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記憶の中の人集めの冒険 ② エルフ編

 静かな森の中から、大きな咆哮とともに


「きゃあ~」


 森の中から女性の声が聞こえる。しかも、あの耳は……


「いくぞ、ファラル!」


「はい!」



 さかのぼること、約1時間前のことだった。


「結構森林の奥深くに来ましたけど…次の目標はどこなんですか?」


 さっきからそう聞いているのに、サトウさんは何回か笑ってから


「走ってれば分かるさ…」


 しか言わない、そしたらまた、私より小さな獣人の女の子と他愛もない会話をしている。


「ミラル…私達ってどこに行っているのかしら」


 妹は、サトウさんのことを信じきっていて疑いの目を一切出さない。他の子もそうだ。


「ここで少し食べるか!」


 村長は急に馬車を止めて、すぐぞこの果実を取り始めた。とても青い…


「これはな、レインボーフルーツって言って、これは…『ブルーストロベリー』だと思うな」


 渡されたものをよく見ると、黄色く小さい種が見上げて見る青空より暗い果皮に散らばっていて、どうしても食欲が落ちてしまいかねない。


「急に渡されて驚いたよな、ほれ、少しこっちに来な、説明するぞ」


 果実を見ながら顔を歪ませる私だけに手招きしている。


 私は、質問の返しに少し不満を募らせていたが、恩もあるので仕方がなく彼の下まで来た。


 サトウさんは、私にだけ聞こえる声で話しなじめた。


「年端のいかない獣人達にはあまりいいたくはないが、ファラルならいいだろう」


 そう言って話始めた内容は、私の認識を覆した。


「ここは死魔の森…魔中がうろうろといて、数多くの冒険者が死んだ地だ」


 なんでそんなところに私達をと言いたかったが、さっきまでは気付かなかった、サトウさんが真面目に周りを警戒していることに気づき、喉まで来たそれをまた飲み込んだ。


「なんでそんなところに、と思っただろ!ハハハ!何でかって?ここには住人なれそうな人があと数人いるんだよ」


 気味の悪い果実をかじりながら、誰?と話にのめり込む。


「聞きたそうな顔してんな、いいだろう、そりゃエルフだ」


 文献でしか見たことのない人たちを住人にしようなんて、確証があるのか不安になった。


「本当なの?」


「ああ、本当だ。ここの森は、別名エルフの森とも呼ばれてるしな」


 …見たことがあります。エルフの集落が森にあることを文献で


「でも、そのエルフたちって、好奇心で人間を襲うと聞いたことがあります!」


「世間ではそう言われているらしいな」


 何か言い方に引っかかる気が…


「美味しかったか、口周りがブルーストロベリーでめっちゃ青いぞ」


「へ?」


 私は、話に夢中でばくばく耐えていたことに気づき、顔を赤らめて急いで口を隠す。


「ハハハ!拭いたら馬車に戻れよ、俺は、みんなの分は集まったからな」


 何で拭こうか迷っていると、サトウさんは馬車に戻りみんなに果実を分け始めた。


 私も近くの葉っぱで口を拭き、すぐに戻った。



 ガタッ…ガタッ…


 あまり整理されてない道を走る馬車は、何度も小さな石にぶつかり全体が揺れている。


「涼しいねミラル…」


 風が馬車の中まで透けるように入ってくる。


 私は、サトウさんからこの森の名前を言われてから気が緩めずにいた。


 森は、馬車と風で揺れるとても大きな大木の木の葉以外何も聞こえない。日の光もギリギリ届くかぐらいで非常に薄暗い。一言で言うと怖い…


 ミラル以外の獣人の女子たちは、食べたからぐっすり眠っている。


 1人1人に、馬車にもともとあった布をかけながら、馬車が通った道を見つめる。


「暗いですね…そしたら」


「……我の下に天からの光を捧げよ…『陽の模倣(ソーライミテーション)


 さすがに、馬車の中が暗すぎたので、初級魔法『陽の模倣』を天井に設置する。


「ファラル!魔法が使えたのか、それは…光の玉?」


 後ろから急に褒められ、ビクッとなりながら後ろを向く。


「はい!一応ですが、非公式で準二級魔術師相当の魔法を使えますよ」


 少し自慢っぽくなってしまったけど、サトウさんなら大丈夫でしょう。


「準二級か…なら目の前の魔獣も倒せるよな」


 いつの間にか止まっていた馬車の先に、一匹の猪……クリカボア?!


 慌てふためく私は、村長に宥められながら、とりあえず、狙いを定めて棒立ちのクリカボアに中級魔法『焔斬(フレイム・クリーヴ)』を放った。


 赤い炎が剣を縦に振り下ろしたような太刀筋で、馬より早く進んでいく。


 思った通りクリカボアは、よけることさえできずに耳をふさぐほどの断末魔を上げながら、真っ二つに切断されて灰になった。


「あれ?こんなに強かったかしら、足が一本なくなる程度かと思ったのに」


「足が一本なくなるって…言い方が少し怖いが、その魔法の強さは、さっきの『ブルーストロベリー』のおかげだろうな」


 自分が放った魔法の強さに驚いていたら、サトウさんは、一瞥をすると淡々と説明を続ける。


「ブルーストロベリーは、別名『蒼き魔法の花托(ブルーストロベリー)』とも呼ばれている。その名の通り、魔法を底上げする力が込められていて、市場価値だと一個銀貨70枚することもある」


