表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/12

第6話 札束で殴るタイプだッ!!


「……転生者って、こんなにいたのか?」


 カツは思わず息を呑んだ。


 一夜明けて山あいの町を後にし、さらに小さな山をひとつ越えた先に、新たな町が広がっていた。

 外周をぐるりと覆う、石垣の高い外壁。大きな門をくぐると、広い大通りが目に飛び込んだ。石畳に響く足音や話し声で、通りは随分と賑わっている。

 目の前を行き交うたくさんの人々。カツたちと同様に、装備を身に着けた冒険者風の格好をしている。


「皆さん、グループで来てるんですね」


 ミィナが少し驚いたように呟いた。

 ほとんどの冒険者たちが、二人から四人のパーティーを組んでいる。とはいえ、自分たちも三人パーティーで行動しているのだから、不自然なことではないはずだ。


「でもなんか、ちょっとおかしくねえか?」


 バッシュが何気なく発した言葉を受け、カツはパーティーのひとつを注視した。

 リーダーと思われる人物は、確かに生身の人間――転生者だろう。しかし、その後ろをついて歩く仲間たちはと言うと。

 整った顔立ちに、貼り付けたような笑み。リーダーとの受け答えも、声の抑揚が大げさで芝居がかっている。

 その様子には見覚えがあった。これまでの町でいつも見かけた存在。


「……まさかあれも、NPC?」


 カツは思わず声が出た。

 他のパーティーにも改めて目を向けてみる。やはり、どれも似たような雰囲気だ。


「でも、どうやってNPCの人を仲間にするんでしょうか……?」


 ミィナが疑問を口にする。

 そのとき、通りに面した大きな建物から一組のパーティーが姿を現した。転生者はNPCらしき女性を二人、連れていた。


「だったら聞いてみようぜ」


 言うが早いか、バッシュは大股歩きでその三人パーティーに向かっていく。

 こういうときの、彼の行動の早さは正直助かる――カツは内心で感謝しながら、バッシュの後をゆっくり追った。


「この酒場で仲間を作れるんだってさ」


 三人パーティーのリーダーとひと言ふた言交わしたバッシュが、振り向きながら告げる。パーティーはそそくさとその場から立ち去った。

 先ほどのパーティーが出てきた建物。看板には「集いの酒場」と書かれている。

 ここに冒険者NPCがいて、気に入った者をスカウトするシステムなのだろうか。レベルとかランクの強さで雇用料金が変わるとか?


「とりあえず、入って様子見てみるか」


 バッシュとミィナが頷き、一行は酒場の扉を開いた。



 広い室内に、人々がひしめき合っている。にもかかわらず、中はひっそりと静まり返り、時おりひそひそと囁く声が聞こえる程度だった。

 テーブルに着く者たちは酒も食事も摂らず、黙ってメニュー表を真剣な顔で見つめている。

 奥にはカウンターがあり、そこに立つマスターの前にずらりと行列ができていた。彼らもまた、同じメニュー表をしっかりと握りしめている。


「いらっしゃいませ! こちらをどうぞ」


 給仕風のNPCがどこからともなく現れ、カツにメニュー表を押しつける。


「お決まりになりましたら、あちらのカウンターにお並びください」


 給仕がにこりと微笑んだ。

 カツたちは渡されたメニュー表を覗き込む。

 そこに書かれていたのは、食事や酒の類ではなかった。


「性別、体格、性格……なんだこりゃ?」


 バッシュの素っ頓狂な声が耳に届いた。


「これ、ひとつひとつ選んでいくってこと、ですか……?」


 ミィナがやや困惑しながらカツに視線を送る。

 カツは手元のメニュー表を改めた。


 ――標準料金――

〈性別〉男/女/不詳

〈体格〉平均/華奢/筋肉質

〈性格〉活発/内気/冷静

〈髪型〉ショート/ボブ/ミディアム/ロング……他多数


 どう考えても、これ――キャラクリじゃねえか!


 しかもよく見たらオプション設定まである。身体パーツや性格の細かい設定、種族もエルフや獣人などが選べるようになっている。

 もちろん追加課金仕様だ。

 これ、全部乗せたら一体いくらになるんだ?

