記憶の中の人集めの冒険 ⑦ 幹部サリウス編
「単刀直入に言います。サトウさんがいなくなりました!」
え?
「「えぇぇぇ!」」
帰ってきたばっかりなのにまた問題が…
「いつからいないんですか?」
天使族、とくにシドレががっかりした顔をしている。
「数十分前ぐらいに、急に『なんかやばそうだから行ってくるわ』とだけ言って山の方に行きました」
にっこりしながら言っているルーラさん。それどころじゃない気がする。
「今すぐ行きたいところだけど、もう夕暮れだから明日にした方がいいのでは」
心配だけどミルファさんの言う通り夜は危ないから私も賛成。
「とりあえず、今すぐ寝れる寝床に案内しますね」
「皆さんも今日は寝て、明日の朝一に探しに行きましょう」
皆は、何も言わずに頷いている。
私達は、そのまますぐに睡眠に入った。
ドーン!
大きな音と揺れで目が覚める。
「どうしたんですか」
他に目を覚ましたミルファさん、アンダンテさん、ルーラさんの方を見る。
「何が何だか…」
反応はいまいちだった。
「音の大きさ的に無視はできません。見に行った方がいいですね」
揺れが大きすぎて、逆に起きれないのがおかしい気がする。
家の窓越しから明るい満月が微笑むように光を飛ばしている。
「行きますよ」
ドアを開け夜道を進む。
何分かに一度、また何かが破壊される音と揺れが伝わってくる。
「さっきより頻度が増えてませんか?」
「確かに、急いだほうがいいですね」
駆け抜け始める。
山のふもとに着くと大きな洞窟を発見した。奥に光が見える。
「入りますよ…」
足音を立てずにゆっくりと入っていく。
ドーン
「あれって…サトウさん⁈」
凄い速さで戦っている。じゃあ相手は?
「あ、あの、あれって魔王幹部の『黒嵐のサリウス』じゃないのか?」
戦っている相手は執事のような白髪紳士だった。
魔王幹部って本当にいたんですね…でもなぜここに。
「サトウさん…なんか楽しそうじゃないですか?」
確かに今までに見たことがない笑顔をしている。
「戦闘…どんどん過激になっていません?」
確かに早くなってきている。一応自分に中級魔法『俊足の音色』を掛けて思考を加速させる。
バコンッ!
サトウさんの亜音速並みのパンチが、サリウスの脇腹に直撃して吹っ飛ばした。
「ごほっごほっ、まだ全然衰えていないですね、転生者サトウよ」
転生者?太古の昔にいたとしか記されていないよく分からない存在がサトウさん?
「その名前で呼ぶなと何回…まぁ、別にいいか誰もいないし」
2人はお互いの方を向きながら歩いている。
「ここへ来た理由も戦いのためだろう?魔王がいないと暇だとか」
「ああ、まだ付き合ってくれますね、太古の亜勇者!」
「それは言わないお約束だろ!」
合図とも読み取れるその言葉が終わった瞬間また消える。
左側の壁が崩れたと思うと、右側もほぼ同時に崩れる。
「終わったと思ったらまた始まりましたね…見えません」
少しとげのある声を発するミルファさん、ルーラさんが頷く。
「私は見えていますよ、戦闘では速さが大事なので子供のころから訓練していましたから」
アンダンテさんは見えているらしい、さすがです天使族は。
私は、この戦闘を見てほしいため、残り二人に秘訣を教える。
「ああ、それでしたか、不覚でしたね…」
「危ないっ!」
石が飛んだ来たのをキャッチしてくれた。ありがとうルーラさん…
そのことは置いといて、二人の戦闘に集中する。
「これはどうだ!」
サリウスの右手から初めて魔法が放たれる。
紫色と黒色が混じったような物体が一直線にサトウさんに向かっていく。
「俺が魔法使えなくてやってるよなぁ!」
闇属性の上位互換、暗黒魔法の初級魔法『漆黒玉』を軽々と跳ね返す。
「おいおい、それは何もかもえぐる魔法ですよ!」
跳ね返された魔法は、洞窟の壁を大きく削り取りながら進んでいく。
サトウさんは、反撃の時間だ、と言わんばかりに拳を握り締めスピードを上げる。
「今度はこっちだ!」
拳は、魔法で上げた思考速度を凌駕するほどの速さで敵の腹に向かう。
サリウスは防御の体勢になったが吹っ飛ばされた。
「この短時間でよくバリアを発動できたな」
壁にぶつからずに手前で止まる。
「いやはや、ギリギリでしたよ。設置型上級魔法『不壊物体』は遅延がありますからね」
よくよく見ると、体の表面に半透明の青色の何かがあった。
ミルファさんが、「私のより何倍も精巧なあれを……」と驚いた顔をしながら言っている。
「これは対応できますかね」
今度は両手を使いながら水色の円をあちこちに出現させる。
