青年の夢にまで見たことが叶ったと思ったのに ② この先不安定
「ママ、あれなあに?」
子供が空高くにあるものへ指を指す。
「あれはね、ひこうき雲って言うのよ」
母は、子供に分かりやすくゆっくり話している。
「へぇ〜そうなんだ!」
子供は、目に輝きの光を浮かばせ、新しい知識を得たことに喜びを感じている。
祐希隼人は、そんな彼らの背中を少し高い雲の上から覗いていた。
「やっぱりあれって、僕とお母さんだよね?」
自分が4歳の頃の記憶を客観的に見ていて、懐かしさと不思議な気持ちでいっぱいだった。
早速、自分の状況を整理しようとし、現状を把握しようとする。
「確か、創造神とのお別れをして、意識を失ったから。これが、夢ってことになるはず。つまり、この記憶を全て見終われば起きるはずだよな。」
自分の中で答えを出し、僕は、下の2人を暖かい眼差しで見つめる。
2人は、家への道を手を繋ぎながらゆっくりと歩き、ニコニコしながら話している。
時間はよく分からないが、周りを見る感じ夕方の時刻だった。
太陽が赤くなっていて、オレンジ色に光っており、いつもより少し大きい、その色は周りにまで広がり、太陽の反対側になるにつれて暗く、紺色になってきている。反対側にギリ見える三日月も、綺麗に光を反射し、クレーターが少し見える。
あの日の母との思い出を目の前にすると、つい感情があふれて涙が滲む。
なんで忘れていたんだ、と強く心の中でそう思った。
そう考えていると、2人は家のすぐ側まで来て、最後の話を終わらそうとしていた。
「ママは、いつまでも一緒にいてくれる?」
一瞬、母が何かを考え、覚悟を決めた顔で言う。
「大丈夫、また会えるわ」
あれは、母が最後に僕に言った言葉だった。
母は、子供を家に先に入れて、玄関を閉じて、なにか悲しそうに俯く
そして、母は見えるはずもない自分のことを見上げて、確かに言った。
「やっと会えますね」
僕は、母のこの発言となぜ僕のことを見えたのか理解出来ないまま意識が途切れた。
次に目を覚ましたのは、よく分からない半径が3m以上ありそうな魔法陣の上だった。魔法陣は、まだ青白く光っていて、微かに風を放っている。
風は、僕の服を少し揺らしながらちょっとずつ弱まってきていた。
光も収まってきて、周りが少し見えてきた。
周りを軽く見渡すと、最初に目に入ったのは昔にありそうな模様がしっかり刻まれた高そうなランプがあった。
ランプは青く光っていて、中にはLEDどころか白熱電球さえなくて、ただ、青く光った炎か、またはそれ以外の何かが浮かんでいるようだった。
「本当に、異世界に召喚されたんだな」
悲しいのか悲しくないのかよく分からないが、つい、口からそうこぼれてしまった。
魔法陣の光が完全に収まると、周りがよく見えるようになった。
この部屋は、野球場並に無駄にでかく、ところどころに、分厚い本が沢山入っている本棚や、ドクロや壺などの芸術品のようなものがいっぱいある。そして、危ない感じの薄暗さがある。
後ろから声が聞こえ振り向くと、倒れている人が4人、しゃがんで涙を流しているのが3人、声の主であろう、大喜びしている人が3人いる。どうしたのだろう?
みんな魔術師みたいな黒くて黄色のラインが入ったローブを着ていて、右胸に、背景の赤い、十字と龍が描いてある紋章をつけている。
やばい、リーダーらしき人がこちらに向かってきた。
「あなた様が、神に認められし勇者ですか?」
そうなのか?そういえば、創造神への願いが勇者の召喚だったから、流れ的には僕のことか。
「そういうことなんですかね?」
そう言った瞬間、とうとう立っている人全員が座り込んだ。大袈裟な
焦りながら、リーダーを落ち着けようとすると、右から、執事らしき白髪のオールバックのイケおじがやってきた。
「まずは、測定です。こちらに来てください」
僕は、案内されるまま執事の後ろについて行った。
案内されてる途中、なにやらメニューがピカピカと静かに点滅している。メニュー画面を出すと、なにやら設定画面が出ている。
『異能力を解析不可にしますか?』
Yes No
まぁ、いいかミシックだし、いやに騒がれたら面倒臭いから、Yes。
ステータスの、異能力の部分の横に目をつぶっているマークが出た。
そうこうしているうちに、目的地に着いたようで、執事は扉の横で佇んでいる。
「どうぞ、この中にお入りください」
僕は、小さく無言で頷くと、扉を両手で思いっきり開けて、中に入る。
中には、なにかの研究室のような雰囲気で、色々なビンに、カラフルな液体や生き物の部位が入ってある。正直気持ち悪い。