 籠いっぱいの果実を見ていると、そこまで高くなさそうに見えた。


「ここが原産地だが、ここは死魔の森だからなぁ~」


 悔しそうな村長の顔を見ながら納得する。


 ちょうどクリカボアの灰の上を通った。これが元々自分より大きかった魔獣とは思えない。


 ミラル達若い獣人は、さっきの断末魔で目を覚ましかわいらしい話を始めた。


 それ以降は特に何もなく、一時間が過ぎようとしている。


「どうしたんですか、サトウさ…」


 村長は、人差し指を口の前に立てて私たちの方に向いた。


「シッ!何か聞こえる…」


 真面目な顔で耳を澄ませているので、私も真似する。


「……ッ⁉」


 突然森の奥深くから何かの咆哮が聞こえてきた。


 サトウさんは、それに気づくと同時に馬を最速で走らせる。


 道を進んでいくと、どんどん咆哮の大きさは大きくなり、振動や木が倒れる音もしてきた。


「あれを見ろ!」


 指をされた方を見ると森の奥深くに村長の二回りぐらい大きな熊?がいた。


 静かな森の中から、大きな咆哮とともに


「きゃぁ~」


 森の中から女性の悲鳴が聞こえる。よく見ると、熊の周りに何人かいるらしい、しかもあの耳は……


「いくぞ、ファラル!」


「はい!」


 私は、サトウさんに言われる前から、籠を持ちながら準備していたのが功を奏した。


 スタートダッシュをうまくでき、村長に遅れないようにしながら後ろを歩く。ミラル達はお留守番だ。


 怪我をしてしゃがんでいる女性に、熊…というかヘルキラーベアが鋭い一撃をする前に止められた。もちろん村長が…


 私は、そのすきに女性の容態を確認する。


「大丈夫ですか、エル…フさん?回復できますか」


「はい、傷は浅いのですが、回復ができるほど魔力が残ってなくて」


 迷わず、『蒼き魔法の花托(ブルーストロベリー)』の入った籠を渡す。


「これは…いいの?」


 体に押し付けるように渡し食べてと促す。


 女性はバクバク食べ始め、すぐに緑色の光…上級魔法『癒しの緑光(グリーンヒ-ルライト)』をやり始めた。


「上級をいとも簡単にやるなんて…」


 エルフが魔法の扱いに長けているのは知っていたけど、ここまでとは知らなかった。上級魔法は、二級以上でできる人は多いけど、回復系になると話は変わってくる。


 魔力が放出する攻撃魔法と違い、循環の流れをうまく活用するのが回復魔法の基本だから、一級魔術師でも使えない人は結構いるらしい。


「私もあの戦いに…その必要はありませんね」


 いつの間にか戻ってきていたほか数人のエルフと一緒にサトウさんの戦闘を眺める。


「こいつ…名前と体格だけじゃないか?」


 意外と()()()()らしく、肩透かしを食らった顔をしている。


 ヘルキラーベアも、A級…いや、もしかしたらS級相当の冒険者と戦っても引き分ける強さを持っているはずなのですが…


 村長は、自分より大きい熊を軽々と持ち上げ、大木の方に投げ飛ばし、地面に落ちる少し前に、異能力で最大限強くした拳で、熊に打撃…ではなくけいという内部に振動を伝える技を使い。一発KOで泡を吹かせてしまった。


「よし、こいつはしばらく起きないから、俺らはもう行くか」


 にやにやしながらわざとらしく言うサトウさんは、見て分かるように何かを企んでいた。


 エルフ達に背を向けながら馬車に戻っていると、後ろから何人か走ってくる音がする。


「人間さん!」


 村長と同時に振り向くと、さっきいたエルフ達が肩で息をしながらそこに立っていた。


「どうしたんだい?」


 もう結果が分かっているといわんばかりに顔をキラキラさせている彼をよそ、私は、次に言われるだろう言葉を待つ。


「私達を仲間にしてくれませんか?」


「ああ、いいとも!よろしくな」


 即答の速さに驚いている彼らの手を引っ張り馬車に乗せる。


 乗せた瞬間、彼女たちは、獣人の子供に興味津々で顔をもみもみしている。


「そういえば、あなたのことを知っている気がするのですが…」


 急に真面目な顔になりまっすぐ前を向く彼の背中をずっと見るエルフ達。


 村長は見向きもせず何も答えない。


 彼女たちはお互いの顔を見て、何かが確信したように頷き合う。


「あなたは、数十年前に私達の集落を救ってくれた英雄様ではないですか」


「英雄様…?」


 私は、急に出てきた単語に驚きが隠せなかった。


「はぁ、気付いていたのか、でも、それはもう昔話みたいなものだろ、忘れてくれ…」


 サトウさんは、やれやれという感じで手を上げ白状し始めた。


「そんなのできません!英雄様は、魔法に強い耐性のある魔獣の群れを倒してくれたではないですか!」


「よし分かった、その恩があるなら、俺の願いを聞き入れてくれないか?」


 また、企んでいる顔をする。


「はい!なんでしょう」


 リーダーらしきエルフがそう言うと、それ以外も頷く。


「今の集落を出て、俺の村の住人になってくれ」


「いいですよ!」


 あまりの即答の速さに今度はこっちが驚く…


「本当にいいのか?」


「全然大丈夫です!私達も捨てられた身ですから」


 衝撃の発言をされて目を点にする。


「わかった、その心意気だ!あとは、天使族と吸血鬼たちが欲しい、住処はわかるよな」


 天使族と吸血鬼は、そもそも人間とあまりいい関係ではないはずなのですが


「知っています!私達に任せてください」


 そう言うと。リーダーエルフは、サトウさんの横に行き道案内に徹し始めた。

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