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悪役令嬢は人狼かしら?  作者: 塩麴とまと
ループ1:私は人狼じゃない!
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婚約破棄と無実の罪

「クリスティーネ・フォン・ランカスター!」


聞き覚えのあるCV、もとい声が礼拝堂に響く。


「お前がこの学院で陰謀を企て、人狼となってリリィを陥れようとしたことは分かっている! よって、俺はお前との婚約を破棄する!」

目の前で、美しい金髪の王子様が婚約破棄を宣言した。


――はいはい、定番の婚約破棄イベントね。…ってちょっと待ってよ!


「え…私が、何?」


私は戸惑って、自分の着ている服装に目をやった。金糸の刺繍の入った、豪華な深紅のドレス。腰には黒いリボン。黒いレースの手袋まで身に着けている。

美しくも毒々しい服装が目に入った瞬間、私は自分が誰になっているかを理解した。


今の私はクリスティーネ・フォン・ランカスター、乙女ゲーム「恋♡は人狼とともに」の悪役令嬢。公爵令嬢であり、今ここでで断罪を行っている第2王子レオナルドの婚約者だ。


「はあ、なんでよりによってこんな…。」


よりによって、人狼ゲームの、しかも悪役に転生したのか。何より、クライマックスの婚約破棄のタイミングで?私は運命を呪った。


クリスティーネは、典型的な『悪役令嬢』。主人公である聖女リリィに嫉妬し、主人公に数々の嫌がらせをするけど、最後には自滅する。きっと原作のゲーム通り、リリィの髪飾りを強奪したり、脅迫状を送り付けたり、中庭にある噴水に突き落としてみたり、婚約破棄までに数々の嫌がらせをしてきたのだろう。

最低な奴だと良心が痛む。だって、今の私はただのクリスティーネではないのだから。私のように今まで現代日本で生きてきて、急に転生したら、誰だって酷い奴だと思うはずだ。


金髪をなびかせた第2王子レオナルドと、その後ろに控える聖女こと、男爵令嬢リリィが、私と向かい合っていた。リリィの柔らかな微笑みとピンクの髪、レオナルドの鋭い視線が、私に突き刺さる。


礼拝堂が一瞬静まり返り、すぐに生徒たちの囁きが波のように広がった。


「お前は人狼の容疑者だ!証拠はいくらでもあるぞ。お前が潔白な訳がない!」


レオナルドが勢いよく指さす。まるで、「犯人はお前だ」とでも言いたい感じ。でも、自分が人狼じゃないってことは、自分が1番よく知っている。


「はい?」


一同の視線が一斉にクリスティーネに集まった。レオナルドの側近、赤髪の近衛騎士ヴィクターが鋭い目で私を睨み、いつでも剣を抜けるように構えている。リリィは悲しそうに俯いている。伯爵令息ダミアンは冷静に状況を観察し、眼鏡を指でクイっと上げた。モブキャラたちは不安そうにこっちを見ているが、容疑者が2人足りないのは、もう殺されたからだろう。

悪役令嬢の親友エリザベスだけが、気の毒そうに私を見つめていた。


――ああ、親友っていいな。あなただけよ、私のことを気遣ってくれるのは。もう処刑されちゃうから関係ないけどね。


「クリスティーネ、言い訳は?」


レオナルドがニヤリと笑う。婚約破棄された時点で手詰まりだ。クリスティーネは深呼吸して立ち上がった。


「レオナルド王子、証拠もなく私を断罪するなんて、貴方、王子としての器は無さそうね。」

それを聞いた瞬間、レオナルドの顔に怒りが浮かんだ。


「それに、私が人狼ならもっとうまくやりますわ。」


このゲームを何度もプレイしてきた者としての率直な言葉に、礼拝堂がどよめいた。


「それが最後の言葉かい?きっとこいつが人狼だ!こいつを処刑してしまえ!」


レオナルドの一言で、ゾロゾロと入ってきた学園の護衛兵たちに羽交い絞めにされた。


――せめて、投票だけはスキップしないで欲しかったわ。


教室内の誰もが不安そうに、恐ろしいものを見るようにクリスティーネを見つめる中…。

聖女リリィだけが、ニヤッと勝ち誇ったような不敵な笑顔を浮かべていたのが不気味だった。


そして、連行されるクリスティーネとすれ違った瞬間に、リリィがボソっと一言。他には聞こえないように。


「あー。ホントにチョロいわ。」


あまりの無礼な言葉に、クリスティーネは鬼の形相で睨みつけた。でも、出来たのはたったそれだけ。


「まあ、怖い。悪役令嬢は人狼かしら?」


礼拝堂から処刑台へと連行される中、聖女リリィが最後に浴びせてきた言葉に、鳥肌が立った。言いたいことは出かかっているのに、喉が張り付いて、声が出ない。クリスティーネは口をパクパクさせるだけだった。


――人狼は、今回の本当の悪役令嬢は、聖女リリィでしょ!


断頭台に立たされ、今まで感じたことも無いほどの激痛が襲う。それも一瞬だった。


初めてのループは、たった半日。処刑という最悪の形で幕を閉じた。

薄れる記憶の中、「悪役令嬢は人狼かしら?」という悪魔のようなリリィの声が何度も頭の中でこだましていた。


そして気づけば、クリスティーネは人狼初日の教室に立っていた。



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