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異世界サークルの強さ

大地は作った弓矢と機械式バリスタをセットし、遠距離から支援射撃。

「狙いは脚と頭部……ここで精度を出せば動きを鈍らせられるっしょ」

矢が命中し、ミノタウロスがうめき声をあげて前傾姿勢を崩す。


咲希は水筒の水を手に取り、ウォーターカッターを放つ。

「怖いけど…くらえっ!」

離れたところから鋭く斬る水刃が大地の矢が刺さったミノタウロスの足に直撃し、鱗に深い傷を残す。攻撃回数は限られるが、確実に効果を出せる。

「やった、これで動きは遅くなったでしょ」

次の攻撃チャンスを狙って咲希は水筒を握りしめた。


ルカは牙をむき、ミノタウロスの脚に噛みつき攻撃力を発揮する。

ニューは素早く接近し、鋭い爪で横から切り裂く。

「うまく連携できれば、相手も動きにくくなるはず!」

みことが指示を出しながら、二匹に攻撃順序を指示する。


そんな二匹の召喚獣にミノタウロスは雄たけびを上げながら踏みつけようとするが、二匹の俊敏さに翻弄されている。しかし、ルカとニューにも余裕があるわけではない。

もし踏みつけられれば間違いなく大けがを負ってしまうし、下手すると死んでしまうだろう。

そんな薄氷の上を歩くかのような攻防の中、二匹の召喚獣は主人のために走り回っていた。


ミュウは体当たりと酸の遠距離攻撃で足止め役。

「大したダメージはないかもだけど、行動阻害には使える!」

敵の攻撃の間合いを調整し、悠真が斬り込むチャンスを作る。


真白は回復魔法と簡易バリアで仲間を守る。

「少しでも、これで前衛を支えられます」

攻撃を受けた悠真をバリアで包み込み、戦闘継続を可能にする。



ミノタウロスは怒りを増し、後方の木を薙ぎ倒して攻撃してくる。

悠真が斧で迎撃しつつ、大地がバリスタから連射矢を放つ。

「こっちも負けられない!」

咲希が水刃を素早く放ち、ルカとニューが横合いから追撃。


何度かの攻防を繰り返し、ようやくミノタウロスが両手を地面についた。露わになった首筋に、悠真の斧が鱗の隙間を捉え、深く切り裂く。大地の矢が続き、咲希のウォーターカッターが止めを刺す。

