人狼は××を襲う①
6月7日、日曜の夜。
学園は静寂に包まれていた。
2回目のループで、私を殺したヴィクターの愚かさ。リリィに騙され、それでも愛を誓いながら私を殺していった、あの瞬間が脳裏に焼きついている。近衛騎士ヴィクター、今夜は私があなたを狩る番。人狼として、悪役令嬢クリスティーネの復讐劇、開幕だわ。
ヴィクターの部屋に、影となって滑り込む。人狼に鍵など効かない。もう、部屋の中だもの。ヴィクターは窓辺で剣を磨き、鋭い眼光で振り返る。
「クリスティーネ!? 何!? 女子がこんな時間に…!」
彼の声に驚きと警戒が混じる。近衛騎士のくせに、油断したのね。剣を手に立ち上がるまで、騎士とは思えないくらいに遅れがあった。
「ふふ、ヴィクター、剣の腕には自信がおありでしょ? でも、残念ね。今夜は私のターンよ。」
私は冷たく微笑んだ。2回目のループ、あの夜、彼の牙が私の胸を貫いた瞬間が蘇る。
――最悪の瞬間だったもの。だから、今夜借りを返すわね。
「何!? お前、まさか…人狼!?」
ヴィクターが剣を構える。月光が刃に反射し、彼の目が燃える。
「リリィを侮辱したお前を許さない! 彼女の浄化があれば、お前なんて…!」
リリィの浄化? 偽聖女の嘘に、こんなにも心酔してるなんて!何度ループしても報われない恋って、哀れね。
「ヴィクター、リリィを愛してるのね。…でも、彼女はあなたの想いに応えないわ。レオナルド様の隣を狙う偽聖女だから。」
私は一歩近づき、扇で口元を隠す。彼の剣が震える。
「黙れ!リリィ様は聖女だ!お前みたいな悪女の嘘、通用しない!」
ヴィクターが叫び、剣を振り上げる。隙だらけよ。
「人狼の権限で、あなたを殺すわ。」
私の声は冷たく、闇に響く。ヴィクターが剣を振り下ろすその瞬間、私は人ならばありえない速さで真横にかわした。彼の刃が空を切った。その刹那、ヴィクターの目が驚愕に見開く。
「な…!? お前は、何だ!?」
彼の目に移っているのはきっと、異形の獣となったクリスティーネの姿だろう。
クリスティーネはヴィクターの腹部を狙う。彼が剣を振り直す瞬間、人狼の牙が彼の脇腹を貫く。鮮血が月光に輝き、ヴィクターが膝をつく。
「ぐっ…! クリスティーネ…なぜ…!」
彼の声は弱々しく、リリィへの愛が最後の力となる。
「リリィ様…俺は…守りたかった…!」
「ふふ、ヴィクター、愚かね。リリィの浄化は嘘よ。あなた、ただの駒だったの。」
私は人間に戻りながら冷たく笑った。彼の瞳から光が消え、床に倒れ込む。
――前回の借り、確かに返したわよ。
復讐のクリスティーネ劇場は、まだ第1幕が終わっただけに過ぎなかった。




