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異世界サークルの夢

「さて……次に大事なのは水とメシだな!」

大地が腰に手を当てて言う。


「水は……外の様子を見てみるか」

悠真がうろの入口から慎重に外を見る。


草原は風に揺れ、丘の向こうには森。

だが怪物の影は今のところ見えない。


「今なら行けそうだよ」

みことが頷いた。


六人は巨木のすぐそばから離れすぎない範囲で探索を始めた。


すると──最初に歓声をあげたのは咲希。


「あっ!みんな、これ見て!」


指さした先には、地面の裂け目から小川のように水が流れていた。

透明度が高く、光を反射してきらきらしている。


「天然の湧き水……?」

真白が目を見開く。


「飲めるやつかな……」

「飲んでみないとわからないな」

悠真が慎重に覗き込む。


そこへ大地がズイズイと前に出る。


「おっしゃ、任せな!こういうのは男が先陣切るもんだろ!」

「やめとけバカ!腹壊したらどうすんの!」

「まぁまぁ、少量なら大丈夫っしょ?いただきまーす!」


大地は両手で水をすくい、一口飲む。


「……ん」

「ど、どう?」

みことが心配そうに尋ねる。


「……うん!

めっっちゃ美味い!」


心からの笑顔だった。


「味は……うん、日本の山奥の湧き水みたいな……いや、それより美味いかも!」


「ほんと?」

咲希が恐る恐る手を伸ばし、一口飲んで目を丸くした。


「甘い……これ、すごい……!」


「よっしゃ!水の問題はクリアだな!」

大地がサムズアップ。


六人は自然と笑みをこぼした。


「次!食料!」

「そんな都合よく見つかるかなぁ……」


茂が言った直後だった。


「ん?なんだあれ」

悠真が森の根元を指差す。


そこには──

枝に大量の赤い果実を実らせた木が立っていた。その実はどう見てもリンゴにそっくり。


「これ、食えそう?」

「見た目は完全にリンゴだな」

「異世界リンゴ……名前どうする?」

「名前は後でいいよ!」

悠真がツッコミながら、一つ実をもぎ、香りを確かめる。


「毒とか大丈夫かな……」

真白が心配する。


「よし──次は俺が食う!」

「またお前か!!!」

全員からツッコミが飛び、笑いが起きる。


大地は豪快にかぶりついた。


「……ん!

これ……甘っ!」


「えっ、どう?」

「日本のリンゴより甘い!てか……蜜めっちゃ入ってる!」


「ほんと!?ちょっとちょっと!」

「咲希、落ち着け!」


次々に皆がリンゴをかじり、顔が明るくなった。


「……やば、めっちゃ美味しい……!」

「これ大量にあるよ!食べ放題だよ!」

「異世界生活……案外いけるのでは?」

茂までテンションが上がっている。


「はーい、これで食料もクリアー!

いやぁ、異世界って案外優しいな!」

大地が笑い飛ばした。


「いや……これは絶対、普通じゃないよね」

真白が苦笑するが、楽しそうだ。



うろに戻った六人は、採ってきたリンゴを並べ、湧き水を入れた葉の器を置いた。


「なんか……キャンプみたいだね!」

咲希が瞳を輝かせる。


「いや、キャンプどころじゃないだろ」

悠真が言うが、口調はどこか楽しげ。


「よし、寝床を作るぞー!

