安息の地へ冒険を ② 近寄る少女の過去
2日目
起きると、周りにはミラルがいなかった。
少しすると帰ってきて、近くに湖を見つけたらしく、顔を洗ってきたようだ。
周りもどんどん森になってきて、遠くが見えなくなってきていた。
「僕も顔を洗いに行くかぁ」
そう言うと、すぐ案内してくれて、広大な湖に着いた。
「ここまで透き通った湖は初めて見た」
驚きながら『解析鑑定』をすると、『魔素溜りの湖』と書いてある。特に危険じゃないし、むしろ、飲むと魔力が微量だけ回復するらしい。
「ぷはぁっ、寝起きの顔洗いはスッキリするなぁ」
ふと考える。この後、何日間も風呂に入らないし、このような湖を見つけられるとも限らない。
「ここで、身体を洗っていかないか?」
「え、つまり一緒にはい…」
「もちろん別々にな、何か言ったか?」
僕には何も変な気がないことを思ってもらはなきゃな。
「じゃあ、先入ってていいか?」
「あ、分かりました」
ミラルはそう言うと、森の中に戻って行った。
僕は、近くの木の幹に服をかけると、裸で湖に入った。
「冷た!でもちょうどいい」
カサッ
腰まで浸かって体に水をかけていると、後ろから、誰かが落ち葉を踏んで近づいてくる音がした。
「誰だ!」
「あの、やっぱり私も入っていいですか?」
そこには、服で大事なところを隠している裸のミラルがいた。
「ど、どうして裸なんだ」
僕は、驚き湖の中心の方へゆっくりと下がる
「それは、一緒に入るためです」
満面の笑みを浮かべてこちらに来る女の子を見ないように後ろ向いて湖の周りの景色を見る。
「でも、どうして一緒に入ろうなんて思ったんだ?嫌じゃないのか?」
「嫌なんてそんな、なんならユウキさんだったら……」
ミラルは何か言いかけたが辞めた。
「獣人の風習には、一緒に何かをやることが多いんです。身体を洗い流すのも、みんなでお互いの身体を洗うのが普通で、私も一応自分で洗えますが、1人で入るのは寂しくて」
「分かったから、さすがに前は隠してくれ」
「隠すものがありませんよ」
「せめて背中合わせでお願いします」
「分かりました。じゃあ、失礼します」
チャポン
やっと落ち着いて身体を洗えると思っいたら、顔の見えないミラルが元気な声で危ない発言をした。
「背中を洗いましょうか?」
バシャン
「え、いや、」
僕は、驚いて思いっきり立ち上がりミラルの方を向いた、いや、向いてしまった。
幸い、ミラルはまだこっちを向いていなかった。
(背中からも分かるほど大きいし、肌もめちゃくちゃ白くて綺麗に見える)
僕は、後ろを向いてから言う。
「いや、大丈夫、僕はもう十分洗えたから、もう出るよ」
「え〜、そう言わずに〜」
「ミラルも洗えたならもう出るぞ、なるべく早く目的地に着きたい」
服で前を隠してから、体の水滴をどう無くすか考えていると、あることを思いつく。
「そうだ、なあミラル、試しに『瞬間加速・神』を発動させてくれないか?」
「え?分かりました」
そうすると、案の定水滴がその場で動かなくなり、僕が抜け出すと、水滴は空中にとどまった。
「よく思いつきましたね」
「うわぁ、こっちを向くな!」
「分かりましたって、へへへ」
彼女は笑いながら後ろをむく
僕は、着替え終わり、旅の続きの準備をしていると、あっちも洗い流し終わったようで『瞬間加速・神』を発動させた感覚が伝わってきた。
気づくとミラルが戻ってきていて、さっきよりも何倍も肌をつるんとさせて、気持ちよかった、と呟いている。
「そういえば、アザがさっき見当たらなかったけど、もう治ったのか?」
「はい、獣人は人間よりも回復速度が早いんですよ」
へぇ〜、と頷いていると。なにかの気配を感じた。
「なにか居ますね」
「そうたな」
近くにある小石を、気配のところに少し強く投げると、キャンと鳴き声が聞こえてからバタッと倒れた音がする。
草をかき分けながら進むと、小さな狼がいた。
