追放されるまであと1週間の準備期間 ③ 解放の時
3日目の朝
トントンッ
肩を優しく叩かれた。
「起きてますかぁ?」
ゆっくり目を開けようとしたが、耳元で、綺麗な囁きと、声の息が耳にあたり、ビクッとしながら、すぐに顔を上げる。
そこには、なんとも美しい白銀の髪を持つ、猫耳の獣人がいた。
「おはようございます!ユウキさん」
「おはよう、ミラル」
女性の名前は、ミロル・リーリラル。愛称でミラルと呼ばれている。
「今日、やるんですね?私達の村人を解放しに!」
「ああ、そうだ。とりあえず、近すぎて目のやり場に困るから、少し離れてくれ」
そう言うと、ミラルは顔を赤くして離れてくれた。
女性耐性の無い僕からしたら、ボロボロのローブしか着ていない女性は、倒れるくらい危ないんだ。
「よし、行くか!」
早速僕達は、市場まで向かい、服屋でミラルの服を買った。
「これでいいのか?」
「はい、これでいいんです。女性ものは布が多くて少し高いんです。」
そう言って、彼女は試着室で着替え出し、僕は、銀貨15枚を払った。
僕、祐希隼人、その間に『ギフトガチャ』をした。
可愛い女性とも出会えた僕は、幸運がまだ続いているのか、オレンジ色のレジェンダリーの異能力がでた。
『瞬間加速・神』というらしい。
説明欄にはこう書かれていた。
『走り出した1歩目から最大速度をだすことができ、その速度に対応できるのは、レジェンダリーの異能力持ちのみ』
つまり、対応できるのは今のところ俺だけか。でも、走れるのは限界があって、制限時間は、その人の諦めない気持ちに比例するらしい。詳しくは分からない。
チャレンジの内容は、まるで僕達の目的を知っいるかのように書かれている。
『能力を使って目的のものを諦めずに探し出す』
バサッ
試着室のカーテンが開くと、豊満な身体を最大限生かした。黒のスカートと、胸の谷間が少し見える長袖を着ている女性が現れる。
「似合うじゃないか!」
「えへへ、そうでしょ」
自信満々なミラルを連れて、早速、初日に寄ったインフォメーション的な店、情報屋に行く。
「奴隷商店はどこにある」
「ガキどもには、流石にそれは教えられねぇ」
チャリン
俺は、静かに銀貨50枚を置く
「ちぇっ、そこまでやるなら、情報だけでも提供してやるよ。ここから見て、城の右の方のどこかの路地裏に下へ続く階段がある。そこでこう言え」
「王家万歳ってな、皮肉たっぷりに言えよ。」
「ああ、ありがとう。では行くよミラル。」
僕は、近くの路地裏に入るとミラルに言った。
「今から起きることは他言無用でお願い。」
「分かったわ」
その言葉を確認して、僕はメニューを開いて、『瞬間加速・神』の適応者リストにミラルを追加した。これは、レジェンダリー異能力者以外でも、僕を触れている間は、同じ時間を歩めるようになる設定だ。
「キャッ」
僕は、ミラルを鍛えた腕力でお姫様抱っこして、『瞬間加速・神』を発動させた。
これは、感覚としては、周りがものすごく、いやほとんど動かなくなり、いつもの数十倍の速度で走っても疲れないという感じだった。
何十、何百とある路地裏を全て確認して、最後のところでやっと見つけた。
走っている間、ミラルはずっと怖がって僕の胸に顔を埋めていた。
「ミラル、着いたよ」
僕は、ミラルを下ろすとそう言った。
「そう、みたいですね」
ミラルは、緊張で身体を固まらせていたが、僕は、彼女の手をしっかり握って、扉の前まで歩いた。
「ここからは、穏便で済ませたいけど、もしかしたら、力を使うかもしれない。気をつけて」
「はい…」
階段を降りた先にある扉をノックしたら、返事が返ってきた。
「合言葉は?」
「王家万歳…」
持てる全てを尽くして、嫌な感じで言った。
「ははは、市場の情報屋から聞いたのか。まぁ。いいだろう、入れ」
ゆっくり扉が開けられ中に入ると、僕は、心を酷く痛めた。
今の僕が、体育座りでやっと入れる檻がいっぱいあり、その中に、この世界で始めてみる魔物や、やせ細った亜人、下を俯く人間もいる。
この部屋には、憎悪や悲哀が溢れていて、とても、居心地がいいとは言えない。
今も、ミラルは下を俯き、手で服を強く握っている。
「ここに、1つの村から入った獣人達の奴隷は売っていないか?」
「あはは、そりゃあもうねぇな、さっき来た集団のお客さんに全部売ってやったわ」
僕は、今までにない怒りを感じ、ほっぺたに傷のあるチャラそうな店員の胸ぐらを掴んで下に引っ張り、強制的に膝立ちさせた。そして、今持っているこの憤怒の気持ちを込めた言葉をこいつにぶつけた。
「そいつらはどこにいる…」
この体格で、ありえない力を出したことに驚いた店員はすんなり言ってくれた。
「怪しまれないように正門から行商人のフリをして出ていったらしい!だから、ころさ……」
僕は、話の途中でそいつを持ち上げ受付の方に軽く投げた。筋トレはしとくものだな。
「準備はいい?ミラル」
「はい、行けます」
僕は、もう1度お姫様抱っこをして、『瞬間加速・神』を発動させて、正門へ向かった。
走っている途中、燃えるような気持ちが落ち着くと、冷静になってくる。
(早くやらなきゃ、と思ったけど、取り返せるかな?)