ミノタウロスはうめき声を上げ、力尽きて森の地面に倒れた。



「ふぅ……やっとだ」

悠真は斧を肩にかけ、息を整える。

大地はナイフで傷を修正しながら、倒れたミノタウロスの牙や鱗を観察。

「これで新たな素材も手に入る……戦力アップもさらに進むな」


みことはニューとルカを呼び寄せ、背中を撫でて労をねぎらう。

茂もミュウを抱き寄せ、撫でてあげる。ミュウは嬉しそうにフルフル震えている。

真白は回復魔法でみんなの傷を治して回る。


六人と三匹のモンスターは、初めての大型モンスター、ミノタウロスの討伐を終え、確かな手応えと自信を手に入れた。




濃い血の匂いが漂う戦場に、ようやく静寂が戻った。

ミノタウロスの巨体は地面に横たわり、戦闘の余韻はまだ肌を刺すほどに濃い。


「……終わった、んだよね?」


咲希が震える声で呟く。

真白がみんなの軽い傷を確認し、順番に回復魔法をかける。


悠真は大地の肩をぽんと叩いた。


「お前のバリスタ、効いたじゃん。最後の一撃、いい感じだったぞ」


「いや……みんなのおかげだよ。俺ひとりじゃ絶対に死んでた」


笑い合う空気が、ようやく生還したことを実感させてくれる。


「とりあえずホームに戻ろう。今日は肉体的にも精神的にもみんなも疲れているだろう?」

悠真の提案に反対するものは一人もいなかった。


ホームに向かう途中の道でみことが何かの音を聞き取った。


「……みんな、待って。なんか、いる」


みことの耳がぴくりと動く。彼女の召喚した猫型モンスター〈シア〉も、草むらの方をじっと見つめていた。


その方向から──

小さく、くぐもった鳴き声。


「……ん、モォ……」


「この声……牛?」


咲希が眉を寄せる。


茂が慎重に茂みをかき分けた。


するとそこには──

体長50センチほどの、ミノタウロスの子ども。

二足歩行で、まだ角は短く、ふらふらと足元が覚束ない。


「え……赤ちゃん……?」


真白が息を呑む。


ミノタウロスの巨体とは似ても似つかないほど、小さくて、震えていて、必死に親の姿を探している。


茂は思わず膝をついた。


「あ……これ、親を探して……」


ミノタウロスが巨木に向かってきた理由が、一瞬で理解できた。


──この子どもを追いかけて、必死に、ただただ助けに来ただけだったのだ。


胸の奥に罪悪感が刺さる。


茂はそっと手を伸ばした。

スライムのミュウも静かに寄り添うようにぷるぷる震える。


「怖かったんだよな……大丈夫、大丈夫だから」


子ミノタウロスは警戒心を見せるが、茂の手の匂いを嗅ぐと、ぽすん……と小さく体重を預けてきた。


その瞬間──


光が走る。


「え、テイム……?」


みことが目を丸くする。


茂の胸元で、テイム成功の証に小さな光の紋様が淡く輝いていた。


「……テイムできちゃった」


茂は苦笑しながら子ミノタウロスを抱き上げる。


「でも……この子、一人じゃ生きていけないし。僕が責任取るよ」


悠真が大きくため息をついた。


「はあ……仕方ねぇか。連れて帰ろう」


「きちんと育てなさいよ?」

咲希が頬をつつきながら釘を刺す。


「もちろん!」


「名前は?」とみこと。


茂は腕の中の子供を見つめた。

黒いふわふわの体毛と、つぶらな瞳。


「……じゃあ、モコ。

もこもこしてるから」


「安直すぎない!?…でもかわいいからいいのかな」

咲希が即ツッコミを入れる。


だが子ミノタウロス──モコは嬉しそうに「ンモォ!」と鳴いた。


巨木のホームに戻ると、皆はどっと座り込んだ。

真白が温かいハーブティーを淹れ、みことがモンスター肉をスライスし、悠真と大地が火を起こす。


「今回……危なかったですね」

真白がぽつりと言う。


「危なかったどころじゃないな。あれは、本気で死ぬかと思った」

悠真が苦笑しながら肉を焼く。


真白が腕を組んで反省点を並べる。

「・索敵不足

・ミノタウロスの行動理由の見落とし

・攻撃の威力と速度の想定外」


みことが続ける。

「でも、倒せたわ。みんな成長してるってことよ」


茂はモコにミルク代わりの果汁を飲ませながら言う。


「俺たち、やっぱもっと賢く戦わないとだね。モンスターにも理由があるって、今日分かったよ」


「そうだな。でもだからと言ってやられるわけにはいかないけどな」

悠真がうなずく。


「まぁまぁ、今日も無事ここに帰ってこられたわけだし……ちょっとくらい祝ってもいいんじゃないかな」

咲希の提案で軽くパーティをすることにする。


焼けたステーキからジューッと脂が落ちる音。

果物の甘い香り。

ハーブティーのやわらかな湯気。


小さなパーティが始まった。


「今回のMVPは大地だよね」

茂が言う。


「おっ茂もそう思うか?さすが俺だねぇ」

大地が茶化していう。


「おーい自分で言っちゃうのかーい。

咲希がつっこみを入れる。


「でもこうして異世界で生活できて、みんな確実に強くなっている」

悠真の言葉に真白が続ける。

「そうですね。生活基盤もしっかりしてきましたし、順調に異世界生活を送れているのではないでしょうか」


「あとは服とお風呂とお布団と……まだまだ欲しいものはいっぱいだけどね」

「そうね。ジャージと制服を着回してるのはやはり問題よね。どこかに服の買える町がないかしら」

咲希とみことのつぶやきに皆が同意してしまう。


「モンスターの皮をなめしたものがあるから、貫頭衣ぐらいならすぐ作れると思うけど」

「そんな獣臭い服だけじゃヤダー」

大地の言葉に咲希の絶叫がこだました。


思わずみんなの笑い声が巨木の内部に響いた。


死の恐怖に染まった昼が、

こうして少しずつ、ぬるい幸福へと溶けていく。


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