黒い毛並みで、体の側面に風が吹いているような白色模様が入っている。よく見るとメスのようだ。
『解析鑑定』によると、『ウィンドウルフ』というらしい、名前と模様を見るに風のように走れそうと理解出来る。
「殺しちゃったんですか?」
「いや、気絶だけだ。しかも、この子めちゃくちゃ体が細い、何も食べてなかったようだから、僕たちによってきたみたい」
少し待ってから、起きたところにクリカボアの肉をあげてみると。最初は警戒していたけど、空腹に耐えれず、直ぐに全部食べきった。結構大きかったんだけど。
「この子、僕たちに懐いたみたいだけど、連れていく?」
「いいんじゃないでしょうか?ウィンドウルフは強い方ですし、邪魔にはなりませんよ」
早速森の中を進んでいく。ついでに、朝食も探す。
「あれなんて朝ごはんにいいんじゃないですか?」
ミラルが指さしたのは、オレンジ色のリンゴみたいな果実が実った木だった。
1個取って『解析鑑定』をする。
「『解析鑑定』によれば、レインボーフルーツの1種で、見た目通り『オレンジリンゴ』って言うらしい。特に毒性は無いけど……」
「毒性がないならいただきます!」
「おい話を最後まで聞け、それは毒性が無いけど、酒に酔ったような気持ちになるんだぞ!」
あ、もう聞こえてない。
ミラルは、身体をふらつかせると一気に倒れる。
「危ない!」
僕は、ミラルをおんぶしてから歩き始める。
「すいません、ヒック、聞かずに食べちゃって、ヒック」
「いいよ別に、すぐ覚めるだろうし」
ミラルが覚めるまでは、静かに空を見ながら歩いていた。
約10分程度で目覚めてすぐに彼女からは質問が飛んできた。
「昨日の寝る前に話していた『経験複製体』ってなんですか?」
「その話からでもいいけど、もう少し前の方から話そう。」
僕は、細かく話した。こことは違う世界から来たこと、神にあって、2つの頭のおかしい異能力を貰ったこと、勇者として王に召喚されてすぐ追放されたこと、そして、綺麗な少女に出会ったこと。
「信じられないなら、信じなくていいよ」
「いや、信じます!でも、びっくりなことがいっぱいあります。」
ミラルは続けて言う。
「まず、神のことなんですけど、よく歴史で言われるのは、創造神クリエドと表現されることが多いです」
「勇者のことは、あまり文献がなく、ユウキさんが初めての可能性が少しあります。異能力が1つ以上も持っているのも、勇者の特徴です」
「ユウキさんが言う、騎士の話はあっています。王国グラントは魔法特化の国家ですし、人間が1番で、それ以外はゴミと教育される国です」
「最後の話は、私のことですよね?綺麗な少女なんて、そんなことないですよ」
ミラルの知識量と笑顔の可愛さに見とれながら、ふと考える。
「ミラルのその知識量とか、ファラルの貴族のような動きとか、もしかして、リーリラル家は貴族かなにかだったのか?」
彼女は気づかれたくなかったかのように顔を暗くし黙って考えてしまった。
「言いたくなかったらいいんだ」
「……大丈夫です」
ミラルは息を整えてから喋り始める。
「私の一家は、数年前は獣人の中でも大貴族で、他の人間の貴族に上から交渉できるほどでした」
「でも、ある貴族の人間が、異様にこちらに攻撃的な態度を示してきて、最終的には、雇った暗殺者たちをこちらに仕向けて、私達姉妹は逃げれましたが、家は燃やされ、全財産を奪われ、親を殺されてしまったのです。」
「今は、そいつらに復讐したくないのか?」
ミラルは、もう決心したという顔で言う。
「復讐したい気持ちは多少はあります。でも、今の私の家族は、姉と、村人のみんなです。無用な争いは、大切な命が奪われるので嫌いです。だから、私は復讐をしません」
真剣な眼差しではっきりとそう言い切った。
「まあでも、私の父は喧嘩を売りやすい性格だったので、殺された理由は少し分かりますけどね」
うふふ、と笑いながらそう言っていた。
「やっぱりミラルは、悲しくするより笑った方がいい、時間もちょうどいいし、早速昼食に準備をしよう。朝食は散々だったからな」
