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残虐非道と呼ばれた悪魔公は、ただ一人を幸せにしたい〜『神に見放された伯爵令嬢』を幸せにするための回帰譚〜  作者: 白波さめち
一度目の世界ー悪魔公の過ちー

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魔法競技会1

 

 王宮での舞踏会が終わり、社交シーズンが本格的に幕を開けた。


 ルーファス様には銀に関する取引の手紙が多く届いており、例年のことだそうだが忙しく過ごしている。

 私にもいくつかお茶会の招待状が届いた。

 ドラクレシュティと取引のある領地からのものが殆どだが、そうじゃない招待状もある。


 そう、アイディーン王子妃からお茶会の招待状が届いたのだ。お茶会自体はまだ少し先の話だが、その準備に今は慌ただしく過ごしている。


 教会の件も少しずつだが進展があった。


 王権と反対の立場をとる教会と、ドラクレシュティは今まで繋がりがなかった。

 そのため、繋がりを作るところからが必要なのだが、そちらはルーファス様が教会派の貴族たちに銀の取引をちらつかせて接触を図ってくれているそうで、近々教会との会合が実現しそうだと言っていた。


 そして今日は社交シーズンの始まりを告げる王宮での舞踏会と並ぶ、大きな行事の日だ。


 王宮で行われる魔法競技会の日である。


 この競技会は二日間にわたって、魔法を使える者たちが魔法ありの剣術や魔法を使用した舞で競い合うそうだ。


 貴族としての価値は、どれだけの魔法が使え、どれほどの魔力があるかに左右される。


 そのため、この大会で優秀な成績を収めることは、とても名誉なことらしい。


 ただ貴族社会に今まで参加していなかった私からすると気になるのは瘴気だ。


 私はそれが気になって、魔法競技大会前にヴィルハイム様に質問した。


「瘴気……?もちろん闇の魔法が使える王宮の使用人や貴族が消しますよ」

 

「え……?それでは身体に瘴気が……」

 

「もちろんそうですが、何十人もの人間で消すので影響は殆どありません。それに今は瘴気をどれだけ出さずに結果を残すことも重要視されていますから。ルーファス様のように、土地の瘴気を大量に消し去って蝕身病にかかる人間の方が珍しいのです」


 瘴気はとても恐ろしいものだと思っている私には、簡単に「そういうものだ」と割り切れない。

 そんな私の心を察したのだろう、ヴィルヘルム様は少し困ったような笑顔になった。


「しかし、貴族社会でこの競技会は必要不可欠なんですよ」

 

 爵位を継ぐのは、その家の子供の中で長子が優遇される。


 まれに飛び抜けた魔力や魔法の属性があると次男や三男が継ぐこともあるが、そう言った理由がない限りは長子が継ぐという暗黙の了解があるのだ。

 

 では長子以外の子供はどうするのかというと、爵位を継いだ長男のサポートをしたり、他の家に嫁いだり、優秀さを示して新しく爵位を得たりしなくてないけない。


 競技会ではこのような者達の救済措置の一面があるそうだ。


 残した成績によって爵位を継げない次男や三男、権力のない家の令嬢たちにもいい縁談先やいい役職、その場で爵位が与えられることもあるため、王宮の舞踏会より重要視している貴族は多いという。


「私も今回の競技大会には出場します。ドラクレシュティ家の三男なので、兄上とフィオナ様のお子に爵位を譲った後、子爵の爵位くらいは得られるでしょうが、あいにく相手がいませんから」


