村に馴染むなら、村長に ① 来て1日で任命と案内
ぴよぴよと小鳥が鳴く声で目を覚ます。
仰向けで寝ていて、天井が視界一面に広がっている。
「本当に着いたんだな…」
窓を見ると、まだ、日が上がってから少ししかたっていないらしい。朝日がまぶしい。
片手で数えられるくらいの日数しか旅してないのに、色々とあったなと感傷に浸る。
トントン
ノックがなる。誰か来たようだ。
「ユウキ村長、朝食の用意が出来ました。準備ができましたら降りてきてください」
ドア越しで女性の声が聞こえる。
服を着替えずに寝てしまった僕は、服を整えてから、気を楽にしながらすぐに1階へ向かう。
「来ましたか、では、こちらへ」
犬耳の可愛いメイドが階段の下で待っていた。足枷は外れて、元の姿に戻ったようだ。
案内されるまま、ワクワクしながら家を歩く。
「こちらで座っていてください」
案内された部屋は、この世界では一般的な普通なリビングだった。
「家の大きさの割には、あるものが簡素なものばっかりだな、この机だって手作り感がするし。贅沢できないというか、する必要がないというか……」
そんなことを呟いていると、食事が持ってこられた。
「レイジバードの玉子焼きと、手羽先の炙り焼きです。このソースを好きな量かけてください」
「美味しそう!」
玉子焼きは均等に焼けていて、綺麗な黄色がさらけ出されている。
炙り焼きの方も、香ばしいにおいが漂ってきて鼻を刺激して、よだれがあふれ出しそうになる。謎のソースもとっても気になる。
ありがとう、とお礼を言うと、早速手を合わせて。
「いただきます!」
玉子焼きを一口に切って口に含む、表面から想像できないほど中が柔らかく、少し焼けきってない部分もある。でも、それがまた、味を濃厚にしてくれてとても美味となっている。
手羽先も、まずはソースなしで一口食べてみる。
「ほくほくじゃん!」
手羽先自体には、あまり香辛料とかはかかってなく、ちょうどいいくらいに塩がかかっている。外側はパリッとしている。
謎のソースをかけてみる。
ソースの匂いが鼻にきて確信する。これは最高にうまいと。
「甘辛ソースか…料理を作った人は天才か?」
心の中で褒めていたつもりが、無意識に口から漏れていたみたいだ。
チラッと厨房の方を覗くと、さっきのメイドがいた。トレイで顔を隠しながらこちらをうかがっている。
僕が、料理を食べ美味しそうにしていると、しっぽをフリフリと振って嬉しそうだ。彼女が作ったのか、後で名前を聞いておこう。
僕は、食べ終わり、メイドが皿をかたずけたことにお礼を言ってから、クロノを確認しに行く。
クロノの部屋は、同じ二階の僕の反対側。
コンコンコン
とりあえずノックして反応をうかがう。
何も聞こえない。
「おーいクロノ、入るぞ」
そっとドアを開けて中を覗く、伝説の守り神だから大丈夫だろうと思っていたが、肩透かしを食らった気分になった。
「ダラーンと寝るな、早く起きろ」
ふかふかのベッドでよだれを垂らしながらまだ寝ている。寝相の悪さは言うまでもない。
布団を剝がそうとしたがやめた、嫌な予感がする。
クロノは、僕に気づきゆっくりと起き上がる、そしたら自然と布団が落ちる。
嫌な予感は的中した。
「寝る時も服を着ろ!僕は出てる」
ドアをバンと閉めて、一階に降りる。
外に出ようとすると、玄関にファラルがいた。
「あっ、いました!ユウキ村長こちらへ来てください。任命式の準備をしましょう」
僕は、手を引かれるまま村の広場に連れていかれた。
「ここで約一時間後にみんなが集まってきます。その時に、軽く何かスピーチをしてほしいのです」
分かった、と頷き、ファラルが行った後に頭を抱える。
「何を言おう…」
自分が困っていても、時間は無慈悲に進む。
あっという間に任命式の時間になり、みんなが続々集まってくる。僕は、今まで友達でさえいなかったのに、みんなの前でスピーチなんて地獄すぎる。
式はどんどん進んでいって、僕は、村長の座を手にした。
「最後に、村長からのお話です!」
ファラルといつの間にかいたミラルが司会をやっていて、今、僕は業火に焼かれている気分だ。
「は、はい、えーと、ではまず、皆さんに質問をします…」
見られて汗が滝のように流れる。シドレもいるじゃん、仲間に支えられているからまだ治ってないのかな…?
