第3話② 役に立たなきゃ
木漏れ日が淡く差し込む森の中を、三人で進んでいく。今のところ、のどかな森という印象で危ない気配はまだ感じられない。
歩きながら、カツは隣の青年――バッシュに話しかけた。
「バッシュは確か、盗賊だったよな」
「……あー、まあな」
バッシュは足元に視線を落とす。
「じゃあ、探索系のスキルとか使えるのか?」
「今はまだそういうのねえけど、そのうち使えるようになるっしょ」
「そうか。……まあ、そう言う俺も、職業固有のスキルはまだないんだけど。チートスキルはどんなのか、聞いてもいいか?」
「ああ、それなら――」
バッシュが言いかけたそのとき、前方の草むらがガサガサと音を立てた。
足を止め、三人同時に身構える。
ウサギ型の魔物が一匹、草陰から飛び出した。
愛らしい見た目とは裏腹に、全身の毛を針のように逆立てて体当たりを仕掛けてくる、厄介な魔物だ。
「ちょうどいいや。見せてやるぜ、オレのスキル!」
言うやいなや、バッシュが素早く前に出る。
「スキル発動! 一撃必殺!」
叫ぶと同時に、バッシュの体が金色に光り輝いた。
走る勢いに乗せて、魔物を渾身の力で斬りつける。
魔物は鳴き声をあげる間もなく消え去った。
「おお……なんか、すごそうだな」
一瞬の出来事に思わず目を見張る。
直後、バッシュの足が震え出し、地面に膝をついた。
「だ、大丈夫ですか?」
ミィナが心配そうに駆け寄り、カツもそれに続いた。
「へへ、大丈夫……これ使うと、ちょっとの間、動けなくなるんだ」
バッシュはその場に倒れて力なく笑う。
なるほど、そういうデメリットか。カツは内心で納得した。
「……ま、ちょうどいい。休憩にするか。腹も減ってきたし」
すまねぇ、とバッシュが小さく呻いた。
◇ ◇ ◇
手のひらサイズの小箱を取り出し、ふたを開ける。中からテーブル、簡易かまど、調理器具などが瞬時に飛び出し、自動で配置された。
これは携帯キャンプセット。冒険者ギルドでもらった、新人用の配布アイテムだ。
「カツさん、これどうぞ」
「ありがとう、ミィナさん」
ミィナから手渡された金網を、既に火の点いているかまどに置き、その上に生肉を並べる。
肉は、先ほどバッシュが倒した魔物がドロップしたものだ。
こういうときだけは、ここがゲーム的な世界で助かったと感じる。動物の捌き方なんて素人の俺にはわからないし、キャンプ道具だって、これだけの荷物をまともに持ち運ぼうと思ったら大変だ。
……ところで、炎属性の攻撃で倒したら調理済みの肉になってドロップしないかな。某クラフトゲームみたいに。
「バッシュさん、もう動いて平気なんですか?」
ふとミィナの声が耳に入り、顔を上げる。
しばらく寝転がっていたバッシュが、のそのそと起き上がってきた。ミィナは衣服についた土を払ってやっている。
「へへ……どうだった? オレのスキル」
バッシュは笑いながらも、どこか心許なげな声色だった。懐中時計を取り出して、スキル画面を表示させる。
〈特殊スキル:一撃必殺
戦闘中に一回のみ使用可。
自身の攻撃力を2倍へ強化。相手の防御力・回避力を無視し、クリティカル率および状態異常付与率は100%。
使用後は一定時間行動不能となる。〉
行動不能はさっき見た通り。しかも使えるのは、戦闘中に一度きりときた。
「……強いけど、使うタイミングの難しそうなスキルだな」
言葉を選びながら慎重に答える。俺だって、人のこと偉そうに言えるスキルじゃないしな。
話しているうちに、肉の焦げる匂いが漂ってきた。慌てて肉を裏返す。お、いい感じに焼けてる。急に腹の虫が騒ぎ出した。
「ま、とりあえず食おうぜ。腹が減っては戦はできぬ、だ」
「パンもあるので、良かったらどうぞ」
ミィナがテーブルの皿に、町で買い込んだパンを並べていく。
「おー、うまそうな匂い! いただきます!」
三人でテーブルを囲み、一緒に手を合わせた。……なんかいいな、こういうの。
「そういや、二人のスキルはどんなやつなんだ?」
バッシュは頬張っていた肉を飲み込んで口を開く。
「私のは『オートヒール』と言います。自分のHPを自動で回復するんですが、MPも消費しちゃって……」
「そっかぁ。じゃあミィナはなるべく、後ろにいた方が良さそうだな」
バッシュの言葉に、ミィナはためらいがちに頷いた。
「カツの方は?」
「俺は……『なんでもできる』、だ」
無意識に口ごもってしまう。やっぱ人に言うの恥ずかしいな、これ。
「なんでもって……すげえ、最強じゃん! それって、神様みたいになれるってことか!?」
「いや、どうもそうじゃないらしい。この世界をどうこうすることはできない」
「どういうことなんだ?」
俺は自分のスキル画面を開いて、バッシュに見せた。
『あらゆる能力・効果を一時的に再現できる』という説明文から察するに――
「まだ一回しか使ってないから確証は持てないが……この世界に存在するスキルや魔法、アイテムなんかの効果を使えると考えるのが、妥当だな」
「へえ、なるほどなあ。でもそれって、全部のスキルやアイテムを把握してないとダメってことか?」
「まあ、そうなるな。だから俺も、このスキルについては未知数だ。クールタイムもあるから、無闇に使えないしな」
俺は懐中時計を閉じ、懐にしまい込んだ。
スキルを使っても、この世界から抜け出せないのは確認済みだ。クールタイムが明けてから試してみたが、なにも起こらなかった。対応しない効果は、スキルを使用したことにもならない。
とりあえず、今はこの世界で地道に冒険を進めていくしかない。
「……さて、体力も回復したことだし、そろそろ行くか」
バッシュとミィナが頷いて立ち上がる。
小箱のふたを閉めると、キャンプセットが箱の中に吸い込まれるように消えていった。