真ん中の机と、奥と手前に椅子が置かれてあり、奥の方には、先程の魔術師っぽいローブに魔女の帽子を被ったまだ若いと言える女性がいた、よーく見ると紋章の下に星が2つある。さっきより位が高いのかな。
「あら、来たのね。ようこそ、魔術研究所へ」
彼女はそう言って、両手を万歳の形にした。
てか、本当に魔術師だったんだ。
僕は、座っている彼女のことを、見える限りの部分を隅々まで見て納得した。
「さぁ、ここに座って、基礎能力値を計測するわよ」
彼女は、そう言って机の上にある頭ぐらいの大きさの丸い透明な玉を指さした。水晶のように見える。
僕は、ゆっくりと椅子に座り、話を聞く態度を正した。
「この、計測水晶に手をかざして」
僕は、言われた通り手をかざすと、彼女は、木の板と、少し茶色の紙を重ねて机に置き、羽を取りだしインクをつけた。
次の瞬間、水晶は光だし、見たことがない一筆で書いた文字が浮かび上がった。
……読める。見たことないのに読めるぞこれは!そうだ、基本能力の『言語理解』ってやつか
次々に浮かび上がる文字にはこう書かれていた。
持久力 6
身体能力 7
身体操作 8
頭脳 4
魔力総量 2
魔力出力 8
魔力回復 1
異能力 解析不可
魔術師は、何か嫌な顔をして、浮いて書いていた羽を、毛をもぎるとる勢いで取ってから人前で思いっきり大きなため息を吐く
「ハァァ……分かりました。どうぞ、扉を開けて執事に従ってください」
気まずい、何がダメだったんだ?前半は良かったはずだよね。多分、あれの最大って10ですよね?もしかして、後半の魔力関係と異能力のせいかな?地味に頭悪かったし。悪かったな努力不足で。
扉を開けると、執事は同じところにいて、こちらを向いて言う
「次は、王との対面です。迷わず私についてきてください」
不満気な僕に見向きもせずに執事は歩き出す。
そろそろ、この場違いな服を着替えたいところなんだけど…
王の間までの城の構造は凄かった。
歩いていいのか分からない、ホコリひとつ無い道を歩き、必要のないくらい高い天井に書いてある絵を見て、模様が付いてある縦に長いガラスから、陽の光が入ってくる。
そして、ガラスと反対側の壁には絵画や芸術品、骨董品が大量に置いてある。
僕は、こんな道を体感15分ぐらい歩き続けて精神的疲労が少し溜まっていた。貧乏性の僕には、どれかひとつぐらい持って帰って売りたくなるようなものばかりだった。
やっと着いた王の間の扉もびっくりな程に大きく、そして、模様がきめ細かかった。
日本円で数千万はしそうな扉を執事が軽々しく両手で開ける。
王の間は、体育館程度の広さで、左右には近衛騎士らしき人が規律良く並んでいる。真ん中の奥にある王座には、全身豪華な服を着ている王族っぽい…というか王がいた。
王は、何故かすごい残念な顔をしていて、入ってきた僕に対して、イラッとさせるような目で睨んでいる。
右手に持っているさっきも見た紙を近くの騎士に渡すと、真ん中まで来て膝を着いて下を向く僕に一言。
「来て悪いが、お前をこの国から追放する」
身体中の血液の流れが止まったかのように僕は青ざめる。
底のない疑問と、湧き上がってくる怒りで、感情のまま言う
「どうしてですか!」
顔を上げて王の顔を見ると、まるで可哀想な生き物を見ているような目でこちらを見ている。
「簡潔に言おう、お前の魔力は少なすぎる。」
これが、創造神の言っていた懸念の部分か。
僕は、異能力のことを思い出し、強く質問した。
「僕の異能力は、どうするんですか?」
反応は、予想と違った。
「二級魔術師でも解析不可な奇妙で不気味な異能力などいらん!」
俺は、ポカーンと口を開け、あることを最後に聞いた。
「僕は、追放されたらどうすればいいんですか?」
僕の勇者ライフが終わろうとするんだ、少しぐらい何かあっていいだろ
「気ままに暮らせ、この国に関わらなければ何もしない」
そう言われると、王の横にいた騎士は、こっちに茶色い布袋を投げた。
チャリン
僕は、手に取り中身を確認すると、金貨が数枚入ってた。
周りを見ると、騎士が近づいてきて、来い、とジェスチャーをして扉の方に向かっていった。
僕は、それに渋々ついて行き、最後に王を見て、王の間から出た。
王はため息をついていた。
城の門まで来ると、騎士に言われた。
「王はああやって言ったのは、この国が魔法特化の国だからなんだ、君の基礎能力値の体の部分は良かったから、外に行っても生きていけるよ」
変な慰めを受けて、僕は騎士とさようならをした。
「これからどうすれば……」
この国での滞在猶予は1週間。僕は、これからの計画を立てるために、こういう所には必ずあるであろう冒険者ギルドを探しに街に出たのだった。
その前に服着替えなきゃ。




