異世界サークルの能力
「わぁ、異世界パーティーの夢が広がるね!」
咲希が目を輝かせる。
「でも……現実に能力が手に入ったら、俺たち本当に最強チームだよね」
悠真がつぶやくと、真白は軽く笑った。
「ねぇねぇ、想像してみてよ」
大地が目を輝かせて煽る。
「悠真が前衛で敵と戦って、咲希が火球で援護、俺は遠距離支援で狩猟担当、茂はスライムで後方支援、真白は回復と植物操作、みことがドラゴンを召喚……!」
「うわ……異世界パーティーのてんこ盛りだね」
咲希は体を乗り出し、目を輝かせた。
「しかも、これで巨木の拠点も完全に安全圏になるよな」
茂が微笑む。
「生活も戦闘も、これでちょっと余裕が出るかも」
真白も楽しそうにうなずく。
「やっぱり……異世界って、想像するだけでもワクワクするね!」
みことが笑顔を浮かべる。
その瞬間、巨木の奥から淡い光が差し込んだ。
まるで世界が六人の希望を聞き届けるかのように、ゆっくりと彼らを包み込む。
「……な、なにこれ……?」
茂が目を見開く。
体の中を暖かく走る力の感覚。
希望した能力の映像が頭に浮かび、体に自然と染み込んでいく。
六人は無言で互いを見つめ、光に包まれる中でそれぞれの胸が高鳴った。
まだ手に武器も防具もないが、頭の中で描いていた能力が現実となる感覚は、想像をはるかに超えるものだった。
本当に行けるとは思っていなかったが異世界に来られたことで、異世界生活に向けて自然と心が躍る。
夜の闇の中、光を背にした六人の笑顔は、異世界の冒険の幕開けを象徴していた。
巨木のうろに満ちていた光が、ゆっくりと六人の身体から抜けていく。
温かい光が霧散したあと、六人はしばらく呆然としていた。
「……みんな。何か、体の中に流れ込んできましたか?」
真白が胸に手を当てながら言う。
「うん。なんか……変な感覚がする」
咲希が腕を振りながらきょろきょろしている。
「えっ、何これ、力が…湧いてくるっていうか……!」
「たぶん、俺たち……希望してた能力、本当に手に入ったんだと思う」
悠真がゆっくりと拳を握る。
拳を握った瞬間、筋肉が自然に連動し、体の重心が「戦う姿勢」を勝手に作った。
まるで長年鍛えてきたプロの戦士のように、動きは無駄がない。
「おお……! なにこれ、体が勝手にバランス取る……!」
悠真は驚きながらも口角を上げる。
「戦士タイプの“剣術の習熟”だな。剣がなくても、剣の振り方が頭に入ってる。
ああ、これなら……前衛で戦えるって感覚がある。守れる……戦える……!」
「顔、めっちゃ嬉しそう」
咲希が呆れたように笑う。
大地はゆっくり視線を遠くに向けた。
何もないうろの外、木々の間の距離を測るように目を細める。
「……見える。なんとなく当たる軌道がわかるぜ」
大地は指で弓を引く仕草をする。
「すっげーな、矢もないのにどう放てばどこに落ちるかイメージが勝手に描かれるんだよ。
これ、多分精密射撃って能力じゃねぇかな。補正されてるっていうか……脳が勝手に計算しちゃってるぜ」
「さすが大地くん、戦うより観察のほうが先なのね」
真白が苦笑する。
「まあな。でも……すげぇよ、これ。
狩猟系の能力も入ってるのか、外の音とか気配も少しだけだけどわかるもんな」
「じゃあじゃあ私も!やってみるね」
咲希が手を前に出した瞬間、手のひらの中心に熱が生まれた。
光は出ないが、空気が乾き、じわっと周囲の温度が上がる。
「うわっ……ちょっと怖いわ」
みことが一歩下がる。
「すごい……火の源みたいなものが手の内にある感じ。
外側にじゃなくて、内側で温度が上がる……。これ、制御しないと普通に危ないよね。」
咲希は興奮と緊張が混ざった顔で息をつく。
さらに、彼女の目がわずかに光る。
「……え? 何これ。外の……温度? 空気? 草の中の水分まで、なんか“見える”…?」
