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残虐非道と呼ばれた悪魔公は、ただ一人を幸せにしたい〜『神に見放された伯爵令嬢』を幸せにするための回帰譚〜  作者: 白波さめち
一度目の世界ー悪魔公の過ちー

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夜明けの奇跡


 次に意識が浮上したのは、朝の光が差し込む頃だった。


 ルーファス様の寝台に頭を預けるようにして眠っていたようだ。


 目を覚まし顔を上げると、ルーファス様が起き上がり目を開けていた。


「ルーファス様…!」


 彼の赤い瞳は熱にうなされる時のような苦痛に満ちたものではなく、どこか驚きと、信じられないものを見るかのような静かな輝きを宿していた。

 

 彼の顔にはもう呪紋は見当たらない。

 

 そして彼の視線の先にある右手にも、あの赤黒いアザと黒い紋様は、波が引くように小さくなっていた。


 私は安堵と喜びで、彼の顔を見つめた。

 昨夜の絶望が嘘のようだ。


 彼が……生きている。


 その事実に、胸の奥から温かいものがこみ上げてくる。それはこの数年間、母の死と自身の無力さに苦しみ続けた、全ての悲しみと絶望が溶けていくような感覚だった。


 すると彼はそっと手を伸ばし、私の頬に触れた。

 その手は、冷たく、そして少し震えている。


「君は……」


 彼は声に出さずに、唇だけでそう紡いだ。

 そしてゆっくりと私を腕の中に引き寄せ、強く抱きしめた。

 彼の温かさと鼓動が、私の身体に伝わってくる。


 彼の抱擁はこれまで私が感じたことのない強い感情を秘めていた。

 それは安堵でも、喜びでも、愛情でもない。

 まるで嵐の中で、ようやくたどり着いた岸壁にしがみつくような……切実で痛みを伴うものだった。

 私は彼の背中にそっと手を回し、彼から伝わる感情を全身で受け止めた。


 彼はゆっくりと身体を起こし「何をしたんだ、フィオナ」と赤い瞳を揺らしながら私に問いかけた。


 その問いかけの意味がよくわからない。


 私にできたことと言えば、マロウのお茶を飲ませ、汗を拭き、額を冷やしたくらいだ。


「意識の片隅で、君が握った掌から温かい光が流れ込んでくるような感覚がした。君はなんの魔法を使ったんだ?」


 最後の記憶を思い出してみる。


 いよいよ意識がなくなったルーファス様に、私は必死だった。


「……魔力。私……ルーファス様に魔力を流し込みました」


「魔力?」と聞き返す彼に、私は頷きで肯定した。


「魔力です。ルーファス様が魔力を食い荒らされているといっていたので、少しでも何かできれば……と、魔力を流し込みました」


「同じようにやってみてくれるか?」


 そう言われて、私は同じように彼の右手を握った。

 そしてゆっくりと魔力を流し込むが、何も起こらない。


 ルーファス様はそんな私をじっと待っている。


(そうだ。あの時私は神に祈った。もし本当に私を見守ってくれている神様がいるなら……どうかルーファス様を助けてって……)


 その瞬間、瞼の裏に光が当たった感覚がして目を開けると、柔らかい白い光がルーファス様の腕を包むように広がっていた。


 虫の羽音のような音がルーファス様の呪紋から聞こえると思ったら、呪紋が光に追われるように消えていっている。


「これ……は……?」


 ルーファス様は腕を包む光を信じられないと凝視した。

 

「なんだ、この魔法は……」


「ルーファス様にもわからないのですか?」


 ルーファス様はこくりと頷いた。

 このままルーファス様の呪紋を全て消し去れたら良かったのだが、全身の力が抜けていくような感覚がしてきた時点で彼が慌てて私の手を離した。


「魔力の使いすぎだ!」


 その途端、ルーファス様を包んでいた光が砂のようにハラハラと落ちて消えていく。

 ぐらりと傾いた身体はルーファス様が支えてくれた。

 少しの沈黙の後、彼は真剣な顔で口を開いた。


「フィオナ……この力は魔法で間違いない。誰も知らない新しい魔法だと思う」


「魔法……?だって私は……」


 ルーファス様は「そうとしか考えられない」と言いながら、さらに小さくなった呪紋をまじまじと見つめた。



 部屋を出ると、扉の前で護衛していたテオが大急ぎでみんなを呼びに行った。


 ルーファス様の蝕身病を知る、ごくわずかな者だけが彼の部屋へと集まる。


 ヴィルハイム様をはじめ、アルロー、アンナ、騎士団長、ルーファス様の従者、テオとリオだ。ミリーもアンナから話を聞き、新しい秘密の共有者としてこの場に呼ばれていた。


 アンナはルーファス様を見て、いつもの朗らかな顔を捨てて「良かった、本当に良かった」と泣き崩れる。


 ルーファス様が倒れてから、なんともう七日も経ったらしい。


「マロウ茶も、お食事も……昨日の夜から何も取りに来られませんから……すごく心配したのですよ」


「ありがとう、アンナ……」


 アルローとアンナとミリー、ルーファス様の従者は、いつでもお茶や食事ができるようにと交代で待機してくれていたのだ。


 アルローはヴィルハイム様の執務の手伝いもしていたそうだから、本当に優秀な執事だと思う。


 そして部屋の隅で俯いていたヴィルハイム様は、アンナの言葉を聞き静かに涙を流していた。

 

 彼の胸には兄を失うかもしれないという恐怖と、七日間続いた絶望的な疲労が重くのしかかっていたのだ。


「ヴィル、心配かけたな」


 その優しい声にヴィルハイム様は顔を上げた。

 ルーファス様は彼を労わるように、そっとその頭を撫でた。


「……っ!だったら、もっとご自身を大切にして……ください……」


 掠れた声でヴィルハイム様がそう言うと、ルーファス様は彼の頭をもう一度優しく撫で、その背中を叩いた。

 

 その姿は……仲の良い兄と弟に見えた。


「みんな、これを見てほしい」


 ルーファス様はそう言って袖を捲って右腕を出した。小さくなった呪紋を見て、みんなは信じられないと目を見開く。


「呪紋を……?本当に?」


 騎士団長が混乱したように声を上げる。

 テオとリオも驚きで固まっていた。

 彼らはルーファス様が魔物と対峙した際、その身に受けた瘴気と治癒の代償がもたらす絶望的な状況を目の当たりにしていたようで「信じられない」と言葉を漏らす。


 彼に光の魔法を使ったリオは、その場に崩れ落ちるように膝をつき、安堵からか嗚咽を漏らしていた。


「フィオナが呪紋を小さくした。おそらく魔法だと思う。この件について話す時間が欲しい」


 みんな驚きのあまり混乱しているようだ。

 するとアンナが「その前に」と声をかける。


「ルーファス様とフィオナ様は着替えとお食事をしましょう。すぐに準備致しますから」


 ルーファス様も、俯いて自分の姿を見てはっとする。

 私も今の自分の格好を思い出し、少し恥ずかしくなった。







アンナは目を光らせた。


領主と領主夫人は寝起きだ!このまま話をさせるなんて侍女の血が許さない!


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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