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残虐非道と呼ばれた悪魔公は、ただ一人を幸せにしたい〜『神に見放された伯爵令嬢』を幸せにするための回帰譚〜  作者: 白波さめち
二度目の世界ー悪魔公の贖罪ー

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フィオナ不在での会談


「お待ちしておりました大司教」


 二日後、サミュエルは王子宮の応接室に大司教を招いた。


 大司教はまるで仇を見るような鋭い目で俺とサミュエルを見据え、言葉少なに形式的な挨拶を交わした。

 

 彼の態度も当然だろう。


 今回の会談は、お互いの側近、護衛騎士を全て排した秘密裏に行われる会談だからだ。


 そして第一王子と悪魔公と名高い自分。

 彼の警戒はまさに当然だ。


「形式に則った無意味な雑談は結構。さっそく本題に入るとしよう。サミュエル第一王子、ドラクレシュティ辺境伯」


「お時間を頂戴し、ありがとうございます大司教。この度、私アズウェルト王国第一王子サミュエルは、この腐敗した世界を立て直すために、神の御心に適った協力者を求めております」


 大司教はふざけるなとでも言いたい目でサミュエルを睨んだ。


「それは、脅しかね?残虐非道と名高い悪魔公を隣に据え、協力しなければ教会を焼き払うとでも言いたいのか?」

 

「そのようなつもりはございません。教会が持つ古の神に関する知識と、この国の王権が持つ権威。この二つが手を取り合えば、世界は再び光を取り戻すでしょう。これは、我らの権威を増すだけでなく、神の秩序をこの地に広める大義でもあります」


「神の秩序だと? おこがましい。あなた方は瘴気を生み出す魔法を独占し、神の祝福を人々から奪い、自らの地位と権力を築き上げてきたではないか。あなた方の言う『腐敗した世界』とは、あなた方自身が作り上げたものだ!そんな偽善に満ちた言葉で、教会の純粋な信仰を汚そうなどと考えるな!」


 平行線のまま進む大司教とサミュエルの話し合い。

 記憶の中のフィオナは何故この大司教の心を開けたのだろう。


「では、どうすれば良かったんですか……?」


 あの時の彼女を思い返した。


 彼女の言葉はいつも人の心を開かせる。

 そうさせるのは……彼女が心からの敬意を相手に払っているからだ。


 自分の利益ではなく、他人のためだけに紡がれる言葉だから人に届く。だから人に愛される。


 俺が彼女を愛しく感じるのは……人の為にいつも優しい言葉を紡ぐ、あの心が愛おしいと思ったからだ。


「…ご指摘の通りです。私とて、魔法に頼らず、民が平穏に暮らせるならば、それが最善だと心から思っています。

 戦争を望んだことなど、一度もない。だが、国を脅かす敵を排除し、飢えと瘴気に苦しむ民と国を守るため、私は手を血で染め、この大地を穢してきた。それが、辺境伯としての私の真実です」

 

 俺は立ち上がり、大司教に頭を下げた。


「それでも……助けて頂きたいのです。大司教」


「ルーファス?!」


 驚くサミュエルの言葉が隣から聞こえたが顔は上げず言葉を続けた。


「私の妻を……フィオナを救う為には貴方の力が必要なのです」


「どういうことだ?」


 大司教の言葉に俺は頭を上げ真っ直ぐ彼の瞳を見た。


「アイレス様の研究していたカリタスの手記……あの手記にある内容は事実です」


「何故……その名前を……」


 私は言葉を続けた。ただ彼に届く事を祈って。

 

「フィオナは……調和の女神の祝福……瘴気を浄化させる力を有しています。大司教、フィオナの力はいずれ世界中の国と貴族が奪い合う、争いの火種となるでしょう。

 彼女の力を王権が独占すれば、我々アズウェルト王国は、世界を敵に回すことになる。それを阻止するためには、あなた方の持つ神聖な文献と、王権から切り離された世界中に散らばる力が必要なのです」


「待て!その資料は……!」

 

「王都の教会の書庫……秩序の女神がアガパンサスの花を与えている絵画の部屋にあるのでしょう……」


 大司教の目は驚きに見開かれた。

 

 本当は彼に話せずにいられるなら、そうするのが最善だった。

 でも……悪魔公と呼ばれる俺が、彼の持つ全ての力を借りるには「力の解明にぜひ協力させていただきたい」と頭を下げた彼を信じ、真実を話すしか方法はない。

 

「今からお話しすることは、正気を失った男の妄言だと笑われても仕方ありません。しかし、あなた方の純粋な信仰に賭けて、どうか信じていただきたいと存じます」



 


 温室の扉を開けると温かく湿った空気が頬を撫でた。

 

 外の冷たい空気とは違い、甘い花々の香りが漂い、まるで別世界に迷い込んだようだ。


 温室の中では、フィオナとアイディーン、そしてシェリルが楽しそうにお茶をしていた。


 サミュエルはシェリルを救う可能性に賭け、彼女をこの温室に連れ出しフィオナに紹介したのだ。


 サミュエルは、俺の「神に見放された者は、調和の女神の祝福を得ている可能性が高い」という言葉と、シェリルが持つ可能性を信じて、フィオナと関わりを持たせ共に大司教の持つ資料を見にいくという危険な決断をした。

 

 見に行くのは、魔法競技会が終わった後。

 もし、シェリルが祝福の力を発現させることができなければ……。


 彼女は富豪の養女として生きるのではなく「神に見捨てられた王女」として、世間の冷たい目に晒されることになる。


 そのリスクを理解しながらも、サミュエルは迷わなかった。


 彼は、他の「神に見捨てられた者」を犠牲にして安全を確かめることもしなかった。

 俺が過去に、フィオナを危険から遠ざけるために、城に閉じ込めたのとは真逆の道を選んだのだ。


「不安ではないのか?」

 

「何がだ」

 

「計画が失敗すれば、シェリル王女は神に見放された王女として貴族達から侮蔑の目を向けられる。サミュエルの王位継承権にも関わってくる話だ」


 サミュエルは少し悩みつつ「まあな」と笑顔を見せる。


「でも、ルーファスは可能性が高いと言った。臆病なお前がそう言うなら十分賭ける価値がある。それに、私たちこそ、娘は調和の女神の祝福を授かっていると信じなければ、本当に祝福を授かっていてもシェリルが信じられないだろう」


「そう……かもしれない」


 彼は娘の可能性を信じ、危険を冒してでも彼女を解放した。

 その瞳には、俺が過去に持っていたような恐怖や不信は微塵もない。

 ただ娘への深い愛情と、彼女が持つ力への純粋な信頼だけがあった。

 

「お父様!!」


 シェリルはサミュエルの姿を見て手を振った。

 サミュエルも彼女に笑顔を向け振り返す。


 フィオナとアイディーンは戻ってきた私達に不安げな瞳を向け駆け寄ってきた。

 

「大司教様との会談は……終わったのですか?」

 

「ああ、思い当たる資料があるそうだ。ただその時は大司教にフィオナの浄化を見せなくてはいけなくなると思う」

 

「もちろんです。私の力が何なのか、知りたいのは私自身なのですから。大司教様とお話しする機会を設けてくださって、ありがとうございます、ルーファス様」

 

「当然だろう。フィオナの力について知る事は私にとっても大切な事なのだから」


 相手を信じ、信頼を託す事。

 それは過去の俺にはない生き方だった。

 

 

 

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