村の成長に天井なし ③ 黒き美しい『破壊の女神ブリュドラ』 前編
吸血鬼の家兼研究所の方から立ち上る黒い煙。
「おいおい、あれってやばくないか?」
この場にはクロノ、ミラル、僕の三人がいる。
「そうで……」
「ハハハ、わらわを呼んだのは貴様らか?」
ミラルの言葉が遮られるように響いてくる誰かの声、とても気高い感じがする。
「ちょっとやばそうだな、あそこは村の真ん中だからもっと早くいくぞ!」
そう言った途端、まるで何かに押しつぶされるような圧迫感を感じた。
「な、なんだこの重さは……」
膝をついた状態にされた。周りを見渡すと、クロノは僕と同じ膝をつくのみだが、ミラルはうつ伏せに倒れている。
「大丈夫か!」
クロノがこちらの方を向いて、
「我は大丈夫じゃ。この圧迫感の正体は、多分、あの声の主の魔力じゃな」
魔力が圧に?そんなのありゆるのか?
「魔力というのは力の塊じゃ、そんなものがこの村を覆うとなるとここが支配されたも当然じゃ」
こちらの傾げに気づいたのか簡潔に説明してくれた。
「わかった。なおさらいくしかないな」
悪運が強いのか、さっきは不意打ちだったが今は全然動ける。
「クロノ、ミラル、行けるか?」
クロノも同じく動ける。でもミラルが少し辛そうだ。
「そうだミラル、あれを使ったら?」
ミラルは僕の言葉の意味に気づいたのか、
「わ、わかりました。異能力『瞬間加速・神』……」
魔力の干渉を受けるより早くに行動すればいい。ぶっ飛んだ理屈はなんか通用した。
「我もなんか動きやすくなったのじゃ!」
まって、なんでこいつもこの世界で動けるの?
「なんでって、我も一応伝説じゃぞ」
そうだこいつ基本能力『通信』で人の考えを受診できるんだった。意外とこの能力強くない?
無事動けるようになりまた向かい始める。曇りががっていた視界も晴れた気がする。
「あと少し……あと少しで着ける……」
研究室までは一本道のみ、あと数秒でつけるところ。
グハッ
「なんだ?また圧迫感が……っ⁈」
ミラルがいた位置に謎の長身の人物が、
「ダメだぞ、わらわの邪魔をしたら」
拳に付いたを舐めながら薄く笑っている。顔がよく見えないがとてもきれいに見える。ふわふわ黒いロングスカートに紫色ひらひらがついている。それに肘まである黒い手袋。印象的になのはその髪飾り、紫色のバラのようなアサガオのような説明しがたい花がついている。それがお団子の髪の根元についてある。
「だ、誰だ?」
顔が見えないのにもかかわらずその魅力に引き込まれそうになる。だが、それよりミラルだ。
「ミラルはどこだ!」
クロノは警戒態勢に入りいつでも戦えるように拳を構えている。
謎の女性は、ふふ、と笑い僕達の後ろの方を指さす。
恐怖しながら後ろを見る……
「ミラル!大丈夫か!」
4~5mほど離れたところに倒れているミラルの下に向かう。
「ごほっごほっ……」
血を吐き辛そうにしている。焦りでどうすればいいかわからない。
「我に任せるのじゃ!」
クロノが女性から目を離さずこちらに来てしゃがんで、
「少し危ないですが……異能力『巻き戻し』……」
ミラルの体が少し浮かび白い光で包まれる。そしたら、時計のようなものが現れ針が逆の方向に進み始める。
「これは『巻き戻し』の応用版です。攻撃用というか回復用のためにこの村にきてから作り始めました」
ただ怠慢だったわけではないんだな。僕は奇跡のような光をただ見つめる。
「まだまだ時間がかかります。今のうちにあやつを!」
クロノに言われもう一度女性の方を向きなおす。
「ああそうだな、やらなければいけないな!」
そんな時黙っていた女性がしゃべりだした。
「まさかこの誇り高き悪魔『破壊の女神ブリュドラ』を倒す気でいるとな、ふむ、手合わせ願おうか、勇敢な2人よ!」
悪魔……今悪魔って言ったのか。わかったぞ、こいつがここにいる理由が……
「クロノ!僕がこいつを何とか抑えてみるから吸血鬼さん達のところを見に行ってくれ、何かわかるかもしれない」
召喚の可能性があるなら強制帰還できるかもしれない。
「わかったのじゃ、幸運を祈るのじゃ!」
クロノは行く手にあるブリュドラの横を通ろうとする。
「逃げるのか?」
亜音速のパンチが不意打ち的に飛んでくる。
ガンッ!
