策士は悪役令嬢を疑う
火曜の昼、庭園のベンチに座っていると、ダミアンが近づいてきた。知的なキャラらしい、冷静で鋭い目つき。
――策士の顔ね。でも、私を試すには早すぎた。
「クリスティーネ様、随分と大胆な手を打つ。金の髪飾りの一件、派手にやりましたね。ですが、大丈夫ですか?人狼がそんな目立つ真似をして。」
彼の声は、探るように静かだった。私は微笑む。
「ダミアン様こそ、疑心暗鬼が過ぎるのでは? 私の悪評を流したあなたが、人狼を語るなんて、笑いものですわ。…それとも、リリィさんの笑顔に、すっかり騙されてしまったの?」
私の言葉に、ダミアンの眉がピクリと動く。図星よ。彼がエリザベスや私の名誉を傷つける噂を流していたのは、3回目のループでも変わらない事実。でも、リリィが好き過ぎて盲信しているのが、あなたの弱点。
「リリィ? 彼女は聖女ですよ。純粋な心の持ち主だ。あなたのような悪女とは違うのです。」
――純粋? 笑っちゃう。リリィの仮面、見抜けてないのね。
「純粋? ダミアン様、よく思い出して。リリィさんが金の髪飾りを身に着けていたのは、婚約破棄よりも前からよ。私に贈られるはずだった品を、なぜ彼女が?そんなにレオナルド様に寵愛される存在だったかしら?」
クリスティーネの言葉に、ダミアンの目が揺れる。
――私も転生者だもの。こんな矛盾、簡単に見つけられるのよ。好感度持ち越しなんてダミアンには知る由もないけど、混乱させるには十分。
「そ…それは…」
彼が言葉に詰まる。効いてる。これは追い打ちをかける絶好のチャンスだ。
「それに、リリィさんがレオナルド様の好物を知っていたのも、妙ですわ。転校してきたばかりですし、食事を共にする間柄でもないのに、何故でしょうね。」
私は扇を開き、口元を隠して微笑む。ハニートラップを匂わせる言葉で、ダミアンの頭をさらに混乱させる。たったこれだけほのめかしただけで、策士の彼なら疑い始めるわ。
「まさか…? リリィが…?」
ダミアンの声が震える。きっと、6月6日のランチのことを思い出しているのだろう。
あの時、リリィは確かに王子の好物を知っていた。本来知るはずの無い情報を。
「ついでに、こんな中途半端な時期に転校してくるなんて、何があったのかしらね?」
このゲームの大前提だが、それがそもそもおかしい。ダミアンならば、謎さえ与えれば勝手に調べてくれるだろう。
「ふふ、ダミアン様、気をつけなさい。疑う者は、疑われる。私、あなたの暗躍も忘れていませんわ。エリザベス様を陥れた噂、誰が流したんでしたっけ?」
私は扇を振って立ち上がり、彼に背を向ける。
ダミアンの視線が背中に刺さるけど、無視してクリスティーネは庭園を後にした。
ダミアンに、疑心暗鬼の種はまいた。




