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フォーロイト帝国情報部   作者: 十和とわ
番外編・季節イベント
17/37

番外編 ある王女の給仕体験 前編

2025年ハロウィン記念番外編です。ハッピーハロウィンということで、またもや仮装をテーマにした番外編となります。

前後編の二話構成です。よろしくお願いしますヽ(´▽`)/

時系列的には狩猟大会後神殿都市との親善交流直前の、春真っ盛りの頃合いです。


第五章・帝国の王女 第七節・氷都決戦編

741.Side Story:刹那と悠久の狭間で2 までのネタバレを含みます。

 目指せハッピーエンド同盟でのゲーム本編開始前最終作戦会議を終え、国教会への親善交流のお誘いをしたためた数日後。

 そろそろ始まってしまうゲーム本編へ漠然とした不安を抱いていた私は、気晴らしに街へと繰り出した。

 本日の変装は久々の金髪(byシルフ)。私が変装しているのにお付きの二人がそのままでは意味が無いからと、本日のアルベルトとイリオーデは揃って私服での随伴と相成った。


 私が押し付けた春コーデを見事に着こなす二人は、さながら歩く広告塔。どんな場所でも彼等が歩けばスプリングコレクションのランウェイと化す。

 イリオーデはその美形っぷりが身分問わず広く知られているものだから、追加でリムレスの伊達眼鏡を与え髪型も未亡人スタイルに変えてもらったのだが……それはもう儚い、今にも桜に攫われそうな幸薄美丈夫が爆誕してしまった。

 私服でも必ず帯びている長剣(ロングソード)の異物感が凄まじい。

 ヘアアレンジに若干の抵抗を見せるアルベルトも、私が髪をいじるぶんには文句が無いようで、普段の耳掛けスタイルからセンター分けに変更。更に擬似ヘアアイロン(by師匠ハンド)で毛先を緩く巻いた。

 相変わらずのワンコっぽい表情から溢れ出す、この圧倒的ゆるふわ感。どちらかと言えばアルベルトの方が春コーデのモデル感がある。


 そんなフォーロイトスプリングコレクション優勝待ったなしの二人を引き連れ、優勝などという概念がファッションショーにあるのかどうか知らないが、私は堂々と街に出た。

 ……ちなみに、暇だったらしいシルフと師匠とシュヴァルツも一緒に来ている。というか勝手についてきた。変装必須と言いつけたので、三体(さんにん)共、わりと雑な変装はしてくれたが。

 それでも彼等の顔面偏差値の高さは何一つ隠せない。周囲の羨望と嫉妬の視線を独り占めに街の様子を眺めながら、ぶらぶらと散歩していた時。目の前で、一人のご婦人が盛大に転倒した。


「大丈夫ですかお姉さん!?」

「お待ちください! 王女っ……我が主!」

「そのような事は我々にお任せください主君!」


 いの一番に駆け出した私を、イリオーデとアルベルトが追いかけてくる。

 盛大に足を擦りむいたらしいご婦人の体を支えてみると、彼女は困ったように笑いながらこちらを見上げた。


「いたた……ありがとうね、可愛いお嬢さん。私は大丈夫よ……ってこんな所で転んでいる場合じゃないわ!」

「そんなに慌てたらまた転んで怪我しますよ!?」


 ご婦人が擦り傷もそのままに慌ただしく立ちあがろうとしたので、思わず肩を掴んで引き留めた。

 すると私の意図を察してか、すかさずアルベルトが紳士然とした振る舞いでご婦人の手を取り、微笑みながら話しかけた。


「春風のようなマダム、お急ぎのところすみません。もしよろしければ……わたくしどもに、貴女を煩わせる事柄を教えてはいただけませんか? 目の前で傷を負った淑女を放っておくなど、わたくしどもには到底出来ませんから」

