記憶の中の人集めの冒険 ⑥ 帰路編
「シドレさん!」
ドーン!
ああ、どうしよう。天使族の皆さんが…
「ファラルさん、天使族があんな攻撃で死ぬくらい弱くはない。心配する方が野暮ですよ」
ミルファさんに諭されて、落ち着かない気持ちを無理やり落ち着かせる。
「で、でも、安否ぐらいは確認したいです」
「そうですね、その気持ちもわかります。あの人たちは頑丈ですけど怪我はしますからね」
目を輝かせていると、ミルファさんは他の吸血鬼に目配りをはじめて、された吸血鬼は何が分かったのか私とミルファさんの後ろに来た。
「え?」
「少しだけ、楽しめるのではと思いますので。じゃあ…」
どういうことかさっぱりわからない、というかわかりたくない気がする。
「……解除」
体が浮いた?いや違う!
「キャァァ!」
さっきまであった床が消え去って自由落下が始まる。
「初めての経験ですよね、ら っ か ♡」
「そんなこと言ってないで早く何とかしてください!」
可愛い悪戯顔をしているミルファさんに必死に懇願する。
「スカートが風で裏返る前に!」
スカートを手で押さえながらもう一度泣きそうになりながらお願いする。
「はぁ、せっかく……わかりました」
ミルファさんは周りを一瞥する。
「よかった……このまま行きましょう!」
私は一安心しながら、天使族が落ちた方を指す。
「まぁ、早くあなた達の言う町に行きたいのでここからは手際よくふざけないでいきましょう」
ブーメランが刺さっている気がしますが、ツッコまずに頷く。
天使族の皆さんは、結構まとまって落ちていて見つけるのは簡単でした。
「シドレさん!」
下されたと同時に走り出す。
「よかった傷だらけだけど息してる……これは?」
腕に黄色い横線の傷跡がある。少し光ってる気もする。
「それは亜神の証だ」
他の吸血鬼に支えられながら、少し白色が混ざった緑の光…中級魔法『治しの兆候』…を自分に発動している。
「亜神の証とはなんですか?」
ミルファさんは難しそうな顔をして、言葉を何回も選んでいるように口をパクパクしている。
「そ、それはですね。神への進化に失敗…至れなかった弱者の証といいます。ですが!弱いわけではないですよ。そもそも神にはなれるものではないので…」
弱々しい発言に言い訳のような後付けがありましたが、それよりも原因です!
「どうしてそんな証がついたんですか?」
理由は大体わかる気がした。
「もうわかってると思いますが、さっきシドレさんが使ったものは、天使族に伝わる神が作りし奥義です。人間が使えないのは当然ですし、天使族でも使える人は数少ないです」
「でも、シドレさんは使えました。神が作った技を…」
シドレさん…実はすごい人だったのでは
「まぁ反動を受けた結果がこれですのでまだまだですけどね、兆し程度です」
言いながら回復魔法を始める…さっきと同じものみたいですね。
「これって消えるのですか」
これからも証が残ったらシドレさんのプライドがズタボロになってしまう気がします。
「大丈夫ですよ、一時的なものです」
回復魔法が終わり、柔らかい芝生に寝かせて次の人に向かう。
「あなた達はこっちをお願い」
天使族を一か所に集めて容態を確認した。さっきの攻撃では考えられないほど傷は少なく、打撲や内出血程度だった。
二手に分かれて私達はアンダンテさん。他はアレグロさんをやってくれた。
「完了しました。そのうち目を覚ましますので安心してください」
「はぁ~」
安心したら急に疲れてきた。
「では、私達はこの人たちが目を覚ますまで、次の飛行のために魔方陣を作っています」
「は、はい。じゃあ私は……」
寝ているような顔をしているシドレさん達のことを見ていようかなぁ…なんてね
十五分後
「ど、どうしたんだファラル。微笑みながら顔を見てくるじゃないか」
うつ伏せになり顎を手で支えて足を交互に下げ上げしながら顔を見ていたら、シドレさんが目を開けたと同時に少し引いた感じで言ってきた。
