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記憶の中の人集めの冒険 ① 獣人編

「そこの君たち、これ…食べるか?」


 私たちの…こと?でもなんで…


「聞こえているか?ほら、おなかすいているだろ、食べなさい」


「あ…りがとう…ございます。あなたは…?」


 渡されたパンは、売れ残りであろうロールパン…だけど、何日も何も食べていなかった私たちにとっては必然と至高の一品に見える。


 バクバクと貪るように食べながら、彼がしゃべるのを待つ。


「俺の名前はサトウ、ここより少し遠いフロンティアの村長だ」


 フードを被る彼の顔を見ると、白髪が少し生えた老人にも見える男性だった。でも、彼が話す言葉は、とても若く明るく活気に満ちていた。


「君たち…行く当てがないのか?」


 雪が体に積もった私達は静かに頷く。


「そうか…わかった!君たち、俺について来い!」


 言われるがままついていくと、一つの宿についた。


「おい店主、二人子供が増えたから、部屋もう1つ借りるぞ、あと、追加の飯も」


 サトウさんは、金を受付に置くと、吐き捨てるようにそう言った。


「はいはい…今度はどんな厄介な奴を連れてきたんだ?」


 男店主は、呆れるように、やれやれ、と言い、金を取ってまた裏に戻っていった。


「よし、君たちはこの部屋で寝て…その前に風呂に入った方がいいな、この宿は風呂があるからついて来い」


 部屋に案内されボロ布一枚をたたんでいると、私たちの汚れた体を見たのか、サトウさんはそう提案してきた。


「ここは混浴だが、この時間帯は誰も来ないから安心しろ、俺は、代わりの衣服を買ってくる」


 そう言うと、走ってどこか行ってしまい。私達は、張り紙を頼りに、脱衣所で服を脱ぎ、体を洗い、お風呂に入りました。


「暖かい…ミラルは大丈夫?」


「うん…」


 ミラルもコクっと頷き、顎までお風呂に浸からせていました。


「それにしてもあの方は、どうしてこんなことをしてくれるのでしょうか」


「わかりゃにゃい……むにゃむにゃ…」


 久しぶりの暖かいを味わい安心しているのか、ウトウトしている妹を見ると自然と微笑んでしまう。


 湯気が立ち上がるのを何も考えずに見ていると、ドアがゆっくり開き、サトウさんがこちらを見ずに大丈夫か?。と様子をうかがってきた。


「新しい服を脱衣所に置いとくから、出たら一旦俺の部屋に来てくれ、君たちの部屋の隣だから」


 沈みそうなミラルを支えながら、はい!、と返事しておく。何だろう。


「こら、ミラル、ここで寝ないの」


 頭を赤子を触るような強さで少したたき、目を覚ませさせる。


 ふらふらしている妹の手を優しく掴み、最後にもう一回体を流してから脱衣所に向かう。


 自分の服の手前まで来ると、サトウさんの言っていた服が置いてある。


「かわいい…」


 貴族の時に来ていた服とは違い庶民的な服だったが、大人しさを感じさせてくれてあまり目立たない服だった。


 持ち上げてみると、服の全体が見える。


 膝丈のワンピースで、雪や月のごとく白い…さらさらしていてとても着心地がよさそうだ。


 妹の方は、動きよさそうな淡い空色のパフリーフで、胸元に可愛い猫さんの刺繡ししゅうがされている。それともう一つは、鈍く光る霞んだ銀のようなライトグレーの七文丈パンツ。


 でも、どちらも着れないことはないが少し大きい…まぁ、あの人とは会って間もないから服の大きさなんて知る由もないけど。


 体を隅々まで拭いて、早速妹の方から着せていく。


「すごく似合う、この色合い…今まで知らなかったなんて」


 一生の不覚と思っていると、ミラルが褒められたことに顔をにやけさせて、えへへ、と言っている。なおさら、可愛く見えてきた。


 私も着てみると、やっぱりとっても着心地がいい、貴族の店でもないのにこんなのを作れるなんて、どんな天才なのでしょう。


 鏡を見てみると、白銀の髪と真っ白なワンピースが、まるで、夜の雪道の見ている気分になれます。自分に惚れてしまいそう。ごほんごほん、自己陶酔じことうすいはしちゃだめ、ナルシストみたいになっちゃいます。