「兄上をこれからも支え続けるためにも、ドラクレシュティ家の利になる令嬢と縁を結べれば」とヴィルハイム様は弟の笑顔で笑った。


 魔法競技会の会場はとても広い。


 円になった舞台を見下ろすように観客席が作られており、貴族たちはそれぞれの家ごとに席とテーブルが用意されている。


 貴族たちは舞台を見ながら社交ができる仕様だ。他にも騎士のための席や平民の富豪向けの席も用意されており、圧巻の光景だった。


 ルーファス様と私、そして今日はドラクレシュティ辺境伯の弟として参加しているヴィルハイム様はドラクレシュティ家の席に座った。


 この席も爵位によって見る場所が変わってくる。ドラクレシュティ家は王族の座る席からかなり近い場所にあった。


 国王からの開会宣言があり、騎士団の出場者同士の戦いが始まった。

 剣術はトーナメント形式で、出場人数が多いため、予選は三組が同時に進められる。


 戦っている相手が場外となるか、膝をつくか、降参すれば勝ちというシンプルなルールのようだ。

 しかし舞台では炎が舞い、風の刃が渦を巻き、相手が吹き飛ばされるなど、その光景は驚くほど危険に見えた。


 一つの戦いが終わるたびに、舞台には薄く煤のような跡が残る。それは、魔法の代償として生み出された瘴気の痕跡だ。

 次の戦いが始まるまでの短い間に、数人の闇の魔法の使い手が舞台に上がり、その痕跡を消し去っている。


 私とは対照的にルーファス様はあまり興味がなさそうにその大会を眺めていた。


「ルーファス様も大会に出たことがあるのですか?」


「ああ、15歳の時に一度だけな」


「兄上は15歳の時に初出場して優勝したんですよ」


「さ……さすがですね」


「決勝戦まで剣を振るうことなく勝ち抜いたのは兄上が初めてだそうです。私はデビュタント前だったので見てはいませんが、当時はすごい騒ぎだったそうですよ」


 ヴィルハイム様は誇らしそうにルーファス様の武勇伝について語った。


 そんなルーファス様は「舞台の外に吹き飛ばせばいいだけだから剣は必要ない」と涼しい顔をしている。


 あの舞台で魔法を操るルーファス様を想像しようとしたができなかった。そもそも、私はルーファス様が魔法を使っている姿をあまり見たことがない。

 

 ルーファス様があまり魔法を使いたがらないことを知っているし、瘴気が出てしまうので言わないけれど……嫁いできたばかりの頃に一度、騎士の演習場で彼が炎を操っていた姿は、本当に美しいと思ったのだ。


 瘴気の問題さえなければ、もう一度見たいと思ってしまう。


「フィオナ、テオが出てきたぞ」


 歓声と共に、テオが手を振りながら入場する。


 テオの背中にはドラクレシュティ家の騎士団の紋章が大きく入っていた。テオは毎年出場しているそうで、「ドラクレシュティ騎士団の強さを見せつけてきます!」と言っていた。


「テオは大丈夫なのでしょうか?テオは風の魔法しか使えないんじゃ……」


 魔法ありの戦いなので仕方がないのかもしれないが、今までの戦いでは怪我をする者も多かった。

 私の心配をよそに、ルーファス様は余裕のある顔でテオを見ている。


「フィオナの護衛を弱い騎士に任せると思うか?」


 その言葉通りテオは開始の合図が始まってすぐ、目も止まらぬ速さで相手の懐に入り敵を倒していた。瞬きをしていたら見逃していただろう。


「テオ……!すごい!」


「テオは魔法の扱いにかけては一流だからな。風の魔法しか使えないと油断している相手では痛い目をみる。テオがやられる時は奴の魔力が尽きた時だな」


 テオは風の魔法を全身に乗せ、攻撃のスピードと威力をあげているそうだ。


「ドラクレシュティ辺境伯、少しお話しをよろしいですか?」


「ああ……バラン子爵。すまない少し席を外す。ヴィル、フィオナを頼む」


 そう言ってルーファス様はバラン子爵と共に人の中へと消えていった。


「教会派の貴族ですね……」


 私の言葉にヴィルハイム様はこくりと頷いた。


「そうです。王族の反対勢力ではありますが、教会は規模が大きいですからね…魔法競技会には建前上招待されているはずです。ああ……ほらあそこ、彼が教会の大司教ですよ。アズウェルト王国にある教会では彼が頂点です」


 ヴィルヘルム様の示す先には、見たことないデザインの白い衣装を着た老人が座っていた。


 彼は険しい顔で舞台を見つめている。彼の瞳に映るのは、魔法という力を華やかに誇示する貴族たちの姿。

 それは自然の理を歪め邪悪な瘴気を生み出す愚かな行いにしか見えていないだろう。


 しばらくすると、バラン子爵に連れられたルーファス様が現れ、彼に恭しく挨拶を交わしているのが見える。

 

 今はまだ見守るしかできないことをもどかしく感じていると「フィオナ様」とヴィルハイム様から名前を呼ばれた。


「……フィオナ様が力を与えてくれた神について調べているのはわかっています。私も兄上と一緒にドラクレシュティにある文献を調べましたから……。そしてその力を、ドラクレシュティのために使おうとしてくださっているのも知っています。でも……」


 ヴィルハイム様は私をまっすぐ見ながら口を開いた。その瞳には心配の色が滲んでいる。


「フィオナ様はもう十分ドラクレシュティになくてはならない存在です。だから、くれぐれも無茶はしないでください」


「心配してくれてありがとうございます。ヴィルハイム様」


 私が微笑むと、彼はつられるように笑った。

 

「ヴィルでいいですよ。フィオナ様は私の義姉なんですから」


 

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