 妙な汗がカツの背中を伝う。


「でもすげーな。誰がこんなに大金使うんだ?」


 バッシュの素朴な疑問が酒場中に大きく響いた。

 同時に、周囲の視線が痛いほどカツたちに突き刺さる。


「……うん。俺たちには今のところ必要ないし、とりあえず、出るか」


 メニュー表を給仕に返し、カツは二人を引き連れて逃げるように酒場を後にした。



 外の日差しが、やけに眩しく感じられる。太陽の暖かさが身に沁みるようだった。

 ホッとひと息ついて、カツは改めて周囲の人々を見渡した。

 大抵のパーティーは、転生者ひとりとNPCひとりの二人組だ。同性同士だったり異性のペアだったりと、組み合わせは人それぞれ。だがどれもよく見ると、転生者本人の趣味……もとい、こだわりが見受けられた。

 中でもNPCを上限の三人きっちり作っている者は、それが顕著だった。

 例えば向こうのハーレムパーティー。パッと見はどのNPCも標準料金内の設定で、身に着けるものも初期装備のままだが、全員揃って巨乳だった。おそらく、全財産を胸に注ぎ込んだのだろう。

 そしてあちらの逆ハーレムを築く女性。それぞれ筋肉量の異なるマッチョを三人、引き連れている。あれは筋肉フェチと思われる。


(……こういうの、客観的に見たらちょっと恥ずかしいな。けど……)


 どの転生者も皆、どことなく誇らしげに見える。自分好みのNPCを作れて、満足しているのだろう。


(吹っ切れたら楽しそうだよな……)


 カツの胸に、ほんのりと羨ましさが湧き上がってくる。いいよな、キャラクリって。


「もしカツさんが仲間を作るなら、どんな人にしますか?」


 不意にミィナが訊ねた。その眼差しは、純粋な好奇心に満ちている。


「えっ、俺? うーん、そうだなあ……」


 自分ならどんなキャラを作ろうか。カツは考えを巡らせながら、遠慮がちに答える。


「……まずは色白の肌。髪は水色ショートヘアで、華奢な体つきの女の子。瞳は、赤色だな。いつも無口で無表情で、性格は何を考えてるかわからない、ミステリアスな感じで……」

「なんかやけに具体的だな」


 バッシュのひと言で、カツはハッと我に返った。


「いや、まあ別に、もし作るとしたらって話だよ。もしもな、もし」


 カツは顔が熱くなるのを感じながら、慌てて取り繕った。


「あっ、そうだ。ミィナさんなら、どんな感じにしたい?」


 恥ずかしさを誤魔化すように話題を振る。ミィナは口元に手を当て、少し考え込みながら控えめに話し始めた。


「私なら……えっと。男の人を二人、作りたいですね……」

「ふ、二人? 意外と大胆な……」


 思わず聞き返してしまうカツ。ミィナは焦った様子で言葉を続けた。


「あっ、そうじゃなくて。その……男の人たちが仲良くしてるのを、影からこっそり見守りたいなって……」


 ミィナは照れくさそうにしながら、熱っぽく語る。


「……ひとりはクールで素っ気ないけど本当は優しい年上の人で、もうひとりは素直で人懐っこい年下ワンコな感じで。……えっと、つまり、そういう組み合わせですっ!」

「あ、あぁー! なるほど、そっちね!?」


 ミィナの言わんとすることを、カツは察した。一方バッシュは、


「よくわかんねえけど、男同士つるんでるとこ眺めて何が面白いんだ?」


 話についていけなかったようだ。


「バッシュさんはどうですか? もし仲間キャラを作るなら……」


 今度はミィナがバッシュに訊ねた。


「オレは……まあ、女子が多いと落ち着かねえし、やっぱ男の方が気楽でいいかなあ。ダチみたいなノリのやつ」

「……いいと思います」

(ミ、ミィナさんがバッシュに何かを見出そうとしている……!?)


 ミィナの目がきらりと光ったような気がして、勝手に妙な胸騒ぎを覚えるカツであった。



 ふと、カツの視界の端に、異彩を放つパーティーが映り込んだ。つい気になって、そちらに目を向ける。

 ハーレム構成は珍しくないが、そのパーティーはNPCの容姿がバラエティに富んでいた。

 金髪ギャル系ダークエルフ、儚げウサギ獣人少女、クール系悪魔メガネっ娘。キャラの方向性はバラバラで、テーマもコンセプトも見えてこない。しかも全キャラ追加課金要素モリモリで、合計金額がいくらになるのか考えるだけで頭がクラクラしそうだ。

 そこには一体どんなこだわりが……?

