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村に馴染むなら、村長に ② みんなを知るのが第一

 朝日が上がったばかり、僕は、あることをやりに練習場に向かう。


「よし、『経験複製体』を使って早速鍛錬といきますか」


 この間考えていた魔力関係のステータスを上げるために、とりあえず、自分の体に廻っているであろう魔力を少しずつ放ってみる。


「素人の僕でもわかる、これは、俗にいう魔力雑魚ってやつか」


 魔力以外なら自信あるけどなぁ~、と思いつつステータスを覗く。


「魔力総量の詳細ステータスは特にないから、この2があがればいいんだけどな」


 一旦魔力の放出を止めて、今度は魔力回復を見てみる。


「魔力の全回復まで5分…しかも、詳細ステータスは、回復量と回復速度が1ずつ上がっただけ」


 これでも、『経験複製体』を使っているから上がりやすいはずなんだけどね


 でも、魔力放出が8という意外と高い数値が謎だな。


 これからに期待だな、『経験複製体』は誰にも見えないし、このまま放出と回復を繰り返してもらっていたら1日中なら少し位上がっているだろう。


「よし、いい時間だし、今日こそはクロノを無理やり起こしに行くか」


 背伸びしながらそう決めると、早速家に戻る。


 家に戻ると僕の後に起きたドラフさんが、バタバタと朝食の準備を始めている。


「そうだ、ドラフさん!こっちに来てくれるかい」


 僕に気づくと、はい!、と言って嬉しそうにこちらに向かってきた。


「ドラフさんって、料理が大好きであってるよね?」


「はい!子供のころから好きで何度も練習していました」


 僕はこの子が持つべきであろう能力を持っている。


「あのさ、ズルになるかもしれないんだけど、もしよかったらもらってくれないか、僕が持つ異能力、ウルトラレア『料理人の極意』をさ」


「本当ですか!でも、なんでズルになるんですか?」


 この子は努力して美味しい料理を作ったけど、僕はこの能力で簡単においしいものを作ってしまう。


「それはね、この能力は、材料と作る思いがあれば、とてもおいしい料理を作れてしまう、いわば、料理系チート能力ってやつなんだ。これをもったらもしかしてドラフさんの今までの努力が無駄になってしまうかもしれない」


 真剣に考えている。そんな姿もかわ…違う今じゃない。


「それはないと思います。だって、その能力は、食べる人を笑顔にするもの…つまりプラスな思いです。私は、そんな能力が努力の結晶を壊すんじゃなくて、合体して、更なる料理の高みに行けると思います」


 いい心意気だ。これが本物の料理人の考え方なのだろうか。


「わかった。では、ギフトするからもう少し近づいて」


 自分が言ったことが少し恥ずかしいのか、顔を赤く染めてうつむきながら目の前にくる。大丈夫、僕はもっとすごい黒歴史を作ったから。


「ギフト」


 ドラフさんは、自分に能力が渡ったことがわかると、何度も、ありがとうございます、と言いながら頭を下げている。


 宝の持ち腐れだと思っていた能力がしっかりした人にわたってよかったと思いながら二階に上る。


 クロノの部屋の前まで来た。呼吸を整えてからノックしてみる。


 コンコンコン


 返事も物音もなし、確実に寝ているな。


 ゆっくり扉を開けながら、中を確認する。


 窓が全開になりながら、風がカーテンを大きく揺らしながら入ってきている。


 ベットを覗くといない…と思ったら後ろのソファーで寝落ちしていた。


 今回はしっかり服…というか下着だけつけている。挑戦的だな。


「起きろ、朝だぞ」


 少し揺らしても起きない。…そうだ!あれを言えば…


「無理やり外に連れて行って、練習相手にしようかな」


「我は嫌!」


 思いっきり起き上がりやがった。やっぱり起きてたか。


「さっさと服を着ろ」


「服を着ながら寝たのだが」


「下着だけじゃなくて、パジャマでもいいから着ろ、てか恥じらいを持て!」


 この伝説のドラゴンさんには恥ずかしいという気持ちがないのか、さすが伝説


 服を着替えさせ、無理やり日の光にあてて起こす。


「今日は、クロノにも一緒に回ってもらうからな」


 この人、本当に貴婦人の服装が似合うな。


 僕は、クロノの手を引っ張り、1階へ向かう。


「村長!能力を使って料理を作ってみました。私、この能力といい友達になれそうです」


 いいにおいがするなと思っていたが、早速使って作っていたとは、まだ時間があるし、食べていくか。…能力って人格あったっけ?


