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終章 二人の夢(一)

 あれから季節は過ぎ、志乃が花奏の元に嫁いでから、二度目の夏がやって来た。


 志乃は花奏に手を引かれて車を降りると、久しぶりに訪れた立派な洋館に足を踏み入れる。


 玄関ホールのステンドグラスは、真夏の日差しを受けてキラキラと光り、床一面に(いろど)りあざやかな影を作っていた。



「やぁ、これはこれは斎宮司君。いつ見ても仲睦まじいですなぁ」


 すると背後から、豪快な声とともに谷崎の父が現れる。


 志乃は汗を拭っていたハンケチを着物の胸元に戻すと、花奏に支えられながらゆっくりと振り返った。



「谷崎様。本日は何から何までご準備いただき、誠にありがとうございます」


 花奏が深々と頭を下げ、志乃も隣で同じように頭を下げる。


「いやいや、お気になさらず。奥様の側にいてやってください。今は大事な時ですからなぁ」


 大きな笑い声に、志乃は恥じらうように花奏と顔を見合わせた。



 谷崎の父は満足そうな笑みを見せると言葉を続ける。


「最初、今回の話を聞いた時は驚きましたが、私も微力ながらお手伝いさせていただきますぞ。さぁさぁ、会場の中もご覧ください」


 促されるように会場へと入った志乃は、途端に目を丸くする。


 普段社交界で使用されている部屋は、今はその(きら)びやかさは抑えられ、自然光がさし込む中、何脚もの椅子が正面に向かって並べられているのだ。


 そして、その目線の先には、これから楽器の演奏を披露する舞台と、横に演台も準備されていた。



 感動したように顔を上げた志乃は、正面に掲げられた横断幕の文字を見てはっと息をのむ。


「旦那様……」


 次第に潤みだした瞳で見上げると、花奏が志乃の肩を優しく抱いた。


「志乃の想いが、形になったな」


「……はい」


 噛みしめるようにうなずいた志乃は、数か月前のことを思い出していた。


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