「これは『異空間接続』か、どんだけ魔力と出力が高いんだ?」
「はは、まだまだですがな。これでいい勝負になるでしょう」
「昔と変わって生意気になったな」
まるで昔からの仲みたいです。
落ちるように水色の穴に入って行くサリウス。
「さて、どこから来るのかな」
急にしんとなり違和感がある。
「そこか!」
サトウさんの左後ろの上空からサリウスの右足が飛んでくる。
「くっ!」
右足首を器用につかまれ投げられる……
「なに!」
投げられたのは偽物で本命は真正面からきた。
「やはりいいですね。これでもまだ本気を出さずに対応している」
まっすぐ放たれた拳は、サトウさんの左手のひらで受け止められて煙を出している。
「お前こそこんなものじゃないだろう」
ふっ、と鼻で笑いを飛ばす。
それをどう受けとったのか、サリウスは「さすがです!」と言って、大きく縦に一回転して後ろの魔法の穴に入った。
また静かになる。
「今度は一筋縄ではいかなそうだな」
魔力の気配が複数に増えた。
1つの穴から出てきたと思うと次々にいろいろな穴から出てくる。
「おっ、なんだそれは?」
「これはですね、私の異能力、エクストリームレア『分身』です」
圧倒的人数差なのにどちらも表情を変えず、真剣だ。
サトウさんは、肩をまわしてやる気満々なのを表している。
「準備はいいですか」
「いいぞ!」
サリウスの『分身』が数人ずつ動いて襲い掛かる。
ある分身は暗黒魔法を使い……
ある分身は己の拳のみを使っている……
そんなカオスな攻撃を一つ一つ丁寧に、そして芸術のように捌くサトウさんのその様は、まるで誰にも理解されないほどの年月を修行に費やしてきたようだった。
だが、やはり幹部の分身…一人一人の強さも半端なく、たまに攻撃が入っているように見えた。
顔色変えずにすべて倒し終えたサトウさんを見て、サリウスは大きくため息をつく……
「はぁ、奥義の一つを使ってもその程度で済まされるんですね。これは修行のやり直しが必要なようです」
「お前は魔族なんだから若返ることができるだろ、またあの日みたいに特訓してやるか?」
サトウさんは、少し悲しそうにサリウスの目を見て言っている。
「すみません、私はもうあなたとは違う生き方をしていますので」
戦闘中なのに気まずい雰囲気が流れる。
「まぁ、そんな昔のことを思い出してもしょうがない!最後だ。これできめろ!」
気まずい雰囲気を吹き飛ばすように笑ったと思ったら、急に力を上げ始めた。
「いいですよ、次で決めますぞ!」
2人は一定距離離れて準備を始める。
サトウさんは、異能力『身体強化』で体のすべての機能を上げ始めた。さっきの五倍……いや、八倍ほど増えている。増え続けている。そして、周りには黄色いオーラが見えてきた。
サリウスは、異能力『分身』を使い、暗黒魔法の上級魔法『漆黒の槍』を大量に召喚する。それは、文献に書かれていたように集まり合体し大きな一本になる。おぞましいオーラを放っている。
2人が息を同時に吸うと、お互いの目を見て一言言い放った。
「いくぞ!」 「行きますぞ!」
それは、あまりに一瞬だった。
音を置き去りにして殴りにかかるサトウさんに放たれた光をも吸い込む暗黒の槍……
決着の瞬間はわからなかった。でも、推測するならこうなるでしょう。
『身体強化』で、なぜか肉体以外も上げられているサトウさんはその膨大なオーラを槍にぶつけた。
槍は、ただでさえ属性魔法の中でも上位のもの、暗黒魔法です。何もかも吸い込んで削り取るそれは、本当ならサトウさんの体に大きな穴をあけているでしょう。でも、サトウさんのオーラを多量に吸い込み許容量を大幅に超えたと思われる槍は、スッ、と音もなく消滅しあっけなく終わった。
サリウスに一直線に向かった拳は顔面の直前に止まったはずなのに、後ろには衝撃波だけで日の出がよく見えるほど大きな穴が開いている。一応ここは山の中の洞窟のはずだけど……
「もう十分か?サリウス」
「はは……また負けましたね。元師匠サトウさん」
「もう違うからそれもやめろ。さっ、帰った帰った。もっと修行して来いよ、いつまでも待ってやるから…」
日の出を一緒に眺める2人。言葉にできない何かがあると確信した。
「さっきから気になっていましたが、あそこにいる四人は大丈夫なんですか?」
へ?気づかれている?そんなはずは……
「ああ、それは俺の仲間だ。だけどなぁ……」
やっぱり気づかれてたぁ。やばい、どうしよう。
あたふたする私達……
サトウさんと魔王幹部が怖い顔でこっちに向かってきてる!




