自作自演、再び
金曜の朝、リリィの悲鳴が聞こえてきた。階段の方からだった。
「誰か…! 誰か助けて!」
階段の踊り場で足を痛めてうずくまっているリリィ。
「私、誰かに突き落とされたの…。」
生徒たちがざわつき、リリィは泣き崩れる。女子生徒たちのものだろう。クスクスと嘲笑が聞こえてきた。
レオナルドが彼女を支え、ダミアンを睨む。
「ダミアン、お前か!?」
怒ったレオナルドに、ダミアンは冷静に否定した。
「私ではありません。リリィ自身が怪しいのでは?」
私は扇で口元を隠し、内心で笑う。
――うわ、リリィ、また自演かしら。それとも誰かに恨まれてる?
「証拠のハンカチもあります。犯人はこのハンカチの持ち主よ!」
ハンカチは、私の持っているものによく似ていた。
――最近落としたとか無くしたとか、そういうことは無かったわ。
「リリィ、怖かったな。」
レオナルドがハンカチを拾おうとして、ハッとこちらに目をやった。
「クリスティーネさん、まさか、あなたが?」
リリィが震える声で言うが、私は微笑むだけ。
「このハンカチ…クリスティーネ、貴様…!」
レオナルドがが胸ぐらに掴みかかってきた。
――ヴィクターみたいに剣を向けてこないだけ、まだマシね。
「あら、私ならハンカチを持っていますわよ。」
クリスティーネは悠然とハンカチを差し出した。
「見えるかしら。私、ハンカチにはイニシャルの刺繍を入れていますの。自分のものと分かるようにね。」
レオナルドがハンカチを確認する。右下に、金糸でクリスティーネのCの文字が入っている。
「そちらのハンカチ、Cの刺繍はありますかしら?」
確認をするが、犯人が落としていったとされるハンカチには何の文字も刺繍されていない。
「ふふ、犯人、見つかるといいですわね。…だって、聖女様が自作自演なんて、がっかりですもの。」
「彼女は聖女…のはずだ!お前がいくら俺の元婚約者でも、それ以上の暴言は許さない…。」
レオナルドがリリィを庇うが、彼の声にも迷いがある。
「あらあら、レオナルド様まで。…でも、信じられなくなっていらっしゃるみたいですわ。」
リリィは何も言わずに般若のように睨みつけていた。
「それから、浄化の力を早く見せてちょうだい。次の犠牲者が出る前にね。」
「偽聖女」と噂され、今やリリィの信頼は地に落ちていた。
帰る頃には、取り巻きが居なくなっていた。もうレオナルドもダミアンも、彼女を見限ってしまったのだ。
――もうすぐ終わりね、偽聖女様。




