メロンとキノコ
6月7日、日曜日。
本来のゲーム進行なら、この日の昼にクリスティーネとリリィが口論になり、リリィを噴水に突き飛ばすはずだった。
もちろん、クリスティーネは突き飛ばしたりする気はない。だって、処刑ルートの口実になってしまうから。
代わりに、聞こえてきたのは男2人の怒鳴り声。どうやら噴水の近くで口論らしい。
人狼の危険が迫っている今、皆が殺気立っている。だから、いつもなら気にならないようなことでも簡単にケンカに発展してしまうのだ。
「一体何の騒ぎですの?」
気になって見物に行くと、そこには先に来ていた野次馬たち、掴みかかっている近衛騎士ヴィクターと伯爵令息ダミアン、そしてリリィが居た。リリィは自分に酔っていますと言わんばかりに、涙を流していた。安っぽい学芸会でも見せられているようで、気分が悪くなる。
「レオナルド様にキノコをお出しするなんて、言語道断!」
「リリィは知らなかったって言ってんだろ!」
「しかし!」
「彼女を疑うなら、俺も戦うぜ!」
「お願い!喧嘩はやめて!私のために争わないで!」
――あ、大嫌いなキノコ作戦、成功したみたいね。いい気味。
レオナルドが居ないのは多分、怒って帰っちゃったからね。
口論の内容があまりにくだらなくて、思わず笑みがこぼれてしまう。
「好き嫌いしないでちゃんと食べましょうね!」なんてたしなめられる王子が居たら、そいつは幼稚園から出直して来たらいい。
――昨日宣言したばっかりなのに。『運命の人』と絶交するなんて、ずいぶん安っぽい運命だったのね。
内心馬鹿にしながら3人を眺めていたその瞬間、リリィと目が合った。
「クリスティーネよ!あの女、私に嘘を教えたの!」
リリィが私を指さしてきて、それに追随してヴィクターが突進してきた。
「リリィを傷つけるなら、俺は容赦しないぜ!」
「あら、そんな証拠、どこにありますの?どうせリリィさんのデマでしょう?」
火曜日のことを思い出す。密室、誰もいないトイレ。だからこそ豹変したのだろうけれど、裏目に出たわ。
鬼の形相で睨みつけるリリィ。
――わー、怖い。本性が出ちゃってるよ。
「それからもう一つ。」
あくまで冷静に告げる。あなたとは違うと、分からせてやるために。
「下級貴族の分際で、クリスティーネと呼び捨ての上、『あの女』呼ばわり。無礼極まりないわ!」
ビシッと決めると、リリィ御一行はゴニョゴニョと文句を言って、その場から逃げて行ってしまった。
――噴水で事件にならなくて、良かった。
髪飾りの件は、今度レオナルドも一緒の時まで大事に取っておこうと心に決めた。だって、面白い反応が見られそうだから。
もしも、彼女にレオナルドと再度仲良くなれるチャンスがあるならば、だけどね。