呪われた双子の騎士 side:テオ
「俺のせいだ。あの時フィオナ様に言ったんだ。今できることはなくても、その後瘴気を浄化できるだろうって。もしあの時……俺が無理矢理にでも連れて離れていれば……フィオナ様は連れて行かれなかったかもしれない」
リオはそう言って、悔しそうに唇を噛み、涙を流した。
双子でも泣き顔なんて見られたくないだろうと、視線を床に向けながら「そんなことない」と首を振る。
「フィオナ様があの状態の人達を見捨てられるわけがない。リオがそう言わなくてもフィオナ様は浄化を使っただろうし、ルーファス様がいるのにあの場を離れるなんてしなかったさ。リオもわかってるだろ」
そんなことを言えば、俺なんて襲撃の時に攫われかけたフィオナ様を助けられなかった。
白煙の中どこにいるか見つけられなかった上、敵の攻撃も受けて倒れ込むなんて役立たずの護衛騎士だ。
「ドラクレシュティの騎士はつけられない」
そう言われて俺たちはフィオナ様から引き離された。
ルーファス様がヴィルヘルム様やアルロー、その他諸々の偉い人達と話し合っている間、フィオナ様の部屋のすぐ側にある従者の控え室で床に座り込む。
アンナはフィオナ様の荷物を届けに王宮へ向かった。
ミリーはフィオナ様の部屋で泣きながら掃除をしている。
ミリーはフィオナ様がいつ帰ってきてもいいように、と言っていたけれど…。
ルーファス様の様子から、屋敷に帰ってこられるかどうかも分からない。
王宮の夜会が終わった後、フィオナ様はルーファス様と共にドラクレシュティへ向かう馬車に乗っているだろうか。
「呪われた双子め」
父親は俺たちを見るたびにそう言った。
アズウェルト王国の南にある侯爵領。
そこに仕える子爵家の嫡男として産まれた俺たちは双子だった。
双子は貴族にとって呪われた存在だ。
双子は魔力も、魔法属性も全て分け合って生まれる。その上、出産で母親を死なせることが多いらしい。
俺たちの母親も出産で俺たちを産んで死んだ。
魔力が子爵家にしては高いことだけが自慢だった俺たちの家は、俺たちが生まれたことによって崩壊した。
案の定、俺は風、リオは光の神の祝福しか持っておらず、十歳の洗礼式の直後に「十五歳になったら家を出て行け」と言われた。
貴族なんてやりたくもなかったし、リオと一緒なら別にどこでも生きていける気がしていたから「まあ、そうだよな」くらいの感覚だったが、リオは少しショックを受けていたみたいだ。
妻を亡くし、長男と次男が双子で産まれた父親を不憫に思った侯爵が、せめてもの情けに…と騎士団への紹介状を書いてくれることになった。
といっても、どこの領地の騎士団でも簡単には入れない。
ましてや違う領地の廃嫡にされた双子なんて受け入れる謂れもない。
ただ、オストビア帝国が隣国を飲み込んで国境沿いが緊張状態にあったおかげで、騎士団の人員を増やしたかったドラクレシュティ騎士団に俺たちは拾ってもらえた。
ドラクレシュティ騎士団の訓練は想像以上に過酷だったが、実力主義で強ければ強いだけ認められた。
騎士の訓練に参加するロスウェル様やルーファス様とも歳が近いだけあって、何度も手合わせした。
そんな平和な日々は、当時のドラクレシュティ辺境伯とロスウェル様の死で一変した。
自分より三つも下のルーファス様が領地を継ぐことになり、それを待っていたかのようにオストビア帝国の侵略が始まった。
ルーファス様は当時から魔法のセンスも、戦いのセンスもずば抜けていた天才だったが、それは「死ぬことはない」試合や手合わせの中での話だ。
北西の街道を使って大量のオストビア軍が攻めてきた。
王都や他領からの援軍も間に合わず、少しでも戦えるドラクレシュティの貴族達は全員戦地へと向かった。
そこはまるで地獄のような光景だった。
ルーファス様は後方から懸命に指示を出すが、殺す気で来ている相手に「誰も失いたくない」なんていう甘い戦法など通用するはずもない。
ドラクレシュティの兵は大量に死んだ。
その中には、前ドラクレシュティ辺境伯と辺境伯の地位を継いだばかりのルーファス様を、アルローと共に支えていたアンナの夫もいた。
光の魔法でもどうにもならない怪我を負ったアンナの夫は、血を吐きながらルーファス様に最後の言葉を残した。
「私達は人間じゃない。全て貴方の駒だと思え。悪魔にならなきゃ誰も救えない。貴方の優しさで全員が死ぬぞ」
あの言葉から、ルーファス様は自身の感情を殺した。
恐ろしいまでにただ最善を選び取り、敵の侵略を悉く打ち砕いていく。
だからこそ、俺たちは生き延びることができた。
だからこそ、ルーファス様には幸せになって欲しかった。
ルーファス様が作った孤児院や救護院に通って子供達と蝕身病の薬を作ろうとする変わり者のフィオナ様なら、ルーファス様の殺した感情から、かけらを見つけて拾ってくれるんじゃないかと思ったんだ。
フィオナ様の護衛騎士になったのは、せめて彼が一番大切にする者を守りたかったからだ。
それなのに。
自分の無力さに吐き気がする。
冷たい静寂にリオの啜り泣く声が響く中、俺はただ床を見つめ続けた。
テオ視点で語られる前回の侵略戦争。
次回もテオ視点となります。




