偽聖女とは何者なのか?
6月13日、土曜日。
その日は朝から、礼拝堂で生徒たちが集まり、非公式の討論会が開かれた。高等部2年1組の人狼メンバー以外も多く参加している。この学園で起きた惨劇に皆興味があるのだ。その中には、第1王子リチャードの姿もあった。
リリィの偽聖女説と脅迫状、階段からの転落事件の真相で紛糾。更に、冤罪をかけて婚約者を奪ったことが、女子生徒たちのヘイトを集めた。
会場は、実質的にはリリィの吊し上げになっていた。
ダミアンが再びリリィを糾弾。
「リリィ、脅迫状は君の自作自演だ。聖女の仮面で人狼を隠してるな?」
リリィは泣きながら否定。レオナルドが彼女を庇うが、声援は少ない。
私は立ち上がり、扇を広げる。
「皆さん、面白い推理がありますわ。次の人狼の犠牲者は…ダミアン様よ。」
礼拝堂が静まり返る。ダミアンの顔が強張るのが見て取れた。
「何…?」
「ふふ、ダミアン様、リリィさんを糾弾しすぎたわ。彼女を人狼だと決めつけるあなたは、人狼にとって邪魔者。…次の夜、血を流すのはあなたよ。」
私の言葉に、ダミアンが拳を握る。彼の目には恐怖が滲む。生徒たちがざわつき、ダミアンを避けるように距離を取る。
完璧だ。ダミアンを怯えさせ、リリィへの疑惑をさらに深める。
ふと、時計を見た。
――もう十分な仕事をしたわ。
「私、先約がございますので、これで失礼させていただきます。」
クリスティーネは淑女の礼をして、踵を返した。
「何ですか?こんな良いところで、逃げる気ですか?」
「そんなに大切な用事なんて、ある訳ないだろう!」
リリィの取り巻きたちが、色々といちゃもんをつけてくるが、どうでもいい。
「エリザベス様とランチの約束をしておりますの。」
先週の賭けで勝った、御褒美ランチの約束だ。無意味な公開討論より大切なのはハッキリしていた。
エリザベスが奢ってくれる高級レストラン。クリスティーネは上機嫌だった。
エリザベスが私の耳元で囁く。
「クリスティーネ様、ダミアン様、完全にビビってますわ! 護衛を雇ったって噂です!」
「護衛? 人狼の前では無意味よ。」
私は微笑み、彼女を褒める。ゲームは私の掌の上にある。
夜:ダミアンの動揺
夜、来客だと寮母に呼ばれ、クリスティーネは玄関まで下りて行った。ダミアンが女子寮の玄関まで訪れた。珍しく取り乱した様子。
「クリスティーネ、あの女は何者です?」
資料を渡す彼の指は震えている。恐怖に飲まれてるわね。
「この資料は?」
あくまで、何も分かっていないフリをする。
あれだけ謎が提示されれば、ダミアンならリリィの正体を調べるだろうって予想していたけれど。
「リリィの実家、シュナイダー男爵家の記録です。」
ダミアンに促され、クリスティーネは封筒を開いた。
「シュナイダー男爵家。元は平民であったが、10年前に爵位を授与される。
当主:ジミー・シュナイダー
妻:エレン・シュナイダー
子3人:ニック、マディソン、ポール
なお、リリィなる人物はシュナイダー男爵家に該当なし。」
クリスティーネが目を見開く番だった。
――こんな時期に転校生っていうご都合主義が、まさか…。
「これは…本当なの?」
「ええ。ここまで知ってしまったんだ。きっと次は私の番でしょう。」
ダミアンは諦めたように微笑んだ。
「…クリスティーネ様も、お気をつけて。あなただって聖女に狙われてもおかしくはない。」
彼はそう言い残し、去った。




