村の成長に天井なし ⑥ 取り戻した平和
「よっこらせ。これはここでいいかファラル!」
「村長様ありがとうございます。そこでOKです!」
『植物改変』で作ったきゅうりが数十本入った木箱を食堂の裏に置いておく。あとはドラフが何とかやってくれるだろう。
ふぅ~、と言いながら額の汗――まだないけど――を拭う。
「もうすっかり暑くなってきたな」
上を見上げると日差しが目に入りまぶしく目を閉じる。
「そうですね。そろそろ夏でしょうか」
ファラルも僕に連なるように上を見上げまぶしそうにしている。
「よし、もう一仕事しに行くか」
僕はパンっと手をたたき緩みそうな空気を直す。
今はブリュドラとの戦いからもう半月ほどたった。みんなのとっくのとうに戻ってきていて、今後の方針である貿易の準備をしている。
「まぁ、未だに売る方法が分からないけどね」
「なにか言いました?」
急いで何でもないと手を振る。そして、もう一度畑の方に向かい始める。
「それにしても完璧に直ったなぁ………」
戦いの時に更地になったところはクロノの異能力『巻き戻し』で新築並みに綺麗になっている。出来立てほやほやって感じだ。
ちなみにそんな大仕事をしたクロノは、久しぶりに短時間で能力を使いすぎて三日ぐらい気絶したように寝てから何事もなかったように今は広場のベンチで座っている。
僕あいつに仕事与えたはずなんだけど…………
「おーいクロノ!そこで何やってるんだ!」
あくまでも優しい声色でちょっと遠くから声を張ったら、まるで猫のようにビクッと跳ねやがってどこかに消えた。まぁ、あいつドラゴンだし、いいか。
「クロノ様、あれでも陰ながら能力の鍛錬をしているのですよ。ほら、この間私の妹を助けてくれたように」
確かにそれはそうだ。あの戦い以来、たまにこっそり様子を見に行くと肌着一枚でずっと小物の破壊を巻き戻しを繰り返している。
気を取り直してそろそろ畑だ。今頃、新しく植えたリンゴの木の収穫をあの子がやっているんだろうなぁ…………
「これ美味しそうだなぁ…………今のうちならだれにもバレ—―」
「バレてるぞ」
こちらを振り向くと同時に手を上げ口と目を思いっきり開ける—―驚いたのポーズをしているこの子は、絶世と言うことがとてもよく似合う顔付をしている。
「ははは……わらわは何も存じぬ」
黒いロングスカートで袖をたくし上げとても暑そうにしているのに表情は透き通っていて、特徴的なのが漆黒の黒髪でお団子ヘアーについている紫色のバラとも朝顔とも言えない花飾りがついていた。
正直に言うとずっと見ていたい顔だ。でもそれは許されない。
「村長様、何じろじろと見ているんですか」
ちょっとトーンの下がったファラルの声にビビりつつ、ここに来た目的を収穫中の彼女に伝える。
「すまんすまんファラル。それでリンゴは一箱分集まったか?」
簡潔に言ったその言葉に彼女は縦に頷く。それを完了と言う意味で汲み取ってから、案内してくれと頼んだ。
彼女は振り向き歩いていく。長身なのにトコトコという擬音がとても似合う歩き方である。
「どうだブリュドラ、ここの生活は多少は慣れてきたか?」
そう、この子の名はブリュドラ。吸血鬼たちが探していた禁術魔法の『悪魔召喚』の成功とも失敗とも言えない結果から起きた事件の張本人だ。
「わらわに不可能はあまりないぞ。もう慣れてきたのだ!」
あまりか……まぁ、慣れてくれたならいいか。
事件の後のブリュドラの処遇だが村長である僕に全部委ねられた。
もちろんこの子には悪意はなく悪魔界から解放された時の深夜テンションみたいにこの事件を起こしてしまったらしい。
『解析鑑定』で悪魔の種族的な性格も大体分かったし、彼女もしっかり反省していたからあまり重い罰はしなかった。
言うなら掃除とかの雑務程度かな。この子もかの有名な残念伝説ドラゴンと一緒の高位種族なんだけどね。
罰である雑務も終わり村の住人とも少しずつ仲良くなってきた今、僕は植物の収穫というとっても穏やかな仕事をブリュドラに任せている。
ちなみに彼女は、落ち着いた仕事ができるのだ!って言いながらめっちゃ喜んでいた。
「これなのだ。どうだ、結構取れとるだろう!」
ふっふっふ。と鼻を鳴らしながらどや顔をして片方の手を腰に置きもう片方は木の箱を指している。
箱には数十個入った紅の色を放つ果物――リンゴが木の隙間から入ってくる日差しで光沢を出し置いてある。
「おお!いっぱいだな。ありがとうなブリュドラ。これからもよろしく!」
長身—―と言っても僕よりかは低い頭を後ろから軽くなでる。甘い吐息が聞こえた気がするが気のせいだろう。
