村の成長に天井なし ⑤ 黒き美しい『破壊の女神ブリュドラ』 後編
伝説のドラゴンであるクロノの横には傷だらけで支えられてやっと立てる吸血鬼のミルファさん。
あの吸血鬼はこの事件のある意味犯人である。なんのって?それは本人が話してくれるだろう。
「まことにすいませんでした!」
スライディング土下座をかましたミルファとあと2人の吸血鬼は事の経緯を話始める。
「結論から申し上げますと……禁術魔法の『悪魔召喚』が変に暴走しました……」
素直でよろしい。しかもしっかり予想道理だったし。
「ストップ、今はそれだけ聞けるだけでいい。大事なのはこいつを帰還させられるかだ」
後ろで気絶しているブリュドラを指さして言う。そうしたら吸血鬼は目を丸くして、数秒後急に叫び出した。
「ええ!倒したんですか!悪魔の中でも高位な『破壊の女神ブリュドラ』をですか⁈」
心底信じられない顔をしている。すみませんね弱そうな村長で。
「はぁ~。で、どうやるの?」
まだ座っているミルファの目の前に来てしゃがんでから聞く。
「どうした?そんな冷や汗かいて」
どんどん顔を青ざめていくミルファ達。青くなりすぎて少し心配になる。
「そのぉ……こんな時に申しにくいんですが……」
――悪魔がとどまると決めたらもうこちらからは何もできません…………
聞き間違いかな、何もできないって言った?
「聞き間違…………そんな感じではないみたいだな」
なぜかミルファが自信を持った顔をしている。そんな場合じゃないよ。
「でも、どうするんだ?こいつがまだとどまるか決めたかわからないぞ」
「ここで暴れている時点で諦めていいと思います」
クロノからの珍しいしっかりとしたコメント。
「とりあえず縛るか」
僕はブリュドラの方を向きなおしそばまで来る。
「『植物改変』」
言葉を発すると地面からひも状のつるが出てくる。
「手伝ってくれ!」
つるをいい長さで千切ってブリュドラの手足を縛った。今回は強度も申し分ないはずだと思う。なんせ、僕はレベルアップしたからな。
「ふぅ~できた。それで、この町どうしようか」
周りを見渡す。そして考える。
(今更だけど、ここ更地にしたの僕だよね…………)
「勇者様さすがです。そのような力を持っていたなんて。でも大丈夫です!私が直してあげますから」
そういえばクロノの異能力は万能だったか。頼もしいな。
「ああ、お願いするよ」
それと同時にクロノが両手をあげ眩い白い光を放った。
少し前
バタンッ
「イタタ。ここはどこ?………私はミラルだよね?………」
周りを更地になっている。ここにたしか村があった気が…………
「はっ!」
とっさにお腹を確認する。さっきあの女性に腹を思いっきり殴られて倒れてしまったから。
「傷一つないし、痛みもない。もしかしてあの世?」
天国にしては雰囲気が重い気がする。しかも、さっき更地と言ったけどよくよく見るとまだ家はあった。ボロボロだけど…………
ドーン
大きな音がして更地の中心部を見るとよく見えないが誰かた二人立っているみたい。
「あれって………ユウキさんとさっきの女性?」
ということはここを更地にしたのはあの女性のはず…………ってユウキさん!
バコンッ!
女性の拳で飛ばされた……私もこんなところで座っている場合じゃない!
「ハァ……ハァ………」
なぜか異能力が発動できない。しかも走れないから歩きで向かう。
「この状態じゃ無理かな…………」
ユウキさんのことを助太刀したかったけどそんな体力がなぜかない。そう不安がっていたらふと戦っている2人以外にもなにかいることに気づいた。
「ユウキさんに雰囲気が似ているけどどこにいるんだろう」
一切見えない。でもいる。とりあえず感じるところに向かってみる。
「ここかな、あれ……何かいる」
人みたいのを発見した。しっかり腕などもあるけど、足が一つ変な方向に曲がっている。
「自分で直そうとしているのかな?」
他の部位は動かないのに折れている足の部分が元の向きに戻ろうと動いている。
「よいしょっ。こらせっ」
私も力を貸して向きを直そうとする。見えないから少し怖い。
ユウキさんの方を見ると完全に押されている。あと少しで負けてしまいそうにも見えてしまう。早く何とかしなきゃ
「治った…………ってええ!」
足が元の向きになったら急に立ち始めて(起き上がる音で判断した)私のことをおんぶし始めた。
(この状態……思い出しますね。王国を出る時にユウキさんにおんぶしてもらったことを)
ユウキさんの雰囲気を感じさせる見えない人は走れない私のことを安全圏まで連れて行ってくれた。
「ありがとうございます。それで、あなたはどうするんですか?」
見えないからもちろん返事もないと思ったが、一応聞いておくべきだと思い言ってみた。
「まぁ、もちろんへんじは――」
――大丈夫だよ…………
下を向いていたら急に一言が聞こえハッとして前を向く。が、もう誰の雰囲気もなかった。
「気のせい……だったのかな」
そう思い。私は体力の回復に専念した。
現在
「すげぇ~どんどん村が修正されてってる」
クロノの能力で物凄い速さで巻き戻っていく家々。まるで新居みたいに綺麗になっている。
「そうじゃろ!我が一番なのじゃ」
はいはい。自身に泥酔すんなよ。
「そういえば住人はどこなんだ?」
この悪魔が言うにはどこかに転移させたって言ってるけど…………
「見てください、あれ!」
吸血鬼の1人が太陽の方を指さす。見てみると何かがこちらに向かっているような…………
「あれは………天使組!」
だんだんと見えてきた。シドレにアレグロにアンダンテさん。
「おーい。こっちだ!」
大きく手を振った。そうしたらこちらに気づいたのか一直線に向かってきた。
バサッ
「よかった。生きてたのか」
「ああもちろん。心配される筋合いはないがな」
「まぁまぁ、他の皆さんも生きていますよ。ここにいる私達は村の状況を見に来たのです」
他のみんなも生きていたのか、よかったよかった。一応経緯を簡潔に教えておこう。
「そんなことがあったのですね…………」
「こいつがそうなのか?村長が倒したのは本当なの?」
「だから本当だってば、アレグロとシドレは信じてくれよ」
てかアンダンテさんのことを隅々まで見習えって話だけど。
「まぁ、大体分かった。村もあと少しで直りそうだし、吸血鬼の今後もあとで話すとして。私達はみんなを連れてくるからな」
わかった。と返事をしたらすぐ飛んで行ってしまった。
「あの~」
後からの声にビクッと震え振り向く。
「ミラル!生きててよかった!」
僕はうれしいあまり抱き着く。クロノの異能力は信じていたが、それでも心配だった。
「はっ!えっ!」
ミラルの方は唖然として目を丸くしている。まぁ、ちょっと急すぎたかな。
僕はこの温もりたっぷり味わってから放した。今更冷静になったら、結構やばいことした気がする。でも、いい匂いだったなぁ。
「怪我の方は大丈夫なのか?」
「はい、どうしてかわかりませんが治っていました!」
確かに腹を抱える様子もないから大丈夫だろう。
「安心したよ。とりあえず、この悪魔のことをどうするか村が修復したら話したいんだけど。いいかな?」
早く事を終わらせたい。ストレスは皆無だけどとにかく終わらせたい!
「ちなみにその悪魔の名前は何ですか?」
「わらわの名はブリュドラである!」
「「えっ」」
場が静かになる。