「今回はクリカボアの肉を使った厚切りステーキです!ソースはピンク色の岩塩を削った塩と古木からとった甘いシロップを混ぜたものです。甘じょっぱくて合いますよ!」


 嬉しさに満ち溢れた笑顔を目の当たりにして、料理以上に感動する。


 僕たち2人は、椅子に座り料理が来るのを待つ。おいしそうな匂いに、つい涎をこぼしてしまいそうになる。てか、クロノはもうこぼしてる。


「ドラフの料理は格別だからの、楽しみだ」


 よだれを拭いているクロノと同感だ。昨日の料理はずごかった。


「お待たせしました」


 ドラフは、まだ熱々な鉄板に焼かれている厚切りステーキを持ってきた。


 見るだけでわかる、昨日より料理のレベルが数段上だということに…僕が使うより能力の扱いがうまい。


 ナイフとフォークが渡され、僕は手を合わせて


「いただきます」


 ナイフを肉に刺そうとしたが、クロノの手が動いてないことに気づいた。


「どうした?食べないのか」


 顔を見ると、何やらこちらをじろじろ見ている。


「その、いただきます…ってなんじゃ」


 この世界には、食べ物への感謝という概念がないのか、それともこのドラゴンが時代遅れか…


「僕の世界では、命や作ってくれた人への感謝のために、食事の前に必ずこう言うんだけど…この世界にはないのか?」


「そうじゃな、我は聞いたことがない」


 やっぱりこのドラゴン時代遅……


「他はともかく、この村には、そういうのはありません」


 ドラフが付け加えで言ってくれた。これはだめだ、この村だけでもいいから「いただきます」を徹底しなければ。


「じゃあ、これからは言おう。村長の願いだ。感謝は本当に大事だからね」


 後で張り紙を作っとこう。


 そう言うと、クロノもいただきますをしてくれて、やっと、食べれると安堵した。


「やっぱりおいしいな!」


 ナイフを刺したところから肉の脂が流れ出し、口に含むと溶けるようになくなる。


「ん~、柔らかいのじゃ~」


 赤身もちょうどいい歯ごたえで無理せず食べれる。ソースと絡ませることで、そのうまみは倍増し、料理で、有名映画並みに感動できる美味しさだ。


「ありがとうございます。これからも日々精進していきます」


「こちらこそだ、こんなにうまい飯が食えるなんての」


 クロノも美味しくてほっぺたが落ちそうになり左手で支えている。


「こちらのハーブティーもどうぞ」


 渡されたハーブティーを一口飲む。


 美味しい…というか口の中がリセットされる。何を使っているんだ?


「口の中がさっぱりして、また肉のおいしさを味わえる!」


「そのとおりじゃ!」


 そんなこんなで、自分で使った時よりも多く感動しながら食事は終わった。


 今更だが、この世界は靴のまま部屋に出入りするから、日本人の俺には少しきつい。


 玄関から2人で出て、広場へ向かう。ファラルと会えるはずだ。


「ユウキ村長!クロノさん!こっちです」


 思った通り、広場の中心で手を振って僕たちを呼ぶファラルを発見した。


 少し早歩きをして向かう、ミラルも異能力を使って現れた…寝起きか?