「ほら、あと少し、頑張るよ」


 妹を背負いながら、サトウさんの部屋に向かいました。


 ドアをゆっくり開けて、小さく、失礼します…と言ってから入ったが、サトウさんは、机で何やら真剣に地図を見つめながら考えている。


「ここに…こうきて…こうなるのか」


 そのようなつぶやきを聞きながら、失礼だと思いながらベットにミラルを寝かせる。さすがに腕が辛くなってきた。


 置いた音に気づいたのか、少しビクッとなりながらサトウさんはこちらを向いた。


「ごめんごめん、気付かなかったよ」


 彼は、苦笑いで謝りながらこちらに向き直すと、また、真剣な顔つきになり話始めた。


「君たち、行く当てがなさそうなんだけど、もしよかったら俺と一緒に人集めに行かないか?」


 ここまでしてもらって断る理由なんてどこにもない。


「わかりました。ミラルもいいよね?」


「うん、私、冒険ちゅき」


 まだよくしゃべれない妹の()()()()()()を感じ取り、よしよしと頭を撫でた。


「君の妹は、ミラルって言うんだね、本名?」


「それは愛称です。本当の名前は、ミロル・リーリラル。私は、ファラリア・リーリラル…ファラルと呼ばれています」


 初老の男性はやや驚きつつ、今の私達が一番聞きたくないことを言い始めた。


「リーリラルって…この間盗賊に襲われてしまった獣人貴族のところじゃねぇか」


 私は、心の傷がまたえぐられた気持ちがして、俯き暗い表情をしてしまった。ミラルは、リーリラルと貴族という言葉を聞き放心している。


「すまん、失言だったな…でも」


 ゆっくり顔を上げると、サトウさんはまるで、大丈夫!、と言っているかのような笑顔をしながら語る。


「俺も家族を数十年前に亡くしていて、だけど、今は村の連中が家族だからな」


 わっはっは、と大笑いしながら、私達と全く同じ境遇だということを一生懸命に伝えてくれた。唯一違うのは、サトウさんの場合は兄弟さえいなかったことだ。


「だから安心してほしい、俺が、君たち姉妹に大家族を作ってやる!」


 とっても元気な人…私もこうなれるかな…


「話はそれで終わりだ。これからよろしくな!ミラル!ファラル!明日の朝一出発だから、今日はもう寝て疲れをとれよ!」


 少し男らしく握手すると、私達はサトウさんに、おやすみ、と言ってから速足で部屋に戻り、月明かりだけで明るくなっている部屋のカーテンを閉めてからお互いくっつきながらすやすやと眠る。


 夢の世界に落ちる前に一言だけ。


「久しぶりに…柔らかいベット……おやすみ…ミラル…」


 安心しきってもう寝ている妹の顔を優しく見守りながら私も落ちた…



次の日の朝



夢は見たような見てないような、一瞬で過ぎ去った夜を思い出そうとしつつサトウさんについていく。


「目的地は決まってますか、サトウさん」


「ああ、まずは、人を乗せる馬車を買いにだだ!」


前を歩く彼の背中は自信に満ち溢れていて、勇ましさを感じる。


「ミラル、目は覚めそう?」


背中で寝ているミラルを優しく…だけど少し必死になりながら起こそうとする。


「まぁだ~」


これは、あと五分以上は起きない気がする。起こしたいのはやまやまだけど、この年で無理はよくないと思う。


「よかったら、俺が背負うよ」


サトウさんのありがたい申し出に甘え、妹を預ける。


「まだまだ道のりはあるからな、ファラルも疲れたら言えよ」


その若い言葉遣いには、海の水より多い優しさが溢れ出している。


「わかりました。その時は、お言葉に甘えさせてもらいます」


淡々と今は何でもないように言っているけど、数日ぶりに足腰を長く動かしているから、もう疲れがたまってきた。歩き始めてまだ一時間ぐらいなのに…


気付かれないぐらいの息切れをしていたら、急にサトウさんが話しかけてきた。


「気づかれないとでも思ったか?あと町まで30分ぐらいだけど、君の落ちていくペースだと、ここらへんで一回休んだ方がいい」


「すみません…」


「謝るなって、疲れない人はこの世にいないからな」


威圧を感じた気がしたから謝ったけど、それは全然違う勘違いでよかったと、笑う彼を見ながらそう思った。


「ん~、やっぱり、ここで休むのはなぁ……そうだ!」


足が棒になって、木の陰で座ろうとしていると、サトウさんが手を顎につけて何かを考えているようだった。


「ファラル、こっちに来てくれ、いい方法がある」


そういわれて近づくと、彼はいきなり私のことをミラルと一緒に担ぎ、走るポーズを始めた。


「ここからは、俺の能力『身体強化』でひとっ走りするぞ」


「えええ!」


走り始めて、驚く余裕もなしにどんどんスピードが上がっていく。ミラルも揺れに気づいたのか起き始め……また寝た。はぁ…


『身体強化』って、図鑑に載っていたけどここまでスピードを出せましたっけ、スーパーレアだからいい方なのですが…そういえば、説明の最後に熟練度とか言う言葉があった気がします。