僕は、ある最終手段に出て、自分の秘密一つでみんなからの信用を勝ち取ろうとした。
「このなかに、異能力か基本能力を持っている人はいますか」
ミラル以外だれも手を上げない、逆に、みんながミラルを見て驚いている。
思った通りだった。ここの村の女性は、能力を持っていないから仲間から追い出された。要するに、持たざる者の寄せ集めってところらしい。
「皆さん驚いているでしょう、もともと持っていなかったミラルが、今は持っている」
調子が乗ってきた。
「これは、わたしの異能力、レジェンダリー『ギフトガチャ』の力のおかげです」
「この能力は、一日に一回、能力のガチャが回せるというシンプルなものです」
みんなが耳を傾けている。
「試しに今ここでやってみましょう」
僕はそういうと、みんなには見えないメニューからガチャ画面を開き、回してみる。
そうしたら、今回も紫色の玉…ウルトラレアの基本能力、『回復・源」が出てきた。
説明には…
『致命傷でも16.5秒で治る。代わりに疲労が蓄積される』
と書かれている。『経験複製体』と弱点だけ一緒だな。
「誰か鋭いものを持っていますか?」
暗い雰囲気を出す吸血鬼らしき人が、これなら、と鉄の簪を貸してくれた。
「見ててくれ」
僕はそれを服を貫通して腹に突き刺す。表しきれないほど痛い。
獣人達と人間達は口元を隠して目を見開き、吸血鬼と天使族は興味深そうに見ている。
腹に刺さった簪から手を放すが、すぐに簪は勝手に抜けた。
服についた血も腹に戻り、腹の傷は完璧に治った。
「これがウルトラレアの基本能力、『回復・源』の力だ」
僕は台を降り、シドレの方に向かう。ついでに、ミッションを確認する。しっかりと獲得できているな。
「な、なんだ」
彼女は少し驚いている。
「なぁシドレ、背中の骨折、まだ治ってないだろ」
普通は、背中の骨折ってやばい気がするが…
「それがどうした!いたた…」
僕は、シドレに能力をギフトした。
「あれ、痛くない、というか、完璧に治ってる」
仲間の介護から解放され嬉しそうだ。
「僕は今、シドレにこの能力を譲る…ギフトした」
台に戻りながら言う。
「僕はみんなと仲良くしたい、そして、この村を復興…いや、先に進めさせたい…」
台に立ち、息を整えてからはっきりと宣言した。
「僕は君たちに、能力を授け、発展を助ける。だから、みんなは、僕を受け入れてほしい!」
決まった…
獣人達と人間達は拍手をしてくれて、それ以外は、ほぉ~、と頷いているのが見える。
「お話ありがとうございました。最後に質問がある人はいますか?」
人間の少女が、はい、と頑張って背伸びしながら手を挙げる。
「ユウキ村長は、この村を最終的にどうしたいのですか?」
なかなか的確な質問だ。考えてなかったな…
「そうだな…えーと…今この村にいる人を主体として、国造りなんかを…しようかな?」
「つまり、他の国と渡り合えるほどの武力・財力を作りたいということですね?」
この子、頭よくないか…?
少女が結論を言うと、他のみんなの顔がパッと明るくなる。特に、天使族…武力しか考えてないだろ、あいつら。
こんな感じで、後は無難な質問が続き、任命式はギリギリ精神を削られずに済んだ。
「よかったですよ。ユウキさん」
ミラルの笑顔と褒め言葉に癒されながら、ファラルについていく。
今更だが、さっきのスピーチが、僕の黒歴史に載ったことは間違いないだろうと感じる。恥ずかしさで死にそうだ…なんだよ、僕を受け入れてほしい!なんて、やばすぎだろ。
「ユウキ村長、まずは村の案内と説明をします」
一つ目に案内されたのは、村長の家にもつながっている一階建ての家だ。
「ここは村の人が食べにくる食堂です。中には、大きなテーブルが2つと、厨房があります」
「厨房には、ほとんどの日には、犬耳の獣人のドラフがいます。たまに、エルフの皆さんが練習しにも来ます」
あの子、ドラフって言うんだ。
「この近くには、すぐに食堂にいけるという理由で練習場があります」
食堂の裏に行くと、四角形の広場があり、ベンチと小さな小屋がある。
ベンチには、青い戦闘服を着て、翼をもつ女性が三人座っている。天使族だ…
「ここでは、天使族の皆さんが日々特訓しています。たまに、エルフさんたちも来ますよ」
ベンチの1人がこちらに気づくと、三人で何やら話始め、シドレがこちらに向かってきた。