彼女は、朝食と聞くとさっきの出来事を思い出したか、顔を隠して、すみませんと言っている。
「ワオーン」
「目の前の狼が、なにか見つけたみたいだ。そろそろ降りてくれないか?」
「もう少し、この温もりを感じちゃ…」
「降りてください僕の理性が持ちません」
「はーい」
僕は、焦って早口で言うと、彼女はすんなり降りてくれた。
「目の前で水を飲んでいるのは…牛かな?」
「『解析鑑定』によると、『レイジンボール』って言うらしい、気を付けて、目を見ると……」
ヴォン
「狩ってきたよ」
「だから、話を聞いてって、やれたならいいけど、今度から気をつけて、フブキもありがとう」
僕は、フブキの頭を撫でる
「フブキって?」
僕は、腰に手をつけ胸を張る。
「この狼の名前さ、メスだと思うし、ピッタリな名前だろ?」
「フブキ、いいわね、風と白色の模様から思いついたのね。で、どうしてメスだとわかったの?」
僕は、聞こえなかった振りをして早速『料理人の極意』でレイジンボールを綺麗な牛肉だけにする。
今回は、少し材料が揃ってるし、新しい仲間のフブキに美味しい料理を振る舞いたいので、料理も全て異能力に任してみる。
「料理名はそうだな、『自然の山菜とレイジンボールの肉の炒め物』って所かな」
そう言うと、『料理人の極意』になっている僕は、まず、手際の良い動きで、さっき森で取った山菜と肉を1口分にナイフ無しで切り、火を起こし、洗っておいた薄い平の石と長方体の石を机の形にする。
石に火が通るまでの間、石の上にラードを置き、肉に塩を練り込ませておく。
ジュウッ
肉から先に炒めて、色が変わってきたら、山菜を入れて、よーく混ぜる。この時、肉の脂と山菜の水分が混ざり、いい風味を出してくれる。
焼くのと交互で木を削り、木の皿とフォークを3人分作る。
最後に、塩を適量かけて、皿に盛り付けて、そこら辺で見つけた四つ葉のクローバーをのせる。雰囲気のためだ。
「はいどうぞ、召し上がれ」
『料理人の極意』を解除すると、料理に集中していたから気づかなかったけど、山菜のものすごくいい香りがする。
「「いただきます!」」 「クン!」
1口食べると、ほっぺたが落ちるような感じがする。
山菜のシャキシャキとした食感に、牛肉の噛みごたえのある赤身が交互に来て、噛むだけで楽しくなってくる。
山菜のほろ苦さと、肉の旨みと脂の甘みがマッチして、さらにいい味を出している。
「本当に美味しいですね!」
「さすが、ウルトラレアの異能力なだけあるな!」
「ワオーン!」
3種様々な反応だったけど、そんなの気にしている暇はなく、僕たちはただモグモグと食べるだけだった。
「ご馳走様。美味かったな、これ」
「ですね、やっぱり、旅の途中の料理はユウキさんに限りますね」
「クン」
勝手に料理担当にされたけど、まぁ、悪い気はしていない。
あと片付けを完了すると、ラミルは嬉しそうに言った。
「意外とペースが早くて、1週間弱なんてかからないと思います」
「あとは、この先にある山のふもとの道を進んで少ししたら、私達の村がありますよ!」
「その山って、あの山か?大きいな、頂上というか4分の1は雲の上で見えてないぞ」
日本1の山より3倍、いや、4倍はある山だ。
「目標地点へ確実に近づいているから最後まで頑張ろうな!」
「はい!」
「キュン!」
「ギャオオオ…」
あれ、今山から別の鳴き声がした気が……あれは!
「なあ、ミラル、あれってドラゴンだよな」
「そうですね、珍しいものですね。でも、あれが滞在している1週間を無駄にできないので、強行突破しましょう」
「えぇ〜、迂回はないのか?」
「ありません」
「ファラルさん達はどうやって?」
「いない時に通ったんでしょう。あのドラゴンは半年間ごとに戻ってくるので、行きますよ!」
「僕、戦いたくないよ」
弱音を吐く僕を置いて2人は進む。
「待って行くから。」