30分と言われていた町まで、たったの二分で着きましたが、体を揺らされ私はへとへと…


「金はあるから、早速馬車を買おう」


私達の疲れを知ってか知らずか、担いだまんまで歩き始める。


町は、何とも言えない普通過ぎる町でした。この世界が小説の世界だったら絶対描写されないところ。


町の住人も、サトウさんより一回り以上若いのに、半分以下の生気しか感じ取れません。何かに不満なのでしょうか。


馬や馬車を売っている店につくと、私たちの村長は、無表情で金貨を数枚受付にたたきつけるかのように置く。


「店員いるか?馬と馬車と見せてくれ」


裏から出てきた店員は、この場ですぐ買おうとする彼のことを見て、すぐに受付の横の扉を開けて説明を始める。


「お客様には、こちらの馬と馬車がおすすめです。今なら金貨52……」


見せられたのは、気品と清潔感があり小さいけど力強そうな白馬と進む金と言っていいほど豪華で少しの人数しか入れない馬車が出された。一言で言うと、貴族用だ。


「馬はいいけど、馬車がな……もっと人数の入る大きな馬車と一回り大きく力強い馬を見せてくれないか」


断られた店員は、これのどこがダメなんだ、みたいな顔をしながら、要望通りのものの方へ案内してくれた。


次に見せられた馬と馬車はサトウさんの希望通りだったのか、目をキラキラさせて買う気満々のようだ。


馬は、小太りの店員三人…いや、四人分くらいの大きさで、筋肉の筋がよく見えるサラサラな金色のたてがみを持つ茶色の馬だった。馬車の方も、さっきとは打って変わって簡素で貧相に見えるが木はしっかりとした硬いのが使われていて、山道のような整理されてない道をいくら走っても平気そうな感じがする。入れる人数も申し分なさそうです。


「はぁ~、これは金貨11枚になります」


さっきのことが気に障ったらしく、ずっと不貞腐れてそっぽを向く店員の手に彼は、握りつぶすような勢いで金貨を渡し、ありがとう、と言っている。



「どこで人集めをするのですか?」


町を出るために馬車をゆっくり走らせるサトウさんに質問する。


「そうだな、どこにしよ……ここだ!」


何を血迷ったのか、急に馬を止め一つの建物へ向かう。


「待ってください、ここは…教会?」


彼は、ドアをバンと開け、中を見回す。


「聖職者の修道女に…神父に……いた!」


サトウさんは、教会の中で少し行儀の悪い行動をしていると思ったら、すぐに神父の下に行き土下座をする。


「神父よ、孤児院を全員、俺が育ててもいいか?」


急に驚きのこと言い始めた村長に、神父は待ったをかける。


「とりあえず落ち着きなさい、どうしてそんなことを言ったのか、それと、本当に育てられるのか確証を言ってください」


鼻息を荒くしているサトウさんと私達を椅子に座らせてから、そう聞いてきた。


「理由は簡単です。私の村の心優しい住人がもっと増えたらなと思い旅をして、ここを通った時に、ここだ!と自分の感が騒いだからです」


「その、自分の村の名前とは?」


「フロンティアです!」


元気に答えるサトウさんだったが、神父の反応はあまりよくないものだった。


「フロンティア?聞いたことありませんね。本当にありますか?」


神父が人を信じなくてどうする。と思ったのは心の中に閉じ込めといて、村長の顔を覗く。


「へへへ、地図に名前も載らない辺境の村ですから、その反応は正しいですよ」


苦笑いをしながらそう答えるサトウさんは、どこか悲しそうな表情をしていた。


「あなたとの短い会話を聞く限り、裏表がないと考えました。あなたに任せても大丈夫だと判断したので、ここにサインを…」


スッと出された紙に、一瞬でサインを終えた彼は、早速子供たちの方に向かい、しゃがみながらお願いを言い始めた。


「君たち、これからも苦労はあるだろうが、俺についてきてくれるか?」


みんなは、あまり意味を分かってなさそうだったが、サトウさんの真剣な眼差しをうけて、各自で静かに頷いている。


「よし、じゃあついて来い」


一斉に歩き出し、馬車に次々に載っていく。


「これは、彼女たちの名簿です。持って行ってください」


神父が私に紙を渡してきて、そこには名前がずら~と書かれていた。


「この名前の書き方…もしかして……」


「やっぱり全員獣人だったのですね」


各々帽子やフードでわからなかったけど、頭や腰に耳やしっぽがついているのが後々分かった。


「まっ、どうでもいいじゃねぇか種族なんて。俺が求めるのは、希望のある子供とか人材だけだ」


気負いが一切なさそうなサトウさんは、次の住人のために馬車を走らせました。



4時間後


静かな森の中から、大きな咆哮とともに


「きゃあ~」


森の中から女性の声が聞こえる。しかも、あの耳は……


「いくぞ、ファラル!」


「はい!」

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