楽しいティータイム②
噂、人狼裁判、目撃してきたこと。エリザベスはその全てから、自分なりの考察を語っていく。
彼女の語る考察は、もはや1つの物語のようになっていた。
聖女様は、道ならぬ恋に悩んでいました。
相手の名は、ダミアン・フォン・グスタフ。
身分違いの恋の上、相手には婚約者も居ます。
そこで、聖女様は考えました。
婚約者の瑕疵を暴き、婚約破棄をさせたら良いと。
しかし、ダミアンは一枚上手、人を騙す人狼でした。
ダミアンは聖女の側で暗躍しているのです。
ある時、聖女様はダミアンの正体に気づいてしまいました。
聖女様は浄化の力で次の犠牲を防ぎながら、今日も道ならぬ恋を貫いているのです。
運命の人を守るため、公女クリスティーネに罪をなすりつけながら。
「私の推理は以上です。」
エリザベスが言い終わるまで、クリスティーネは相槌を打ちながらニコニコと聞いていて、終われば拍手までしていた。
――考察としては、一番多いパターンね。
リリィが聖女であることから、リリィ人狼派はまだ少ない。今のところ人狼の本命は、婚約破棄を狙う2人の男。伯爵令息ダミアンか第2王子レオナルドかと論争になっている。噂の上では、クリスティーネは可哀相に無実の罪を着せられそうになっている人という設定になっている。近衛騎士ヴィクターは、先日のクリスティーネ潔白宣言で剣をしまいひざまずいたことで、人狼としての疑いは晴れていた。
次の犠牲者が出る頃には、この考察は少数派になってくるだろう。聖女は浄化なんて出来ないと分かれば、リリィが聖女であるという大前提から揺らぐことになるから。
――最初から、聖女の力で浄化するなんて言いださなければよかったのに。
「エリザベス様。参考までに、あなたの推理を聞かせて。」
クリスティーネが質問を始める。
「もしもの話よ。万が一、聖女の浄化ができずに襲撃が起こるとしたら、人狼は次に誰を襲撃すると思う?」
クリスティーネの質問に、エリザベスが顔を曇らせる。エリザベスは聖女の力を信じているし、クラスメートがこれ以上犠牲者になるなんて考えたくはないのだ。
「えっと…。ボブかヴィクター様のどちらかだと思いますわ。」
「どうして?」
悩んだ末の答えに、クリスティーネはさらに質問を重ねた。
「だって…。ボブは顔が広くて、噂を流して邪魔だし、ヴィクターは形式だけでもクリスティーネ様にひざまずいて、クリスティーネ様の陣営に入ったから。」
「でも、愛にはレオナルド王子だって邪魔よ。レオナルド王子襲撃はないの?」
「絶対にありえませんわ。ダミアン様、きっとレオナルド様を殺したりはしない。だって、人狼の対抗馬を殺したら、次の人狼裁判で処刑されてしまうもの。」
推理を披露する間、エリザベスの瞳はキラキラと輝いていた。
2人がケーキセットを美味しく味わったころ、カフェにリリィと恋愛脳の一団がやってきた。
――帰るタイミングで良かった。せっかくのケーキがまずくなったら嫌だもの。
「え!メロンシフォン、もうないの!?」
その時、店員相手に大騒ぎする、リリィの声が響いた。
「レオナルドの好物なのよ!王子様の好物ひとつ準備出来ないの!?」
聖女から面倒くさいクレーマーになったリリィが怒鳴りつけていた。
「リリィ。騒ぎは大きくしない方がいいですよ。」
ダミアンが冷静に止めていた。
「あら、聖女様、レオナルド王子、皆さんご一緒にデートかしら?」
店を出る時に、ニコニコしながら煽っておいた。
リリィは騒げないし、店ではヴィクターも剣を抜けない。いい気味だ。