楽しいティータイム①
6月6日、土曜日。
クリスティーネはエリザベスと連れ立って、街へくり出すところ、水を差された。やってきたのはボブだった。
「公女様、あの噂は本当ですか?この間、身の潔白を証明して、剣を向けてきたヴィクターをひざまずかせたって。」
聞かれたのは、木曜日エリザベスの部屋へ行く前の出来事だ。
「ええ、本当よ。」
クリスティーネはニコニコと答える。
「さすが公女様、すげーや。噂の真相、お答えくださりありがとうございます。」
ボブは紳士の礼をして満足そうに去っていった。ボブはヴィクターが嫌いだと公言していたから、噂を広めてくれるだろう。
「一体、何だったんですの…?」
エリザベスだけが何も知らず、首をかしげていた。
道中でネタばらしをすると、案の定エリザベスは目を白黒させて驚いていた。
エリザベスとティータイムに訪れたのは、元宮廷料理人が営む、オシャレなカフェ。
「ここのシフォンケーキ、大好きなんですの。」
エリザベスは、食べるどころか注文する前から、至福の表情を浮かべていた。
「美味しいですわよね。」
クリスティーネも、エリザベスに同調した。確かにこの店のケーキは美味しいのだ。
「あら、今月の限定、メロンシフォンケーキですって!素敵!これにするわ!」
エリザベスはメニューを見ると即決した。何度もループしているクリスティーネにとっては珍しいものではないが、エリザベスにとっては貴重な限定品だ。ショーウィンドーには残り2個だったから、クリスティーネも同じものを頼んだ。これで、メロンシフォンケーキはなくなった。
ダージリンのカップを置き、エリザベスが切り出した。
「クリスティーネ様、今回のゲーム…誰が人狼だと思います?」
クリスティーネはフォークを置いて微笑む。
「ふふ、エリザベス様。あなたは誰だと思う?」
彼女は目を伏せ、囁く。
「ダミアン様…怪しいですわ。私の悪評を流すなんて、人狼の策略では?」
――鋭いじゃない、エリザベス。でも、ダミアンはただの策士。本物の「人狼」は…ね。
「可能性は高いわね。でも、リリィの聖女ぶりも気になるわ。あの祈りは、ただのパフォーマンスかしら?」
エリザベスを味方につけつつ、私はリリィへの疑惑を植え付けようとする。
「でも、リリィさんは聖女様でしょう?彼女が居たら、次の犠牲者は出ないって。」
エリザベスは、無邪気に噂を信じ込んでいた。
「あら、じゃあ、1つ賭けをしましょうか。」
クリスティーネはニコニコと笑いながら持ちかける。
「聖女の浄化のおかげで、次の人狼の犠牲者が出なければ、あなたの勝ち。犠牲者が出たら、私の勝ち。そうね…負けた方が次の週末にランチをご馳走する、でどうかしら。」
「あら、面白そう。その賭け、乗りますわ。」
エリザベスもまた意地悪そうに笑った。ダミアンの件が完全に吹っ切れているらしく、ホッとした。
――エリザベス、いい顔するじゃない!
これでエリザベスが賭けに負けたらきっと、彼女の心にも刻み込まれるだろう。「聖女の浄化は嘘だった」って。
「ところでクリスティーネ様。私の推理、聞いてくださる?」
真剣な面持ちで、エリザベスは自分の考察を語り始めた。