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襲撃の後

「フィオナ様、目が覚めましたか?」


 目を開けると、そこはドラクレシュティのお屋敷にある自分の部屋だった。

 枕元にはアンナがいて、私の顔を見て安堵の表情を浮かべていた。


「ごめんなさい。また心配かけちゃったわね」


「また何日も目を覚まさないのかもしれないと心配いたしましたよ」


 私は二日間眠っていたそうだ。


 ミリーがパン粥を持ってきてくれたので、それを食べて服を着替えた。


 ほどなくしてリオとアルローも部屋に入ってきた。

 彼らもまた、私の顔を見て安堵の表情を浮かべる。


「テオは無事かしら?」


「うん、あの後すぐ目が覚めた。今日は一応休んでもらってるけど、凄くフィオナ様を心配してたよ」


 テオが無事だったことに胸を撫で下ろした。

 あの状態で私を探し、ずっと魔法を使い続けていたテオは魔力も限界だったそうだ。


「会場にいた人たちはどうなったの?」


 その時、私の脳裏にあの時の光景が鮮明に浮かび上がった。焼けたガラスの匂い、錆びた鉄のような血の匂い。血と瘴気で真っ黒に染まった地面、そこに倒れる沢山の騎士や令嬢。


 さっき食べたばかりのパン粥が胃から迫り上がってきて、私は思わず口を押さえた。

 耳の奥で、まだ誰かの悲鳴が聞こえるような気がする。


「フィオナ様大丈夫?!」「フィオナ様?!」


 全員が慌てたように私に駆け寄ってくるのを、私は反対側の手で止める。「もう少し休まれた方が……」と心配するアンナに「大丈夫よ」と無理矢理微笑んだ。


「大丈夫だから教えて、リオ」


 私が尋ねるとリオは首を振った。


「あの後、テオを運んだりしてあそこを離れたんだ。王宮の騎士やルーファス様が対応してたけど……被害は大きかったみたい」


「ルーファス様は?」


「ルーファス様は今回の事件をあの後からずっと調査されております。執務室には今はヴィルハイム様が」


 あの後の情報が少しでも欲しくて、私はすぐにヴィルハイムのいる執務室へと向かった。


 部屋の中は書類が散乱し、少しくたびれた様子のヴィルハイムが書類と格闘している。


 ヴィルハイムは訪ねてきた私を見て「心配しました」と泣きそうになりながら言った。


「ヴィル、あの場にいた人たちは無事?アイディーン様は?!ルーファス様は!?」

 

「兄上は大丈夫です。昨日一度戻ってきましたが、着替えてすぐにまた出ていきました。アイディーン様も無事です。まだ目を覚まされた連絡は入っておりませんが、じき目は覚めると思います。ただあの場にいた者は……何人か亡くなったと……」


 私は手を強く握りしめた。


 ヴィルハイムは「とりあえず座ってください」と私に席を勧め、向かいに座る。


 ヴィルハイムはどう話せばいいかと少し険しい顔をしながら話し始めた。


「まず、今回の実行犯ですが……ルーファス様が何人かは生かしておいたそうなのですが、全員自害したそうです。王宮の騎士やリオとテオの話から相手は魔法を使っていたそうですが、この国の貴族ではなく、首謀者は分からない……と」


 真っ赤な生温かい血液が頬に飛び散った瞬間、黒いローブの男が崩れ落ちる。その横で、もう一人の男の首が宙を舞い、地面に落ちていく光景が脳裏に浮かんだ。


「フィオナ様?!大丈夫ですか?!顔色が……」


 ヴィルハイムが身を乗り出して私の顔を覗き込むように見た。私は気づくと、自分の身を守るかのように両腕を重ねている。奥歯がカチカチとなりそうになるのを懸命に堪えた。


「どうしてもあの時の光景が……」


 私はあの光景を振り払うように首を振る。ヴィルハイムにこれ以上心配をかけるわけにはいかないのに、頭と身体が言うことを聞いてくれなかった。


「もう少し休んでください」


「でも、私は聞いておかなきゃ……。お願い、教えて?」


 私の目を見たヴィルハイムは、諦めたように続きを話してくれた。


「敵が侵入してきた時、なんて叫んでいたかフィオナ様は覚えていますか?」

 

「大地を穢す悪魔共に鉄槌を……そう叫んでいたわ」

 

「そうです。その言葉から教会関係者ではないかと睨んだルーファス様は、王宮騎士達と王都の教会に話を聞きに行きました。しかし大司教は現在行方不明です」

 

「大司教様が?!」


 私の驚きに、ヴィルハイムは肯定するように頷いた。


 何がどうなっているのか分からない。

 感じたことのない恐怖が背筋を伝った。


「今は大司教の行方を追っています。今回の大事件は前代未聞です。それで……明日、王宮で諮問会議(しもんかいぎ)が行われることになりました」

 

「諮問……会議?」

 

「はい。犯人が見当もつかない以上、諮問会議はフィオナ様のお力に関してのものになるでしょう。ドラクレシュティにとっては……あまりいい状況とはいえません」


 ヴィルハイムはそう言って苦悩に顔を歪め額に手を置いた。


「兄上はギリギリまで調査を進め、根回しをするそうです。フィオナ様のことはドラクレシュティが必ず……守りますから」


 ヴィルハイムの言う意味がよくわからない。でも彼はこれ以上話す気はないようで「とりあえずもう少し休んでください」と私は執務室を追い出された。


 私が休んでいる間にも、ルーファス様はたった一人でこの事件の闇に立ち向かっている。

 そう思うと、彼の側で助けられない無力な自分が何よりも辛かった。


 無力感に襲われながらも、私は唇を噛み締め一人廊下を歩いていった。






着実にフィオナ視点の一部が終わりに近づいております。

ちゃんと幸せになりますので、心を強く持ってこれから先の物語もよろしくお願いします。


感想や評価、ブックマークとても励みになります。

いつもありがとうございます。

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