「まあ……っ! 素敵な方……若い頃の夫にそっくりだわ……」

「お褒めに預かり光栄です。──マダムをこのまま地面に座らせ続ける訳にはいかないので、一度あちらのベンチへ……。そこで傷の手当ても致しましょう」


 それはもう立派な紳士ムーブで、アルベルトはご婦人をお姫様抱っこし、宣言通り近くのベンチにて応急手当てを行った。土汚れなどを落とすのは私担当で、傷そのものの治癒はシルフ担当だ。

 この流れで何故か私がご婦人の隣に座り、アルベルトは私達の前で跪き、イリオーデはそのまた後ろでシルフ達と共にベンチを囲むように立っている。

 そして私達は、ご婦人──カリネさんからあれ程に慌てていた訳を聞いた。


「私、夫と二人で喫茶店を営んでいるのよぉ。今日もこの後からお店を開かなきゃいけないのに、いつもお手伝いに来てくれている子達が急病や急用で来られなくなっちゃって……私も夫も厨房担当だから、お客さんの相手が出来なくて。臨時のお手伝いさんを見つけるために走り回ってたのよ。でも中々見つからなくってねぇ…………」

「成程。人手不足と……」


 それならあの慌てようも頷ける。

 開店時に人数が足りないのは非常に困るだろう。ピンポイントでホール担当が不在でキッチン担当が料理も見つつホールに出る羽目になるなんて、考えただけでも凄く大変そうだ。


「……あの。もしよければ、私達がお手伝いしましょうか?」

「え? いいのかしら……お嬢さん達、とっても良い服を着ているし……きっと特別なお出かけの日なんでしょう? 悪いわよぉ、こんなおばさんのお店を手伝ってもらうなんて」

「大丈夫ですよ。特に予定も無いので。ね、皆」


 同行者達に意見を求めれば、


「貴女様が給仕など、と言いたいところではありますが……貴女様がどうしてもと仰るならば」

「ご命令とあらば」

「いいっすよー。なんか面白そーですし」

「アミィと一緒ならなんだって構わないよ」

「暇潰しになるといいんだがなァ」


 彼等も二つ返事で首を縦に振ってくれた。

 これにはカリネさんも目を丸くして、喜びからか頬を緩めている。


「なんて優しい方達なの……っ、それじゃあお言葉に甘えて、お手伝いをお願いしてもいいかしら? ちょっと変わったお店だけれど……」

「任せてください! お力になってみせますよ! 多分!」


 と、自信満々に臨時のお手伝いを申し出た私だったが、この安請け合いを早々に後悔する事となった。



「まさか、カリネさんの喫茶店がコンセプトカフェだったなんて…………!」


 喫茶店の名前が『もふもふカフェ』の時点で察するべきだった。だが胸を貸した手前、もう後戻りはできない。諸々の説明なんかを聞いた後、喫茶店のホールで渡された制服を見て私は頭を抱えていた。

 カリネさんの喫茶店『もふもふカフェ』は、もふもふな動物をコンセプトにした喫茶店らしい。

 黒いカマーベストに黒いソムリエエプロン、胸元の黒のクロスタイと、男女共用のシックな制服なのだが……ここからが問題だ。

 何せこの店のコンセプトは『もふもふ』。しかし店内に動物(もふもふ)は見当たらない。ならばどうするか。


 ──人間が動物になりきるしかない。

 お店には何種類のもケモ耳カチューシャと、デフォルメ化された尻尾のおもちゃが備えられている。そこからカリネさんご夫妻の狂気をひしひしと感じたものだ。

 どうやら夫婦揃って大の動物好きなのだが、お二人とも動物と触れ合えばくしゃみや咳が止まらなくなるそうで、何も飼えないらしい。恐らくは何かしらのアレルギーなのだろう。その無念を晴らすべく生まれたコンセプトが、この『もふもふ』と思われる。

