カウンター攻撃は考察合戦
6月5日、金曜日。
学園は、噂で沸き立っていた。
クリスティーネが、裏で動いていたのだ。
「私クリスティーネとエリザベスの悪評を流してるのは誰?」
さりげなく聞き込みを始めると、すぐに反応が。
「ダミアン様から聞かれたわ」
「私も!」
と報告してくれる子女が続出。単純な子たちね。
昨日クリスティーネが潔白宣言をしたこともあって、話題性は抜群。
さらに、ボブも同じように聞き込みをしている。ボブは男爵位まで叙勲されるような商会の息子だけあって、話術もうまく、顔も広い。噂の拡散には最適な人材だった。
ボブはついでに、びりびりに破かれてしまった、脅迫状の冤罪事件の話まで、面白おかしく真相を暴露しているらしい。
あっという間に、ダミアンが黒幕だという噂が広まった。
「レオナルド王子が婚約者を排除しようとしてるのでは?」
「いや、聖女リリィの裏の顔が…!」
ちょっとしたヒントを与えたら、生徒たちの考察合戦が過熱し、噂はさらに加速。クリスティーネは手を汚さず、ダミアンとリリィへの疑惑が膨らんでいく。
食堂ですれ違った時、ボブはウインクしながら、親指を上げてサムズアップしてみせていた。
夕方、廊下でダミアンと鉢合わせた。
「クリスティーネ様、最近お元気そうですね。」
クイっと上げた眼鏡の向こう側。彼の瞳は、探るような冷たさを帯びている。
「あら、ダミアン様こそ。噂の収集、お忙しそうで。」
クリスティーネの言葉に、彼の目が一瞬見開かれた。
――図星ね。
「人狼ゲームは推理の勝負です。疑うべきは、扇で口元を隠す者ですよ。」
それでも、頭の回転で巻き返す。さすがは冷静な頭脳キャラである。
「あら、誰かさんの影に隠れて暗躍している者だって、十分怪しいですことよ。」
にっこり笑って、クリスティーネも反撃した。
「可哀相に、エリザベス様も泣いていましたわ。」
婚約者の名前が出たら、さすがにギクッとしたらしかった。
――女の子を泣かせた罪は重いのよ。
とはいえ、エリザベスもそんなにヤワじゃない。
今回の噂のカウンターの件は、エリザベスにも許可をとっていた。
「ねえ、エリザベス様。反撃したらダミアン様を叩き潰してしまうかも知れないけれど、大丈夫?」
「あら、婚約破棄された令嬢の行く末なんて、悲惨でしょ。徹底的に叩き潰して、あちらの瑕疵のせいで婚約解消にするくらいで、ちょうどいいですわ。」
こちらがぞっとするくらい、美しい笑顔で当然のように答えた。
さすがはもう1人の悪役令嬢。敵に回したくないタイプだ。