそりゃ!?」
その順位に驚くしかなかった――
マップを見れば、この山の反対側にある塔のようだ。
村から出発すれば、どっちも同じくらいの時間で到着できる。
「な、なんでそんな上位ダンジョンが、近所にあるんだよ!?」
「どっちかと言えばぁ……そんなダンジョンが近所にあるのに、ここへ建てることを決めた方に聞かれたほうが……」
フェルネの視線が、俺の隣――つまりは、シュバルへと注がれる。
俺も思わず、隣の黒龍を見上げた。
「なんで?」
「最近、不安で夢見が悪くてな……たまに行くこと考えれば、近い方が便利だと思い……」
「ああ。この『眠りの塔』は冒険者向けとは別に、他のモンスターさん向けに安眠サービスもやってましたねぇ」
ストレスかかるのは分かるけど、商売敵の店に通うために、近所に建てるとかさぁ――
「夢魔さん――つまりサキュバスさんのエッチな夢は、特に男性に大人気ですよね~」
「おいシュバル」
「い、いや……別にそんな夢ばかりを見せて貰ってるワケでは……」
気まずそうに顔を逸らすシュバル。
「そうだ。同じ客には、他のダンジョンマスターもいる。意見交換というやつだ」
「へー」
見苦しい言い訳すぎる。
もしかして冒険者の男連中も、ダンジョン攻略よりそっち目的で通ってるんじゃ……。
――続いてフェルネには、ランキングについても説明してもらう。
「ランキングは冒険者の来訪数、滞在時間、獲得魔力や精気、サービス利用料等を合わせたダンジョンポイント(通称DP)の数値で、毎週始めに更新されます」
そして――と注訳をつけるフェルネ。
「モンスターのみなさんが利用されるサービスも、しっかりカウントされてます」
「おいシュバル」
「――分かった。ダンジョンが完成し、ランキングは1位を取るまでは利用しない」
こりゃ、1位取ったらまた行きそうだな――
……去勢されるかどうかの瀬戸際だというのに。
「ちなみに1位の『黄金の軌跡』は週平均12万DPほど稼いでいます」
「ウチは?」
「黒の迷宮は……週平均300ほどですね」
ざっと400倍――
遠いなぁ。
「でもまぁ、ダンジョン経営だけじゃないんだね」
「意外と副業で稼いでいらっしゃるダンジョンマスターも多いですよ」
自分の改装案のマップにバツや、メモを書き込んでいく。
「あくまで、ダンジョン内で稼いだのが対象ってことでいいんだよね」
「そうです」
続いて、禁止事項の話に移っていく――
「無理な冒険者引きや、誘拐した人間を無理矢理ダンジョンの中へ幽閉するのは、ダンジョン協会規定で禁止されています」
(禁止されているってことは、昔実際あったんだろうな……)
「――詳しくは、こちらのルールブックをご覧ください」
そこそこ太い本を手渡される。
フェルネがさっき解説してくれた内容と、禁止事項についても色々書かれている。
要約すると――
ダンジョン外では、冒険者への直接的な接触は禁止。
他ダンジョンへの道を封鎖するなど、ライバルへの妨害禁止。
ライバルダンジョンへ侵入、めちゃくちゃにするのも禁止。
それ以外は大体自由。
「ここだけの話になりますけど……罰則もあっても、すべてを取り締まるのは不可能に近いのです。特に郊外ともなれば……」
目の届かない場所で、禁止行為を堂々とやってるマスターもいると。
これもまぁ――予想通り。
ルールがあれば、それをなんとかしてすり抜けようとするのは、現代でもよくあることだ。
「以上、初心者マスター向けダンジョン講座でした♪」
「ふーむ――ひとまず決まったね」
ダンジョンの大幅改装。
これが特急料金を加算しても1週間掛かるらしい。
――凄い早いな。さすが魔界随一の大工さんの仕事だ。
「勝負は1週間後――だけど、準備は色々ある」
「どこから手を付けるのだ」
「ポム!(班長、いつでも言ってください!)」
「まずは――近隣の村からだ!」
そう宣言すると、シュバルとボル班のみんなは首を、同じ方向へ傾げた。
「なるほど……勇者を仕留めるには、まず故郷を焼けと言いますもんね」
フェルネが納得したように頷いている――
たぶん、日本の『将を射んとする者はまず馬を射よ』という意味なんだろうけど、物騒だなぁ。
でも、意図は通じているようだ。
「ふふふ……さすがギュスター商会さんだね」
「フフフ……お金さえ頂ければ、どんなものでもご準備しますよ」
「じゃあ、早速で悪いけどこれと、これを――」
「村人への根回しはお任せください――」
ついに営巣担当となった俺が、動き出す!