 そんなわけで、ホール担当はこのケモ耳カチューシャとアクセサリータイプの尻尾をつけ、更に語尾をその生き物っぽくするのがルールらしい。なんなんだこの喫茶店は。


「うぅ……どうせやるならかっこいい動物がいいわ。狼とか狐とか……狐の尻尾、九個あったりしないかな……」


 覚悟を決めて、担当する動物選びに移る。

 開店まであと三十分程しかない。一通りメニューやルールは聞いたが、上手くやれるか不安しかないわ。


「えー! 姫さんは絶対こっちですよ」

「猫? 猫はシルフでしょう?」

「いやいや。このヒトがそんなタマに見えますか? シルフさんなんてね、熊ですよ、熊。無害ぶっても結局は手がつけられない凶暴な生き物です」

「お前よくそれをボクの前で言えたな?」


 師匠から手渡されたのは猫耳カチューシャ。

 私はどちらかと言えばかっこいい動物がいい。そりゃあ猫も好きだけど、やはり私の中で猫と言えばシルフなのだ。


「アミレス、オレサマはどれを着けりゃァいいんだ? オレサマってば何でも似合っちまうから、べつに何でも構わんが」

「……シュヴァルツもやるの? 王様なのに」

「これもまた一興、ってコトだ。つーかそもそも、オレサマついこの間まで侍女の真似事してたんだぜ? 今更だろ」

「たしかに」


 本人がやる気なら止めるのも野暮というものだろう。


「シュヴァルツは狐が似合うんじゃないかな?」

「狐か。お前さんがそう言うのなら、オレサマは狐にしようか。オラ、狐の耳と尾を寄越せルティ」

「はいどうぞ」

「おう、ありがとさん」


 早速狐の耳をつけたシュヴァルツ。今日の彼は雑変装の為に、オーバーサイズの七部袖シャツとスキニーのようなぴっちりとしたパンツで、黒曜と純白の長髪を低めの位置で一つ結びしている。普通の人と違うところがあるとすれば、尖った耳と黒い眼ぐらいなものだ。

 大きなアホ毛が揺れる頭に添えられた茶色の狐耳は、色の違いすら気にならない程、彼の派手な顔とよく似合っている。


「お前が思う格好いい動物に扮した最高に格好いいオレサマだ。どうよ、格好いいだろ?」

「凄くかっこいいよ! このまま制服にも着替えてきたら?」

「ふ、ふん。まァ、そこまで言うなら着替えてくるか」


 変の魔力でサイズを変えた制服を手に、鼻歌混じりで裏の休憩部屋に向かうシュヴァルツ。

 同じタイミングで師匠とシルフが緩めの取っ組み合いを始めたので、一旦そちらはスルーして、春コーデがよく似合う我が従者達の担当動物を聞くことにした。


「イリオーデとルティは何にするか決めたの?」

「いえ……勝手が分からないもので。余った物にしようか、と」

「俺も同じです。主君がお選びになってから決めようかなと思っております」

「そうなんだ。二人さえ良ければ、私が決めてもいい?」

「願ってもない話です。是非ともよろしくお願いします」

「主君に決めてもらえるなら……! 喜んで!」


 実のところ、ラインナップを見た時から二人に着けてほしいものがあったのだ。


「イリオーデは狼で、ルティは犬。どうかな?」

「異論ありません。エンヴィー様もいらっしゃるので、先んじて私は着替えて参ります」

「犬……! 俺、主君の犬やります! 俺も着替えてきますっ」


 やはり彼等は大型犬だ。まだケモ耳カチューシャをつけていないのに、耳と尻尾の幻影が見える。

 制服を持って休憩部屋に向かった二人の背を見送り、さてお次は師匠とシルフだと振り返れば……


「やっぱり姫さんは猫だと思うんですよ」

「お前、分かってるじゃないか。そうだよアミィは犬よりも猫の方が似合うんだ」

「なんて言うんですかねー。剣握ってる時の凛々しいところと、甘いモン食って頬蕩けさせてるところのギャップが、犬って言うより猫なんすよ。たまーに頼ってくれるところとか、まさに猫です」