 単純に、好みが多岐に渡っているだけなのか?


 ……いや、違う。あれは――


(札束で殴るタイプだッ!!)


 課金パーティーの男がちら、とカツを振り返る。

 目と目が合った瞬間、男は勝ち誇ったような笑みを浮かべて去って行った。

 それは、無言のマウントだった。


(くそっ、別にあんなの羨ましくないのに……なんだこの敗北感……悔しいっ……!)


 ビクビクッと、何故だか体が勝手に震え出す。

 俺にも、財力(ちから)があれば……っ!


「カツさん、具合でも悪いんですか……?」


 ミィナの心配する声で、カツはようやく正気を取り戻した。


「……ふう。気を取り直して、町の中でも見て回るか。ギルドも確認しておきたいしな」


 明るく声を張り上げ、なんとか気持ちを切り替える。ここは大きな町だから、歩き回るだけでも楽しそうだ。

 一歩踏み出したそのとき、ドン、と体に軽い衝撃を受けた。


「きゃっ」


 甲高い悲鳴が上がる。そちらに目を向けると、小さな女の子が尻もちをついていた。


「あっ、ごめんね! 大丈夫?」


 慌てて駆け寄り、少女の体を起こした。バッシュとミィナも心配そうに覗き込む。


「うん、大丈夫!」


 少女は満面の笑みで元気良く答えた。

 その表情は、「かわいらしい子ども」のお手本のようだった。


「ああ、うちの子がどうもすみません」


 遅れて、男が申し訳なさそうに現れた。カツと同世代くらいに見える。彼も転生者なのだろう。

 後ろには、おしとやかな女性と活発そうな少年が控えていた。


「いえ、こちらこそすみません。……えぇと、うちの子って……」


 カツは戸惑いながら少女に視線を落とした。確かに子どもではあるが、これは――


「ええ、家族で冒険してるんですよ。ほら、お前たちも挨拶しなさい」


 男は朗らかに答えながら、()()に呼びかけた。


「こんにちは。主人がいつもお世話になっております」


 女性が丁寧に挨拶しながら、深々と頭を下げる。


「いつも? いま初めて……」


 口を挟みかけたバッシュの脇腹を、肘でつついた。今は多分、それを言っていい雰囲気ではない。


「オレ、こう見えて剣士なんだぜ! お父さんみたいに強くなるのが夢なんだ!」


 少年が無邪気に夢を語る。男は恥ずかしそうに頬を掻いた。


「わたしは、魔法使いなの。早くいろんな魔法を覚えて、お父さんの役に立ちたいな!」


 続けて少女も、嬉しそうに声を弾ませる。


「……とても、良いご家族ですね」


 カツは言葉を選びながら、無難にやり過ごすことだけを考えた。ちゃんと笑えているだろうか。


「はは、恐縮です。やっぱり、家族がいるって良いですね。守るべきものがあると、気が引き締まります」

「お父さん、早く行こうよ!」


 少年が男の腕をグイと引っ張る。


「わかったわかった。……それじゃ、私はこれで。今から家族で、魔物討伐に向かうんですよ」


 男はぺこりと頭を下げ、家族を連れて人混みの中に紛れていった。


「あれってNPCだよな?」

「……ああ、そうだろうな」


 バッシュのあっさりとした声に、カツはぽつりと呟くように答えた。


「なんだか幸せそう、でしたね……」


 ミィナも躊躇いがちに言葉を紡ぐ。



 ――家族、か。


 カツは、先ほどから胸が重く沈むのを感じていた。


 もし俺が生きていたら、どんな家庭を築いていたんだろうか。

 ひと目でいいから、未来の奥さんや子どもの顔を見てみたかったな。


 ……いや、待てよ。

 俺が死んだってことは、相手のこれからの人生、一体どうなるんだ?

 もう俺と出会うことはないんだよな。

 それに、結婚して生まれてくるはずだった、子どもの命は?

 正直なところ……そこまでの実感は、まだないんだけど。

 でもこれは、俺ひとりの問題じゃないんだ。

 俺だけならともかく、未来の結婚相手や子どもの運命まで捻じ曲げられちゃ、たまったもんじゃない。

 そこがどうなるのかはっきりわからない限り、俺は死んでも死にきれない。

 早く、あの神に会って確かめなければ。



 神の祭壇を目指す理由が、またひとつ積み上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