追放されるまであと1週間の準備期間 ④ 1週間なんて必要ない
「お前達には、商人を脅迫したとされ逮捕状が出ている。」
甲冑をきた年配の後ろには、さっきの腹黒商人がいた。
僕は、『瞬間加速・神』を発動させてから、メニューの適応者リストからミラルの時間と僕の時間を同期させる。
「ミラル、君にはこの能力をギフトする。僕には『適応能力向上』があるからすぐに使えたけど、君にはないから焦らずゆっくり宿に戻ってて。後で行くから」
「え、まっ……」
僕は、何も動かない世界で、メニューの『瞬間加速・神』ミッションからギフトを押して、送る先をミラルに設定した。
自分の中で、分かりやすく『瞬間加速・神』が無くなった感じがして、ミラルの体が光った気がした。
「行ってらっしゃい」
なにか言いたそうな顔をしているミラルの背中を押し、笑顔で見送る。
ミラルがこちらをチラチラとみながら、10メートルぐらい離れると、ヴォンという音が空気を割くように響き、時間の速度が戻った。
「もう1人の獣人の女はどこいった。」
甲冑の年配が、イラつく声で驚きながら言う。
「それはいいんですけど、僕の話も聞いて貰えますか?」
そうだ、僕は穏便に済ませたいんだ。
「ふっ、それは無理だな、亜人風情と一緒にいるやつを信用できるか。」
「はぁ〜」
僕は、この世界に来てから疲れるこどが本当に増えたと思う。今も、こいつの亜人に対して良くない発言に、拳を強く握りしめている。
「俺的には、亜人と一緒にいるやつは牢獄にぶち込みたいけどな、わははは」
この国の人間の本性が見えた瞬間だった。
年配の言葉に、他の騎士も商人も笑いだし、そこには、悪意のある笑いの渦ができていた。
「ぶ…て…やるよ」
「なんだぁ、声が小さくて聞こえねぇよ」
僕は、もう1度息を思いっきり吸ってから、吐くように声を漏らす。
「ぶっ潰してやるよ」
僕はそう言うと、中年男性の鉄の鎧が着いてある太ももに、鋭いローキックをいれた。
中年男性は、その場で何度も回転して地面に叩きつけられる。
みんなが驚いて笑いを止めると、緊迫して動かなくなるが、僕はそんなこと関係なく次々に甲冑をへこませる。
あるやつは、脇腹を殴り3m吹っ飛ばして。
あるやつは、胴体に蹴りを入れて壁にめり込ませる。
あるやつは、背中を向けて逃げるが、頭を地面に叩きつける。
少しは楽しんでいる自分もいたが、僕は無表情のままそれを行う。
「あそこです!」
商人が騎士の応援を呼んできたらしい
「気分は晴れたからミラルとさっさと逃げるか」
僕は、『経験複製体』を残りの騎士のために残し裏路地に逃げる。叫び声も聞こえてくる。
「そこに誰かいるのか、グハァ」
僕にしか見えない『経験複製体』がどんどん暴れる。
僕は、こっそり屋根をのぼり、屋根と屋根をジャンプしながら宿屋に向かっていった。
向かっている途中、試しに身体操作の詳細ステータスを開くと、基本格闘の数値が10も上がっていた。
(それはそうだよなぁ、元々が2だったからなぁ)
宿屋の屋根に着いたが、冒険者ギルドに騎士が聞き込み調査が行っていて、扉の前にも何人か騎士がいる。
僕は路地裏の方を向く窓をノックすると、先に帰ったミラルが開けてくれた。
「帰ってきてくれてよかった…」
ミラルは、もう泣く寸前だった。というか、ベットの濡れた部分を見ると、もう泣いていたようだった。
「早く乗って、もう行くよ。」
僕は、ミラルに背中を向けおんぶのポーズをした。
ミラルはすんなり担がせてくれて、僕は窓から思いっきりジャンプして、もう1度屋根を走って、正門じゃない壁に向かっていった。
「しっかり異能力は使いこなせたか?」
「はい、宿の扉に入るまで途切れずに誰にもバレずに行けました」
「でも、途中不可解なことがあって、誰に呼ばれていた気がするんです」
それはありえないはず。
「ても、『瞬間加速・神』に対応出来るのは、ミラルと僕だけなんだけどなぁ」
「本当に聞こえたんです」
そう会話していると、壁に到着して、2人で上を見る。
「登るぞ!」
試しに、本気でジャンプしてみると、意外と軽々と壁に登れて『瞬間加速・神』によって増えた脚力の凄さを思い知った。
壁の上からの景色はとても壮観だった。
水平線の彼方まで続く草原、夏と秋の間を思い出させるようなウロコのような雲が続いている。
秋の涼しい風が僕達の服をいつまでも揺らしている。
「じゃあ、君の村へ行くか」
「はい」