自分のステータスを覗くと、少しずつ増えていく脚力を見たら、別に大丈夫だろうと考え、走る速度をさらにあげるのだった。
目標らしき馬車には、数秒で着き、進行方向に立ち塞がった。
馬車には、中が見えない大きな箱があり、馬が4匹、馬を操る人が1人、フードローブを被った人が7人いる。
「そこの旅人さん、どいてくれませんか?」
馬を操る人は笑顔でそう言うが、声が冷たい。猫を被っている。
「いえいえ、僕はその荷台がほしいんです」
そう言うと、早速本性を表し、仲間に殺れと命令している。
「すまねぇな坊ちゃん、覚悟しろよ」
そう言ってこっちに来た短剣使いを、解析鑑定で見た。
『レア 隠密師』を使いこなし、瞬間移動的な感じでこちらに向かってくる。でも、それは他人から見たらだ。
僕は『瞬間加速・神』を使って、短剣使いの腹に一発、めり込むような勢いで殴った。
案の定、短剣使いは吹っ飛び、泡を吹いて気絶した。
ついでに、面倒くさそうな魔術師もやっておいた。
(意外と弱いな)
次々と向かってくる、槍使い、弓使い、剣士を吹っ飛ばしていく。
あちらからしたら、急に痛みが襲ってきて、気絶するから僕の姿は見えてないはずだ。
見えるのは、遠くで応援してくれているミラル……
「危ない!」
間一髪でミラルの後ろにいた敵を倒せた。隠密が二人いたなんて。
「ありがとうございます!」
僕は、ミラルの目を見て頷くと最後に残った馬車に乗っている人聞の方を向くと。
「あなたがこの盗賊たちを雇ったみたいですが、あなたも1発拳をくらいますか?それとも、静かにここを立ち去りますか?」
僕は、威圧を最大限に出してそう聞いた。
「わかったから、殴らないでぇ〜」
雇い主の太った商人は情けなくしっぽを巻いて国の方に逃げた。
早速、馬車の荷台の扉を開けると、中には、ミラルと同じだったボロボロの服を着た子供姿の獣人が何人かいる。
「ファラル姉様!」
ミラルは中にいる1人の女の子に抱きつき泣き出した。
「ミラルなのか?」
唖然としていたファラルと言う少女も、ミラルだと気づくと泣きだした。
他の少女達も、喜び出してミラル達に近づく
「でも、どうやって外の盗賊を倒したの?」
ファラルという少女は、首を傾げる
「ユウキさんが私たちのために助けてくれたの!」
ミラルは、僕の方に指を指す。そうしたら、ファラルと言う少女は、僕の、目の前に来た。
「改めまして、ありがとうございます。私の名前はファラリア・リーリラルと言います。ミラルの姉で、皆からはファラルと呼ばれています。」
貴族のようにスカートを持ちながらお辞儀をするファラルを見ると、僕もガタガタなお辞儀をした。
ファラルは、ミラルより落ち着いており、同じ白銀の髪と猫耳を持っている。
「ユウキさんは、なんで私たちを助けてくれたのですか?」
僕は、他の少女を落ち着かせているミラルの方を向いて言う。
「目の前で、泣いて頼んでくる女性を放っておくことはできませんよ」
これが、今の僕の最大限かっこいい返しだ。
ファラルは僕の回答を聞き、うふふと笑ってミラルの方を向く。
「ミラル、あなたはユウキさんといなさい。私たちは先に村に帰っているわ」
「え、いいの?」
ミラルはそう聞くと、ファラルは頷く
馬車の前に行こうとするファラルに僕は待ったをかける。
「その見た目と服装じゃ、怪しまれる。簡単に服を持ってくるよ」
僕は、そう言うと『瞬間加速・神』を発動させて服を買いに行く。
「すごいわね」
私の名はファラル。目の前で消えたユウキ様を見て、1つ考える。
「ミラル、あの人を私たちの村へ招待しなさい。あの人が居れば、村も安泰よ」
村が大好きなミラルにそう言う。
「わかったよ!」
ミラルも乗り気のようだ。
「はいどうぞ、これ、新品のローブと帽子」
いつの間にか後ろにいたユウキ様に驚いたが、すぐにおかしい事に気づく。
「これ、今の私より少し大きい気がするのですが……」
そう言うと、ユウキ様は私の足を指さしながら提案した。
「魔を抑える足枷を外したら、元の体に戻るんだろ?」
「そうですけど、それには必要な道具がありまして……」
「そうなのか?ミラルの時は大丈夫だったんだけど、それはいいとして、まずはそれに着替えてくれ、そこから試そう。」
「分かりました…」
私は、ユウキ様に見られないように荷台の中で着替えて、早速お願いした。
「よし、できる!準備はいいか?」
「はい!」
「解析鑑定 解除」
ユウキ様がそう言うと、足枷がガタンと落ちて、私の体はどんどん元の大きさに戻っていった。
「ありがとうございます、他の人は村の道具で外せます。ではまた後ほど会いましょう。ユウキ様」
「ああ、また後でな。え、ユウキ様……?」
ユウキ様は、何か言いたげな顔だったけど、気のせいでしょう。
私は馬車に乗り、ユウキ様達に手を振りながら村へ向かった。
「行ったみたいだな」
そう言いながらミラルを見ると目が合った。
「宿に戻るか」
「そうですね!」
僕達は、赤くなってきている空を見ながら城へ向かって歩いていく。
正門で、冒険者カードを見せようとしたが
ガシャン
「お前達を逮捕する!絶対に動くな!」
甲冑を着た年配が1人と、顔が見えないのが4人、僕達を囲むようにたっている。
なぜだか分からないけど逮捕されるなら逃げなければ




