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第4話 自分のペースで冒険したいから①

 翌朝。

 イステル北の関所を抜けると、そこには山道が待ち受けていた。

 さほど険しい山ではなく、人の往来で踏み固められた道ができている。ちょっとしたハイキングコースのようだ。

 時おり現れる魔物を倒しつつ、三人は山道を進む。開けた場所に出たのは、昼に差し掛かる頃だった。

 道を少し下った先、谷間に沿うように小さな町がある。


「良かった……向こうに、町が見えるぞ」


 ほっとして思わず言葉が漏れた。そろそろ休憩したかったところだ。



 くすんだ石の外壁に、低い屋根の家々が並んでいる。昼間にもかかわらず、どこか寂しげで、ひやりとした空気をまとっている町だった。


「どっか休める場所、ありそうか?」


 バッシュがきょろきょろと町の中を見回した。

 しかし、店らしき建物は見当たらない。人通りもほとんどなかった。


「向こうに、人が……」


 ミィナが遠慮がちに指をさす。カツとバッシュは同時にその方向へ目を向けた。

 道端に、男がふたり。だが、どうも様子がおかしい。

 金髪の男が小太りの男の胸ぐらを掴み、なにやら詰め寄っている。不穏な気配が遠目にもよくわかった。


「いいからカネ寄越せって言ってんだよ。痛い目見たくねえだろ?」


 粗暴な声が、風に乗って聞こえてきた。


 ――あ、カツアゲだこれ。


 金髪の男は簡素な鉄製の胸当てを身に着け、腰には長剣を携えている。おそらく剣士だろう。

 小太りの方は魔法使いのようで、ゆったりとしたローブを羽織っていた。

 あのふたりも転生者……だよな、多分。あんなガラの悪い奴もいるのか。

 ふたりの男から距離を保ったまま、様子を伺った。

 詰め寄られている魔法使いの男は、縮こまりながらモゴモゴと言葉にならない声を発している。

 ……ああいうのは無闇に近寄らない方がいい。特に今はミィナさんもいるし、下手に首突っ込んでトラブルに巻き込まれるのは避けたい。

 横目でちらりとミィナを見やる。少し不安げな表情を浮かべていた。


「……なんか、取り込み中みたいだし、他を当たって……」


 振り返ると同時に、視界の端を何かの影が通り過ぎた。


「おい、そこの! なにやってんだ!」


 バッシュだった。

 お構いなしに大声を上げながら、ずかずかと男たちに踏み込んでいく。


(って言ってるそばからぁ!)


 カツは盛大に肩を落とした。


「あ、あの……バッシュさんが……」


 ミィナがおろおろしている。


「ったく、相変わらず突っ走るヤツだな。仕方ない……」


 ぶつぶつとぼやきながらバッシュを追いかける。ミィナも恐る恐る後に続いた。


「なんだ、テメェはよぉ。こいつの仲間か?」


 金髪の剣士がバッシュに気づき、睨みを利かせる。

 バッシュは怯むことなく言い返す。


「そいつ、困ってんだろ。離してやれよ」

「んじゃテメェが代わりにカネ出せよ。そうすりゃ解放してやるぜ」


 剣士の男はニヤつきながら、掴んだままのローブをぐいと引っ張り、バッシュの方に突き出した。魔法使いの男は目を白黒させながら、ふたりを交互に見る。


「そういうのがダメだって言ってんだろ」


 バッシュはなおも食い下がる。剣士は苛立ったように足を一歩、踏み出した。


「悪い。そいつら、俺の連れなんだ」


 カツのひと声に、その場の視線が一斉に集まった。


「なんかこの町、静かだからさ。変に騒ぎ起こしたら、悪目立ちすると思うんだけど」


 宥めるような口調でいながら、カツはさり気なく自身の剣に手を添える。

 剣士は周囲を見渡し、軽く舌打ちした。


「……ウザってぇな」


 振り払うようにローブから手を離し、くるりと踵を返した。


「覚えとけよ」


 ちら、とわずかに振り返り、憎々しげな言葉を残して男は去って行った。

 カツはゆっくりと息を吐く。


「……やれやれ。とりあえず、なんとかなったな」

 バッシュが突っかかったときは焦ったが、見て見ぬふりをするより、これで良かったのかもしれない。

 カツがふと視線を移すと、魔法使いの男と目が合った。


「す、すみません、ご迷惑おかけして。……あ、助けていただいて、ありがとうございました」


 男は恐縮しながらぺこぺこと何度も頭を下げた。


「そんなに頭下げたら、首痛くなるぞ」


 バッシュが男の肩にそっと手を添える。


「ああすみません、ついクセで……」


 男は少し恥ずかしそうに頭を掻いた。

 悪い人間には見えないし、ここで会ったのも何かの縁だ。カツはふと、思いついたことを口にする。


「そうだ。俺たち『神の祭壇』目指しててさ。良かったら一緒に行かないか? 仲間は多い方が心強いし」


 安心させるように、表情を和らげながら提案した。だが、予想に反して男は少し顔を引きつらせる。


「え、神の祭壇……? あー、そっか。うん……」


 男は視線を泳がせながら、慎重に言葉を選んだ。


「その、申し訳ないんだけど僕、自分のペースで冒険したいから。……せっかく誘ってくれたのに、すみません」


 返事とともに、男は深々と頭を下げた。


「あ、いや、こっちこそ。急な話で悪かったよ。気にしないで」


 カツも慌ててフォローを入れる。


「いえ、それじゃあ。僕、そろそろ行くので……あの、頑張ってください」


 男はそう言い残して、静かに離れていった。


「……なんか、妙に引っかかる言い方だったな」


 遠ざかっていく男を見送りながら、独り言のように呟いた。


「まあ……そういうヤツも、いるさ」


 バッシュも同じ方向を見つめたまま、ぽつりとこぼす。声色に、どこか寂しげな響きが混じっていた。

 ミィナは黙って俯いた。


「それよりさ、とりあえず宿でも探そうぜ」


 バッシュが空気を切り替えるように、声を明るく張り上げた。


「そうだな。腹も減ってきたし」


 カツも軽く頷いた。

 先程から引っかかっている違和感は、喉の奥に押し込んだ。

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