プロローグ side:ルーファス
「貴方の孤独が…終わりますように」
その声が、刺された瞬間、脳裏にこだました。
突き立てられた刃が腹を貫き、熱いものが溢れ出す刹那に浮かんだのは、フィオナの最後の笑顔。
この世界の誰よりも彼女を愛していた。
ただ彼女が隣にいてくれるだけで、これ以上の幸せはないと思っていた。
彼女は、俺を果てしない孤独から掬い上げ、生きる喜びを教えてくれた。
そんな彼女を、殺したのは俺だ。
その報いとして、今、この命が奪われようとしている。
腹からどっと血が噴き出す。このままでは助かってしまうかもしれない。
暗殺に成功したと確信し、ナイフの柄を離そうとした何者かの手を、俺は上から押さえつけた。
「何を…?!」
暗殺者の悲鳴に答えず、俺は刃をさらに深く、ねじ込むように押し込んだ。
先ほどとは比べ物にならないほどの鮮血が、肉を裂いてほとばしる。
これで、ようやく死ねるだろう。
暗殺者は、俺の狂気的な行動と、噴き出す血の量に動揺し、怯えるように手を離して後ずさった。
「聖女を殺した報いを受けろ!悪魔公!」
絞り出すようなその叫び声が、ひどく遠く感じられた。
報い?
こんなものが、報いだというのか。
刺されたはずの腹には、不思議と痛みがない。
フィオナを失ってから、何も感じなくなっていたが、まさか痛みすらも感じなくなっていたとは。
それでも、これでようやくすべてが終わる。
彼女のいない世界に、もう何の未練もないのだから。
暗殺者は、素早く窓から去っていった。
その背中を見送り、俺はゆっくりと壁にもたれかかり、そのまま床に座り込んだ。