「この能力は、お前からもらったものだが、これを利用して今度こそお前に勝つ!」
こちらの了承なしで勝負が始まった。
「オラッ」
ゆっくり見える拳を簡単にはじき、試しに腹を優しく…といっても立ち上がれないぐらいのパンチをする。
「おお…よく吹っ飛ぶな」
対応できず簡単に倒れるシドレを待つ、あの能力だったらもう立ち上がるはず…
「ハァハァ」
足が震えているが、しっかり立ったようだ。傷も治っているみたい。
「こんなんじゃ…ハァハァ…倒れないからな」
もう十分きつそうだが、すぐ終わらせるために、能力の説明を思い出す。
「もう一度、オラッ…あれ消え……」
気絶した。首チョップって効くもんなんだな。
「他の2人、この人気絶してるから、小屋に運んでやって」
『回復・源』は、怪我は治せるけど、意識には効果がないと思ったけど、実際そうだったみたいだ。
「…大丈夫そうですね。ユウキ村長、次に行きましょう」
次に案内されたのは、普通の家…なんだが、何か危ない雰囲気を放っている。
「ここは、吸血鬼さん達の家兼研究所です」
「一応聞くが…何を研究しているんだ?」
怖いのかワクワクなのかわからないが、心臓がドキドキしている。
「確か、禁術魔法の研究…?だった気がします」
巻き込まれるかもしれないから近寄らないでおこう。決して、怖くて近寄れないわけではない。
ここからはシンプルではないが、ファンタジーらしいのが多かった。
村の人数に合わないであろう広大な畑や、エルフのツタが絡みまくっている共同住宅や、人間と獣人が一緒に住んでいる家、天使族の武器庫兼家があった。
「これで今日は終わりです。明日は、種族の特徴やそのリーダーの説明をさせていただきます」
「わかった。もう夕方だから、僕は食堂で何か少し食べてから寝ることにするよ」
「そうですね、今日は、エルフの皆さんが料理を手伝っているのでぜひ行ってみてください。今のうちに経験した方がいいですし……」
最後に変なことを言っていたが気にしなくていいだろう。ああ、と言って、僕は食堂に入った。
「いらっしゃ…村長!食べに来てくれたんですね」
最初に感じた感想は1つ。真の陽キャってこんな雰囲気なんだなと。
食堂の雰囲気は、朝とは違いザワザワと少しうるさい、でも、嫌になるほどではない。
厨房の奥からよく通る声が聞こえる。
「ユウキさん、私たちのおすすめでいいですか?」
俺も声を少し張り、いいよ、と言った。大声を出すのは少し恥ずかしい。
料理は休む暇もなく出てきた。
「この間食べた毒みたいな虹色のキノコ?のオーブン焼きかな」
厨房の方に目をやると、ドラフさん、何度も頭を下げている。この人たちが勝手にやったようだ。
もう一度、明らか毒に見えるので『解析鑑定』をするが…大丈夫みたいだ。
「このキノコ料理、色がやばいが大丈夫なのか?」
一応、見た目やばいもの出した理由が知りたい。
「何事も試すのが勝ちだと思うので、そこらへんで取った面白そうなのを食べてもらおうと」
なんと好奇心旺盛な女性たちでしょう。本当に長年生きていたのかわからないなこの人達?
「君たちは食べてみた?」
「いいえ!」
超絶可愛い笑顔で返された。これは言い返せない。
早速一口食べてみる。
「どうですか?」
意外と料理自体はおいしく、オーブン焼きも完璧に成功している。
「ああ、おいしいよ」
そういうと、彼女たちは、一緒に大喜びして、村長に褒めてもらった、と何度も言っている。
物凄く元気だな、少し照れる。
ドラフさんも落ち着いたのか、胸を撫でおろしている。
やっぱりおいしいなと思っていたら、すぐ完食してしまった。
「美味しかったよ。ありがとう」
そう言って、みんなに手を振ると、みんなも振ってくれた。中学の時も、こんな友達がいれば…
僕は、連絡通路を通り、村長の家に戻る。
「今日もいろいろあったな。一番最初の目標は、天使族からちょっかいをだされなくすることかな」
クロノは、朝僕が起こそうとした後にまた寝て、昼に食堂にきて飯を食べて、さらに寝たらしい。あの人、伝説のドラゴンだよな?
僕は部屋に戻り、ベッドに座る。
「明日は、種族の説明か。大体分かる気がするけど、吸血鬼さん達がよく分からないな」
僕は、明日の大事な部分を頭の中で想像しながら横になる。
「おやすみなさい、創造神様」
こんな、騒がしい毎日が終わらないでほしいと願いながら僕は寝た。