クリスティーネ劇場、開幕
これで三度目のループ。だが、今回は一味違う。ループの一瞬、脳裏に浮かんだあの文字――。
「クリスティーネ:人狼」
ついにクリスティーネに牙が与えられた。もうやられっぱなしの悪役令嬢ではないのだ。
――処刑ルートだけは避けつつ、このゲームを私の舞台にしてやる!さて、誰からいこうかしら。
そして、クリスティーネの中に居る私が決意したこと、それは。
――あの女には、人狼の牙は使わない。リリィを殺すには処刑一択よ。
同じ死でも、人狼の襲撃と処刑では意味が全然違う。
人狼に殺されたものは、痛ましい事件の被害者として悲しまれる。
処刑される時は、皆から疑われ、人狼だと恐れられる。そこに同情なんてない。正しいかどうか関係なく、悪い加害者として断罪される。
――「可哀相な被害者」で物語を終えてしまうなんて復讐、生ぬるいでしょ?
私は、ゲームそのものが持つ矛盾点を利用することにした。
転校生である聖女リリィは、ループを繰り返しているうちに、最初から攻略キャラクターの好感度が高い状態になっている。
――このループの存在を知らない人からしたら、明らかにおかしい存在よね。
なぜ、転校してきたばかりの少女が、王子をはじめとした男性たちに、最初からこんなに好かれているのか。
そして、なぜ平和だった学園に人狼が紛れ込んでしまったのか。
人間、答えがあったら飛びつきたくなるものだ。たとえそれが真っ赤な嘘だったとしても。
今回、私は、ある嘘の解答を考えたのである。
「人狼はリリィであり、リリィは王位継承争いの駒として送り込まれたスパイである。」
突拍子もない話だ。しかし、これは王子やらその側近やら、婚約者やらが巻き込まれた人狼ゲームなのだ。そんなことがあっても不思議じゃないと、皆に思わせれば、それでいい。
今回のループはこの嘘をつきとおす。それがクリスティーネの決意だった。
――私の嘘に、皆で踊ってもらうわよ。
人狼、悪役令嬢クリスティーネ劇場が、幕を開けた。