「ほう……これを耐えるとな、まあまあ強くしたのだがな」
「勇者様!大丈夫なのじゃ?」
ごふっ、危なかった……
「僕のことを気にせず早くいけ!」
重い拳は僕の腹に……生身だったら絶対にやられてた……
『経験複製体』で強度が上がり続けている肉体でも防げない拳……僕のほかの能力、ウルトラレア…異能力『硬質化・超』を腹に発動してぎりぎりなんて……
「ははは…二人きりになったな。この硬質化、タングステンとかダイヤモンドより何十倍も硬いはずなのにな」
「タングステン……?まぁ、いいだろう。わらわもこの世界に久しぶりに来たのじゃ。楽しませておくれよ」
いいながら後蹴りが飛んでくる。
ぼくは油断しなすすべなく後ろの家の壁を貫通させるように蹴り飛ばされる。
「は!だいじょ……誰もいない?」
家の中に誰もいない、というかさっきから他の住人の気配が感じ取れない。
「他の人たちはどうした!」
焦りと怒りがまじり少し叫ぶように言うがすぐ冷静になる。
「わらわは無駄な殺生は好きではない。近くの土地に転移させた」
深く息を吸って全身に意識を集中させる。
「わかった。こちらも本気を出そう」
ゆっくり立ち上がり体に付いたほこりを手で取る。
最初っから本気でいこう。この魔力の量からして魔法も使うはず……
「……基本能力『法則編集』…この世から魔力を無くす……」
発動した瞬間この町を覆う曇りがかるほど濃い魔力が消える。
「ほうほう、魔力を消したか。なら己の肉体のみだな」
なかなか余裕そうな態度……
「そろそろ行くぞ」
こっちも己の肉体全体を集中して「硬質化・超」を発動させる。いつもより硬く、より柔らかく……
「そこにいるのはお前の能力か?」
発動させといた『経験複製体』が見えているらしい、もちろんこっちも限界突破状態だ。今でも、いつもより倍のスピードで上がり続ける詳細ステーサスが見えている。
「ああ、まずは一発!」
今の自分の中で一番強い一発を……
ストレートに放された僕の拳は音速を大幅に超えブリュドラの腹に当たる……はずだった。
「ほう、結構いいパンチだな」
手のひらで受け止められる。だが、拳の威力は逃げるように上に向かう。
「な…に…?」
上を見上げると拳の威力は屋根を雲をぶち破り太陽の光がこちらを覗いてくる。それに加え、ソニックブームらしきものが家の壁も破壊していく。
「いい戦い場所ができたじゃないか、わらわのためか?」
僕は思った。その余裕を崩したいと……でも、冷静にやらなければいけない。
待機していた『経験複製体』を限界突破させながら戦わせられる。僕はそのうちに距離をとる。
今、本当の本気のパンチをしたが体力はまだ残っている。限界突破している『経験複製体』のお陰で、疲労はたまるが持久力の詳細ステータスの基礎体力が上がり続けているから意外と大丈夫だった。
軽くあしらわれる『経験複製体』を見ながら一つ模索する。
経験複製体……経験複製体……はっ⁉
僕はメニュー画面を見る。そして『経験複製体』の説明を細部まで確認する。
『……経験を使用者のかわりに得てくれる……』
僕はふと思った。経験の意味を……
今まで勝手に思っていた。『経験複製体』は自分の代わりに鍛えてくれるだけだと、でもそれは経験と少し違う。経験と言うのは物事を実際に行ったり体験したことで得られる知識や技能……つまり。
「わかった……勝つ方法を!」