「そうそう。普段抱き着いたら『重いよ』って言うか無視するのがほとんどなのに、稀に抱き締め返してくれるんだ。あれは猫だよ。完全にそうだ。猫って人間に塩対応なんでしょ?」

「らしいっすね。俺も実のところ、シルフさん以外の猫の実物をあんまり見たことが無くて……前に街で見かけた野良猫は、俺が近づいたらすげー威嚇して逃げて行きましたよ」

「へぇー。図鑑通りの生態なんだね、猫って」


 彼等はなんの話をしているんだろうか。


二体(ふたり)はどの動物にするの?」

「俺等っすか? んー……まー、姫さんが猫なんで、残りは兎や熊や馬になりますし……となると。俺は熊にしましょうかね。なんか、デザインが俺の知ってる熊とちょっと違いますけど」

「エンヴィーは馬鹿なの? それ、多分熊猫(パンダ)ってヤツだよ。お前が好きな獣人の国にしか生息してないらしいけど、熊猫(パンダ)って」

「え!? これが噂の熊猫(パンダ)なんですか!?」


 黒くて丸い耳のカチューシャと白くて丸い尻尾を凝視して、師匠がこれでもかと目を丸くする。

 というかパンダいるんだ、この世界。知らなかったわ。パンダを生で見たことはないんだけど、実物って凄く可愛いんだろうなぁ……。

 そしてどうやら私は猫で確定しているらしい。


「じゃあエンヴィーは熊猫(パンダ)で……ボクはどっちにしようかな」

「シルフは兎さんが良いと思うよ。寂しさで死んじゃいそうなところとかよく似てる」

「アミィはボクを何だと思ってるの……? 概ね事実だけど…………」

「事実なんすね」

「偏見が当たってしまったわ……」


 なんて話しているうちに、着替え終わったシュヴァルツ達が戻ってきた。うちの従者達もアイドルばりに早着替えが得意なようで、もう制服に着替えている。

 お揃いの制服をスタイリッシュに着こなし、それぞれ狐や狼や犬のケモ耳カチューシャと尻尾をつけている。変装の為のヘアアレンジも相まって、別人のようだ。


「着替え終わったが……後は、語尾を動物に寄せるんだったか。狐っぽい語尾ってなんだよ」

「『コン』とか?」

「狼は何と言えばいいのだろうか」

「そりゃァ、『ウォォーン』だろ」

「それは語尾と言えるのか?」

「どう考えても変だね」

「ルティは楽でいいよなァ。『ワン』でいいんだからよコン」

「シュヴァルツ君、語尾つけるの下手すぎワン」

「結局、狼は何と言えばいいんだ…………」


 なんだかんだで仲が良いようで、彼等は雑談しつつ現れた。

 そんな彼等と入れ替わるように、三つ編みおさげが可愛いニットベストとチノパンのカジュアルコーデなシルフと、丸い色付き眼鏡とパリッとしたカッターシャツにズボンという貴重な洋装の師匠も、並んで着替えに行った。

 褒めろと、隙あらば賛辞を要求してくるシュヴァルツをかっこいい! と本心から褒めたり、イリオーデとアルベルトを可愛いと甘やかしていると、数分程でシルフ達が戻ってきた。


「エンヴィーお前、面白いくらい似合わないな」

「逆に聞きたいんですけど。こんなでけー男に、ふわふわ〜もふもふ〜な生き物が似合うと思います?」

「いや全く」

「でしょう? そーゆーアンタは…………フィンさんやラブラが全速力で駆け付けそうなぐらい似合ってますね」

「当然。だってボクだからね」


 この世全ての生き物が虜になること間違い無しな圧倒的可愛いさのドヤ顔兎さんと、ああは言うが正直めっちゃ似合ってるイケメン熊猫(パンダ)が現れた!


「あのシルフって世界に晒していいのかな……」

「怪しいところではありますね」


 はわわとなりながら呟けば、アルベルトが即座にノッてくれた。やはり私の執事は有能だ。


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