 ファラルの目の前にくると説明が始まった。


「人間の人たちは大丈夫だと思いますので、まずは獣人から行きましょう…と言っても、獣人のリーダーは私とミラルなので、私達だけで説明しますね」


 そうか、まぁそうだよな、司会とかやっていたし…


「まず、獣人の最大の特徴と言ってもいいしっぽと耳ですが、あまり触られたくありません。ユウキ村長ならいいですけどね」


 へぇ~、と思いながら理由を推測してみる。


「不快感を感じるのか、それとも、触ると痛いの…」


「勝手に体が反応しちゃうんです…」


 急に早口になり告げられた言葉に、僕は、思春期の悪戯心が湧き出た。


 試しに、逃げようとしているミラルを捕まえ、頭、特に耳付近を撫でる。超撫でる。


 その瞬間、ミラルは焦った顔から、気持ちよさそうな…猫でいうゴロゴロ状態になっている。猫耳仲間だしな。


 やりすぎて、足の力が抜けて倒れそうになった。


「すまん、やりすぎ…」


「あぁぁ~」


 うまく腰に手をまわし支えられたと思ったら、ちょうど猫のしっぽにあたり、ミラルはさらに気持ちよさそうに顔を赤らめ、ぐて~としてしまった。


「あらあら、すいません、ここからは乙女のプライドにかかわりますから」


 ファラルはそう言うと、僕の代わりにミラルを持ってくれた。


「あらら、こんなにしっとりさせて」


「勇者様、なかなかテクニシャンですな」


 何を褒められているかよく分からんが、ミラルもすぐに正常な状態に戻ったようだ。なんかもじもじしてるけど。


 ファラルが、おっほん、と気を絞めなおす。


「話の続きですが、しっぽと耳以外は特に人間さん達と変わりませんので、次に行きましょう」


 次に向かったのは、練習場で戦っている。天使族とエルフの元


「先に天使族を紹介しますね。彼女たちは、聖なる魔法や能力を使う普通の天使と違い。拳を信じる天使族の下で誕生しました。力と誇りを大事にしていて、負けず嫌いです」


 負けず嫌いなのは、安易に想像できる。


「最大の特徴は、何と言ってもあの天使の翼ですね。空中戦を得意としていて、空中移動の操作性なら誰にも負けないと自負しているらしいです」


 まぁ確かに、エルフとの戦いでも空中からの飛び蹴りとか何とか披露してるな。


「我と似ているのだな、では試しに戦って…」


「クロノは圧勝しちゃうからダメ」


 忘れてた。この人も武闘派だったな。


 そういえば、エルフも天使族と互角程度に戦っているぞ。


「エルフの方は、魔法の扱いに長けた種族です。」


 クロノが分かりやすく嫌な顔している。魔法が弱点かもしれない。僕は、そもそも今は魔法使えないけど。


「ですが、好奇心旺盛なので、なんでも試す癖があり、そのため、魔法が得意なのに近距離戦をしたがる脳筋な人が多いのです。」


 あぁ、あの料理も種族自体の性格だったんだ。納得納得。


 説明は終わったが、後ろで静かにずっとは放出と回復を繰り返している『経験複製体』がシュールすぎて頭に入らなかった。


 お次は、ずっと家に籠っている吸血鬼の皆さんの所へ


「やっぱり、少し怖いな」


「弱気になるな勇者様、たかが禁術魔法ですぞ」


 禁術だから怖いんだよ、


 コンコンコン


 軽くノックしてからファラルが入る。


「失礼します。村長に説明しに来ました」


「失礼します…」


「失礼するのじゃ」


 中に入ると、そこには薄暗く不穏な空気が漂っていた。


「ここの奥に、研究室があるので行きましょう」


 研究室らしき扉の前にくると、微かに音が聞こえてきた。


 ノックして、部屋に静かに入ると、僕は絶句した。


 横幅が3mぐらいの魔法陣を吸血鬼の3人が囲んでいる。さっきの音の正体は、吸血鬼のボソボソとした呟きらしい。


 吸血鬼の1人が僕達に気づくと近づいてくる。


「いましたか…気づきませんでした」


 この距離でやっと気づくなんて、どんだけ集中していたんだ。ほかの2人はまだ気づいてないみたいだし。


 ファラルさんが、ごにょごにょと経緯を説明すると、今回は、吸血鬼さん本人から説明をしてもらった。


「私の名前はミルファ、一応吸血鬼のリーダーをさせてもらっています」


 一応と言っているが、ドヤァ、と当然ですという顔をしている。


「私達は、普通の人間には太陽が弱点だと思われていますが、それは、太古のヴァンパイアだけで、子孫の私たちは、日光に耐性があります。あと、設置型魔方陣が得意です」


「ヴァンパイア…嫌な思い出しかおらん」


 そっか、クロノは長生きしてるもんね。


「でも、任命式の時も日傘をしていたよね」


「それは、ただ単に日焼けするのが嫌なだけです」


 普通の女性だな。


「私たち吸血鬼は、エルフと違い、ただ好奇心旺盛ではなく、しっかりとリスク管理ができるのですよ」


 それにしては、禁術魔法の研究をしているのだが、禁術だよね?


「あまり追及しないが、エルフと仲良くないのか?」


「いや、別に仲が悪いわけではないのですが…あの人たちは、少しというか結構元気ですからね」


 分かるぞ、エルフさん達と一緒にいると命が何個あっても足りない気がする。


 影の隅ぐらい暗い吸血鬼さん達と太陽と比べた方が早いほど明るいエルフさん達では、あまり表現ができない壁があるんだよな…


「そういえば、今やっている禁術魔法の研究はなんですか?」


「何個かあるのですが、一番力を入れているのが『悪魔召喚』ですかね」


 それはちょっとやばすぎるんじゃないでしょうか…でもリスク管理はできるのか…


「失敗とかは…」


「今のところそのような予定はありません」


 これは自信満々だな


 クロノも、我も戦ってみたいなぁ、とか呟いてる。


「でもなんで悪魔なんて召喚したいんだ?」


「だって…」


「だって?」


「だってかっこいいじゃないですか!」


 まさかの中二病的理由でここら辺一体危なっかしくなってるなんて、マグロも止まるほどの驚きだよ。


「ははは…これからもガンバッテネ…」


 これは苦笑いするしかない…


 半ば逃げるように家を出ると、ファラルに感想を言う。


「来た時から思っていたけど、やっぱり濃い種族ばかりだな」


「ですね、集まったばかりの時は、言い合いも多かったんですよ」


「そうなんだな、その…集まった経緯を教えてほしんだが、大丈夫か?」


「我も気になる!」


 来た時から気になっていた、どうやってみんなが集まったかを…


「全然いいですよ、じゃあ、帰りながら話しましょう」


 僕は、分かった、と言い食堂まで歩き始めた。



「それはですね、ある日、村長が道端でおなかをすかせて死にそうだった私たちに食料与えてくれたことから始まりました……」

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