「私は悪くありません。可愛いシドレさんがいけないんですよ」
え?と言いたそうな顔をする天使族の戦士
「私…かわいいって言われたの初めてだ……」
初々しく顔を赤くしている。
後ろで、起きたばっかのアンダンテさんが口を手で隠し、うふふ、と赤子を見るように笑っている。
「そ、そんなことより、ワイバーンは倒せたんだよな?」
「はい!あなたのお陰で完全消滅です!」
安堵したのか、もう一度倒れる。
「お疲れのところ……というか魔法で体力回復しているけど……正午を過ぎているからそろそろ出発したいんだけど、大丈夫ですか?」
ミルファさんが待ってましたと言わんばかりでいる
「ん、ああ。行けると思うが」
アレグロさんが起きたのを確認してから、準備体操を始めている。
「それで、ここから町までどのくらいかかるんだ」
翼を出しながら問うアレグロさん。起きたばっかりなのに飛行する気満々ですね
「大体休憩も挟んで最高速度で一時間ほどですね」
少しして、一番力持ちなシドレさんが私のことを持ち、早速飛び出した。
「大体こっちの方向だと思う」
サトウさんに手渡された地図を吸血鬼さん達が見て案内する形になっている。
「よし、行くぞ!」
走ると同程度の速度からどんどん上がっていく。
「うわ!」
速度が速すぎて体が持っていかれそうになる。
「ファラルさん。この時間を使って飛行魔法を会得していませんか?そうしたら、危なげなく進めますよ」
ミルファさんが急に思い出したように言ってきた。
「そうですね…わかりました!」
飛行しながら教えられるなんて凄いですね。
「魔法の名前は、上級魔法『簡・重力制御』、上級魔法の中でもコツを掴めば簡単にできる魔法ですわ」
上級魔法からしてそんな簡単な気がしないのですが…
「まずはイメージ」
とても分かりやすく簡潔に言ってくれた。
「自分の重力を無くすという意識をしてみて、私が援助する」
体に手が当たったことを確認してから、頭の中で想像をする。
「無くす…無くす…」
「おお、軽くなってきたな」
シドレさんの反応に喜びつつさらに集中する。
「いい感じです次のステップに行きましょう」
目を開けたら、さっきまで最後尾だったのに真ん中まで来ていることに気づいた。足も浮いてる!
「次は、前に落ちていくように想像します。でも、落下ではありません。あくまでも階段を降りる感じです」
想像…想像…なんか体が変な感じがする。
目を開けると周りに誰もいない……ええ!
「頑張れよ!」
後ろを見る他のみんながいる。いやそんなことより
「なんで離したんですか!」
「それより自分のこと見てみろ」
それどころじゃないと思ったが、自分が落ちていないことに気づいた。それどころか、皆と同じ速度で前に進んでいる。
「習得が早いな、さすが貴族様ですね」
「なぜ私が貴族だと分かったんですか?」
慣れてきたので、ミルファさんの横の方に落下スピードを落としながら近づく。
「魔法、いい感じですね。知っている理由なんて簡単ですよ。吸血鬼の知識量を舐めないでください」
「すいませんでした」
威圧を感じて謝ってしまった。
数十分後
「やっぱり、馬車と飛行じゃ全然違いますね」
飛行に感動していたら、いつの間にか目的の場所が見えてきた。
「山に囲まれているなんて、実験しやすそうですね。えへへ」
吸血鬼さん達がよだれを垂らしそうにしている。何も壊さないでほしいです。
「あそこに師匠がいるんだな」
シドレさん達が鼻息を荒くしている。
皆が一斉にスピードを上げる。
「ま、待ってください!」
置いてかれないように私も速度を上げる。
「みなさーん!」
手を振っているルーラさんを発見する。
ドスン
地面にやっと着地した。
「ふーう、やっとついた。これで実験し放題だ!」
少しは自重してほしいです……
急に真剣な顔になるルーラさん
「単刀直入に言います。サトウさんがいなくなりました!」
え?
「「えぇぇぇ!」」
愕然とする