人狼の惨劇
6月7日、日曜の夜。
惨劇は、残念ながら私の側に訪れた。
あの時、クリスティーネは女子寮の自室で、人狼の状況を整理していた。ダミアンの暗躍に振り回されながらも、何とか生き延びた。必要なピースは揃えた。あとは、ダミアンの正体さえ割れれば…そう思っていた、その瞬間。
「リリィを傷つけた罪、償え!」
怒鳴り声にビクッと体を震わし、振り返る。そこには、近衛騎士ヴィクターが立っていた。女子寮の、鍵をかけた私の部屋に!
「ヴィ…ヴィクター!? どうやって…!?」
声が震え、心臓が跳ねる。どういうこと!? 鍵は確かにかけた。窓も閉めた。なのに、なぜ彼がここに!?
「俺が人狼だ。お前を殺しに来た。」
クリスティーネの恐怖でひきつった顔に、ヴィクターは得意げに笑った。
「待って…! 人狼はダミアンじゃ…。 だって、彼が噂を…」
頭が混乱する。
―― ダミアンが人狼だと確信していたのに、ヴィクター!? なんで…。
ヴィクターが嘲るように笑った。真っすぐな熱血バカはもう消えていた。
「ダミアン?アイツは噂好きな卑怯者だろ。だが、お前は違う。リリィの心を踏みにじった悪女だ! 彼女を泣かせたお前は、許さない!」
「泣かせた!? ヴィクター、誤解してるわ! 彼女の涙は偽物よ!」
私は必死に叫ぶ。だが、恐怖で声がかすれてしまう。
「偽物? 構わない。俺も偽物の人間だからな。」
呟いたヴィクターの顔は悲しげで、笑っているようにも泣いているようにも見えた。
「なにより、リリィの心はレオナルドのものだ。…でも、だからこそ、俺は彼女を守る! 」
ヴィクターが絶望と狂気に取り込まれながら叫んだ。リリィへの報われない片思いが、私への怒りへと向いていた。
「クリスティーネ・フォン・ランカスター! リリィを汚すお前は、俺の人狼の力で始末する!」
彼の姿が、大きな異形の獣へと変化した。人狼の牙が振り下ろされる瞬間、私の視界が暗転する。痛く冷たい絶望が全身を包んだ。
意識が薄れる中、私は誓った。
私を殺したヴィクター。
私の評価と友達をボロボロにしたダミアン。
私を断罪しようとしているレオナルド。
そして、すべての元凶、リリィ。
みんなまとめて潰してやる!
そして、私はまた――初日にループした。