僕はリンゴの入った木箱をひもで軽く結び片手で持つ。
戦いによって上がりまくった詳細ステータスの腕力はもう何を持っても羽を持っているかのような感覚しか起きない。
「じゃあまた後で来る。次はオレンジを頼む!」
少し歩いてから思い出したように振り向きブリュドラにお願いをしておく。
そういえばつい先ほど詳細ステータスの話をしたが、ブリュドラの戦いのあと『健康体』のお陰でクロノみたいに気絶したように寝てなかった。
が、数日間は『適応能力向上』があるにもかかわらず物や壁を壊してばっかりだった。
「ファラル、リンゴ一個食べるか?」
箱から一個取り出しファラルの前に出す。収穫したてだから綺麗だ。
「あ、ありがとうございます」
少し驚きながらそれを手に取った彼女は小さな口でがぶりとかぶりつく。
「ん~、とても美味ですね!」
美味しそうにほっぺたに手を置く、そしたらまた食べ始める。
その光景にのぞき込んでいたらいつの間にかもう食べ終わっていた。
そう、ファラルはその体躯に見合わないほど早食いなのである。
このリンゴの大きさ成人男性の拳と同じくらい――若干こっちの方が大きいかも――で、僕も植えたばかりの時に一つ食べたが転生前に食べたどのリンゴより美味かった。
それに『解析鑑定』で見ると多少の回復力向上の強化が込められていた。
「完全にあっちより上位だよなぁ…………」
ファラルはむしゃむしゃと三個目のリンゴを食べていた。
ちなみにその他の植物—―今あるのはイチゴときゅうりとオレンジと最近植えたスイカがある。
どれも順に魔力回復、攻撃力上昇、防御力向上という強化、あるともないとも言えないぐらいついてあった。
スイカはまだ試していない。
「そろそろ着きますね。時間もいいところですし休憩しましょうか?」
確かこの時間は獣人達の休憩時間だった気がするので、ああ、と頷き提案を了承する。
食堂についたら先ほどと同じように裏――にある簡易食糧置き場の上――にリンゴを置こうとしたら、ドラフが焦ったように扉から出てきた。その瞳には少し涙が…………ってどうしたの⁈
「何かあったのかドラフ?、事件ですか事故ですか?」
どこぞの国家の番犬みたいなことを言ってみると、ドラフが僕たちのことに気づき指を扉のほうに指した。
「エルフさん達がまた…………」
はぁ、あいつらか。本当に懲りないなぁ
「わかった。対処するよ」
裏口から入ると女性たちの楽しそうな喋り声が聞こえてきた。
その中の野菜の皮むき中の女性に話しかける。
「ルーラさん。お願いですから試食をドラフさんにやらせないでください」
エルフ達のリーダーのルーラさんにくぎを刺しておく。これで何回目だろう。
「いいじゃないですか、別に死ぬ―—」
「だからって意味不明な食材を使った料理をあまり耐性のない獣人のドラフさんにはダメですよ」
僕はルーラさんの言葉を遮り話し続ける。
正直にいうとこのエルフさん達に悪意は一ミリもない。ただ単に作ってもらったものを食べてほしいという子供じみた願いから来るものだ。
「「…………すいませんでした」」
なぜかほかのエルフまで同時に謝りだした。
「はぁ、安心してください。ちゃんと僕が試食しに来ますから。エルフさん達が料理をしているときに」
子供っぽく不貞腐れてるので今までやってきたことを提案する。
すると、たちまちみんな顔を明るくさせて静かだった厨房がまた騒がしくなる。
「今までと同じことなんだけどね」
僕は調子が戻ったエルフ達を後にしてファラルと一緒に食堂の席に座る。
「ユウキさーん!やっと会えました」
椅子に座った時、後ろから声がしたと同時に抱き着かれた。急なことでビクッと震えたことは心の奥にしまっておく。
「ミラルか、心臓に悪いから急に抱きつかないで……」
あくまでも無表情で女性に触られて嬉しい思いを抑える。
「じゃあ今度はゆっくりハグしますね」
無邪気な笑顔を向けられ無意識に片手で胸を抑えてしまう。
それにずっきゅーんという効果音が聞こえる。
「村長様……」
真横からのファラルの優しい声に振り向くと笑顔の奥に秘められた静かな怒りに気づき冷や汗をかく。
「せっかくだしみらるも一緒に食べようよ」
横の椅子をポンポンと叩きアピールをする。
それと同時にドラフさんが8等分したリンゴとジャムをかけたパンケーキを2つ持ってきた。
ちなみに僕はエルフが作った謎肉と謎野菜の炒め物だけど、意外と変な匂いはしない。
「「いただきまーす!」」
――バァン!
扉が思いっきり開き大きな音を立てる。
「村長!来訪者が来た!」
アレグロが肩で息をしながらそう言ってきた。
来訪者……?




