悪役令嬢を守るもの
6月3日、水曜日。
悪役令嬢は案外暇だ。
人狼襲撃パートは週に1度、月曜の人狼裁判で盛り上がるものの、火曜~日曜の日常パートは、正直やることがない。
ヒロインならこの間に攻略を進めるのだろうけど、恋愛要素がない悪役令嬢にとっては、ただ退屈な日々でしかない。できることなんて、次の人狼裁判でどうやってリリィを陥れようかと戦略を考えることくらい。
――かと言って、いじめは絶対したくない。噴水に突き落としたり、髪飾りを壊したりとか。
ついでに、誰が人狼なのかと探りを入れようとした。
スッと婚約者である王子レオナルドの前へと進み、淑女の礼をする。
「レオナルド王子、もしよろしければ本日の放課後…」
会いたい、と言う前に、レオナルドが言葉を遮った。
「すまないな。先約がある。リリィ、行こうか。」
つれない返事をして、レオナルドは去っていった。リリィ、ヴィクター、ダミアンのいつもの恋愛脳メンバーと一緒に。
「クリスティーネ様、あんな女に負けちゃダメですわ!」
レオナルドが教室から出て行った途端、エリザベスが駆け寄ってきた。レオナルドの前で言えば不敬だと怒り出すだろうから、待っていてくれたのだろう。
「それにしても、婚約者にあの扱いはダメでしょ。」
「可哀相ですよね。」
「あら、いい気味じゃない。」
モブキャラの下位貴族たちがこちらを見ながら会話していた。同情的なのがジョンとボブ、敵対的なのがマチルダ。男爵令嬢マチルダはヒロインの友達枠だから、仲が悪い。
モブキャラが集まっているのはきっと、怖いからだろう。モブ仲間のジョセフィーヌがあっけなく処刑されてしまったから。みんな気づいているのだ。権力の弱い下位貴族なんて、無実の罪を着せるにはちょうどいい存在でしかない。
「あら、皆様お揃いで。」
こちらからはニコニコと笑顔で返す。陰口が本人に聞こえていた時の居心地の悪さはハンパない。皆口ごもっていた。
モブであろうが人狼の可能性があるため、エリザベスの時のように『儀式』を行い、それぞれ人狼かどうかを調べて行った。今回は「全員白」。
――犯人は、リリィご一行の中に居る!
「あの…私たちも、ジョセフィーネみたいに『容疑者』として殺されるんでしょうか。」
ジョンが恐る恐る尋ねてきた。
「いいですか、皆さん!このクラス全員が『1票』を持っています。王族だろうが公爵令嬢だろうが、『対等』な1票ですわ。自信を持って、背筋を伸ばして、自分が信じた道を進みなさい!」
不安には、激励の言葉で返す。
「それから私は、皆さんが人狼ではないと『信じて』います。少なくとも私は味方ですことよ。」
とどめで、非公式ながら「公女様からのお墨付き」を与える。モブたちの私への目線が、先ほどの同情から信頼へと変わった。
「ところで、マチルダさん。リリィさんが転校してきたばかりは仲良しでしたのに、最近は別行動なんですね。彼女と何かありまして?」
クリスティーネの疑問で、マチルダの動きが止まった。何かを思い出そうとしているらしい。だが、彼女に非はないのだ。かつてこの乙女ゲームをプレイしていたから、よく知っている。ただ、ヒロインは攻略に忙しい。それだけのこと。
「言われてみれば…どうしてかしら。」
マチルダの表情に、疑惑の色が広がった。
――さっさとあの偽聖女の仮面を引っぺがしてやる!
「クリスティーネ様、もしかして、さっきのは。」
エリザベスが何か納得をしたようにウンウンと頷いていた。
「下級貴族からの信頼を得て、処刑と人狼襲撃を回避しようとする作戦ですの?」
その通りだ。処刑回避のため、いざという時は人狼裁判での票田になってもらう。
しかも、相手はすぐに立場が危うくなる下級貴族。いくら人狼でも貴重な支持者を襲撃して、自分から立場を悪くしたりはしない。
――まあ、モブキャラの中に人狼は居ないのは分かったけど、一応ね。
名付けて、「モブキャラの盾作戦」。これで少しは安心だろうか。