異世界初日は全力で楽しむのが俺のポリシーだ!」

大地が笑って土をならす。


みことは手際よく落ち葉を集め、茂は太い枝を仕切り代わりに使う。


「こういう作業……案外楽しいかも」

「だよね!異世界DIYだよ!」

「……大地のそのノリだけは頼りになるな」

「でへへ」


咲希は果実を磨きながら、嬉しそうに言った。


「なんか……私、思ってたより怖くない。

むしろ……ワクワクしてきたかも」


「俺たち、六人だしな」

悠真が笑う。


「生活できそうだし……ね」

茂も微笑む。


真白はメモを閉じながら言った。


「……ここを本当に拠点にしましょう。

異世界サークルの“第一実験基地”です」


「おー!」

六人の声が重なり、巨木のうろに明るく響いた。


こうして巨木の拠点は整い、

六人の異世界生活は、驚くほど順調なスタートを切ったのだった。



六人は巨木のうろの奥に腰を下ろし、採ってきた果実をつまみながら、笑い声を交わしていた。

外は薄暗くなってきており、うろの中はほぼ真っ暗になったが、スマホの明かりがうろ内を照らしていた。また、六人の胸の中の熱量はそれを補って余りあるほどであった。


「ねぇねぇ、もしこの世界で好きな能力を手に入れられるとしたら、何がいい?」

咲希が瞳を輝かせて問いかける。

その声には、期待とワクワクの色が濃く滲んでいた。

「異世界といえばチート能力だよな。なんかここにきて体がすごく軽く感じるし、身体能力上がってるんじゃね」

大地の言葉に皆が同意した。


「俺は……やっぱり戦士タイプかな」

悠真は顎に手を当て、少し考え込むように言う。

「剣とかで近接戦闘できて、格好良く戦えるやつ。まだ剣も防具も手元にはないけど、イメージは完璧だ。

前衛でみんなを守って、強敵を次々と倒す俺……その姿を頭に描くだけで胸が熱くなるよ。

魔法にも興味はあるけど、それより強敵を倒す興奮が先だな。みんなのことは俺が守ってやるよ。敵の攻撃もすべて俺が受け止めて跳ね返してやる……想像するだけでワクワクするね。

そしてゆくゆくは、どこかの王女とのラブロマンスも巻き起こるかもしれない」


「うわ……悠真らしいね」

咲希が手を叩いて笑う。

「でも、確かにかっこいいかも」


「俺は遠距離系かな」

大地がにやりと笑う。

「弓も矢もまだないけど、長距離の敵を正確に射抜く自分がイメージできるぜ。

木の上から敵を狙って、姿を見せずに仲間を援護する……カッコよくないか?

罠を仕掛けたり、自作の弓で戦ったりする未来までイメージできるぜ。

生産系遠距離ファイターとして、狩猟や生活支援もできる自分が理想だなぁ」


「私は魔法!火系でバンバン敵を燃やしたい!」

咲希は両手を広げ、頭の中で火球を飛ばすイメージを描く。

「火魔法でモンスターを焼き払ったり、広範囲魔法で集団戦に大活躍したりするのがいいなぁ。

魔法を使って敵を見つけて、魔法を使ってクールに敵を倒す私さらに器用な私は生活も魔法で便利にしちゃうんだよ……想像するだけで楽しい!」


「火魔法と感知ですか……やっぱり咲希、実用面まで考えていますね」

真白がメモ帳を押さえながらうなずく。

「戦闘でも生活でもOKな魔術師タイプですね」


「俺はサポート系がいいな」

茂が小さくうなずく。

「戦闘時に味方を強化したり、モンスターを仲間にしたり……せっかく異世界に来たんだから、そんなことを考えるだけで楽しいんだ。

スライムは最強だよ。かわいくて万能の能力を持っているんだよ。最初は弱くても、愛情を注いで育てれば最終的にはドラゴン級の力にもなるはずだよ。

戦闘でも生活でもきっと役に立つ相棒になるんだ。

さらに、モンスターや仲間を強化する技も使えたら面白い。最初は弱いスライムも俺のサポートで剣をもはじく強さを手に入れる……カードバトルみたいで楽しそうだよね」


「私もテイマー……ドラゴンライダーになりたいわ!」

みことが目を輝かせる。

「召喚したモンスターを手懐けて育てるのよ。モンスターと一緒に駆け抜けるの。いずれはドラゴンに乗って空を駆けたいわね。

索敵や冒険、戦闘にも役立つし、何より空を飛べるのが最高だわ。

一撃離脱して空から奇襲とか、考えるだけで興奮するわ!」


「そうしますと私は回復魔法を覚えたほうがいいですね」

真白はメモを取りつつつぶやく。

「命が一番大切ですからね。あと植物も操作できれば、敵の足止めや食糧確保にも生かせるかもしれないですし。木魔法とでも言いますでしょうか。

私は前面に出るよりは裏方のほうが性に合っていますし。ヒーラーって昔から憧れていましたから」


「真白なら将来は聖女って呼ばれるかもね」

「でもちょっと厳しい聖女になるなぁ……」

「あら大地くん、何か言いましたかしら?」

「いや、なんでもないです。はははは……」

大地が真白から目をそらせてつぶやく。


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