2-5 敗北者は、チリとなり消える
それから数時間後――
ついにその時は来た。
ピンポンパンポーン↑
『全モンスターへ通達。冒険者来襲、冒険者来襲。数は2人。直ちに配置についてください――』
「よーし。全員整列だ!」
『ポム!(イエッサー!)』
この空いた時間、ただ漫然と過ごしていたわけじゃない。
挨拶から戦う前のポージング指導。
敵との戦い方をシミュレーション――
完璧には程遠いが、それでもなんとか形にはなったはず。
ガチャッ――とドアが開く。
「ボルの皆さん、準備はできていますか」
「エルさん! こっちは大丈夫だけど――どこから出勤したらいいんだ?」
「そこにダンジョンの配置場所へ一瞬で跳べる、魔道装置があります」
ああ――その壁に埋め込まれた掃除ロッカーみたいなやつ。
5つ並んでいるが、これがそうだったのか。
「中に入ってスイッチを押すだけで、瞬時に移動できます」
「魔法でダンジョン内移動とか――異世界っぽくてイイネ!」
早速、中へと入って――壁にあったスイッチを押す。
「……あれ、何も起こら――うわっ!?」
――突如天井が開き、黒い穴が出現する。
ブオオオ――!
まるで掃除機に吸引されるゴミのように……俺は身体ごと吸い込まれた。
「移動って、こんなやり方かよ!!」
しばらく狭いパイプの中を通ったかと思えば――
雑に硬い地面へと叩き落された。
「ぐえっ――」
周囲には、やはり同じように転がっているメンバーたち。
『冒険者たちはダンジョンへ到達した模様――現在1階の入り口付近。ボル班は冒険者へ威力偵察を行ってください』
威力偵察――
つまり冒険者へ攻撃を仕掛けて、その実力のほどを見極めろというわけだ。
「よーし。たしか、マップじゃこの通路と入り口は繋がっていたはず――全員、武器は持ったな!」
『ポム!(持ちました!)』
各メンバーの小さな手には、木製の槍が握られていた。
刃先も黒曜石を削ったような、原始的なものだが――逆に軽くて扱いやすい。
「村でドラゴンを見たっていう話、本当かな? 山奥に降り立つのを見たって爺さん言ってたけど」
「……そんな場所にダンジョン……匂うね」
そんな話をしながら歩いて来たのは、若い男女の冒険者。
男は前衛なのかレザーアーマーに、鉄製の剣。
女は後衛。魔法使いのような服装に、杖を持っている。
「来たぞみんな……フォーメーション、カーフポジション!」
『ポム!(イエッサー!)』
これが俺が考案した――名付けて槍カーフ戦術。
ボルは手足が短い=間合いが狭い。
話を聞けば、他の現場では棍棒やナイフで戦っていたと――
それでは、返り討ちにあって当然だ。
「うわ。このポム、槍なんか持ってるぞ!」
「かわいい~」
「油断するな――君は少し後ろに下がって」
『ポム、ポム、ポム!(せい、やー、せい!)』
こうやって距離を取り、足元――ふくらはぎなどを狙う。
もしブーツやグリーブ(鎧の足部分)を履いていても、遥か低い位置から繰り出される攻撃に――冒険者の注意は自然と下へ向く。
「新スキルの隠密……さっそく使って奇襲だ」
今、俺は――天井にしがみつきながら冒険者たちの頭上にいた。
しょんべんを引っかけるしかなかった、あの時(2日前)の俺とは違う――
暗殺者のようにナイフを持ち、まずは後衛である女魔法使いを狙う――!
「面倒だ――北斗一刀流……」
剣を構え、女は即座に男の背後へ近寄る。
「青天ウィンドソード!!」
剣から発せられた竜巻のような衝撃破は――通路を埋め尽くす。
「ポム!?(やば――!?)」
男の側にいた女を除き、すべての物体を切り裂いた。
もちろん、その場にいたボルたちも全員。
飛びかかっていた俺も、攻撃の範囲内だ。
「嘘ッ!?」
衝撃波が収まると――そこには、ボロボロになったボルたちの姿があった。
全員、黒いチリとなって霧散していく――
「クソ……必殺剣的なのとか、ズルい……」
この間の鎧騎士も使ってたが、どうやらアレが特別なわけでないようだ。
「さっすがレイン! 一撃じゃん!」
「――先はどうなってるか分からない。気を付けていくぞ」
「はーい」
二人の冒険者の背中を見送りながら――
ボロボロになった俺の身体もまた、チリとなって消えるのであった――