「蓮君と同じで、感知の能力ですね」
真白が頷く。
「環境の情報が取れるのでしょう。魔法少女というより、ほぼセンサーですね」
「センサー少女……語呂悪すぎない?」
咲希のツッコミで場が少し和んだ。
茂は胸に手を当て、目を閉じていた。
すると――彼の足元に、柔らかい揺らぎのような“反応”が生まれる。
「……あ、わかった。これ、多分テイムの能力だ。
生き物の気配がわずかにだけど、僕に反応してくれている感じがあるよ」
ゆっくり目を開けた茂は、少し照れながら笑う。
「スライムはいないけど……“何かを仲間にできる”って感覚が確かにあるよ。
戦闘の強化……バフも、できそうな気がする。
僕の中に強化の流れみたいな回路があるんだよ。うん……すごくワクワクしてきた!」
「茂はさ、確実にスライム育成ゲームの主人公だよね」
大地が笑う。
「じゃあ、私も!」
みことは胸の前で手を組み、集中する。
すると、空気が軽く震えた。
うろの中に一瞬だけ“光の線”のようなものが走る。
「っ……! 今、一瞬だけ……“つながった”!」
みことは息を呑む。
「たぶん、これが召喚の始まりだわ。
まだ安定しないけど……向こう側に“何かいる”って感じがあるわ」
「向こう側ってどこだかわかる?」
悠真が眉をひそめる。
「わかんないわ。でも……呼べば応じてくれる気がするの。
ドラゴンではなさそうだけど……すでに召喚獣の存在は感じられるわ!」
「いいなぁ、みことのことだからきっともふもふだよねぇ」
咲希が羨ましそうにため息をついた。
真白は深く息を吸い、手のひらを見つめる。
すると、指先に淡い緑色の気配が生じた。光ではない。感触のようなものだ。
「……ああ、これが回復の力なんですね」
真白はうっとりした表情で続ける。
「外傷を癒す……というより、生命活動のバランスを整えるという感覚です。
そして……植物のほうは……」
うろの床の苔が、真白の近くでほんのわずかに揺れた。
「うわっ、動いた!真白が動かしているの?」
咲希が驚いて目を丸くする。
「まだ拙い力でしょうけれど、ちゃんと反応していますね。
これなら生活にも戦闘にも……きっと役立ちます」
大地がぼそっとつぶやく。
「……やっぱ将来は厳しい聖女になりそう」
「大地くん、何か言いましたか?」
「いえっ! なんもっ!」
全員が一通り能力を確かめ、顔を見合わせる。
胸の奥が高鳴っていた。
「……俺たち、本当に異世界パーティーみたいになってきたな」
悠真が笑う。
「最初はただ逃げてきただけだったけど、これなら……生き残れるね」
茂が胸をなでおろす。
「ううん、生き残るだけじゃないよ。
ここから本気で……冒険できる!」
咲希が拳を握る。
巨木のうろは薄暗い。
だが、六人の心だけは確かに明るい光を帯びていた。
未知の力を得たその瞬間、彼らの異世界生活はようやく本当の意味で始まったのだった。
朝の光が、巨木のうろの奥まで柔らかく差し込む。
昨夜の出来事から一晩が過ぎ、六人はまだ夢の余韻に包まれながら目を覚ました。
「よく眠れたか、みんな」
悠真は小さく笑いながら言った。
「昨日は正直、どうなるかと思ったけど、今日は各自能力の確認だ」
「おはようございます!」
咲希は伸びをしながら笑った。
「今日はいよいよ能力を試せる日か……ワクワクする!」
真白はメモ帳を胸に抱え、眼鏡を押し上げる。
「昨日は余裕がなかったので、今日はじっくり検証します。能力を使いこなせるかどうかも確かめたいです」
「森の安全も確認したいな」
大地が周囲を見渡す。
「どんなモンスターが動いているか、森の構造も把握したいしな」
茂は小さくうなずきながら呟く。
「テイム……できるなら、今日中に試してみたいな」
「じゃあ、外に出て少しだけ探索してみよう。危なくなったらすぐ戻る」
悠真の号令で、六人は慎重に洞を抜けた。




