第三十七話 初めて知った皆の想い(一)
「お姉たん!」
土産物を持った志乃と花奏が実家の前まで来ると、下の妹の藤が驚いたような声を上げ、二人を出迎える。
藤は、突然訪ねてきた志乃に驚いたのだろう。
しばらく呆然と立ち尽くしていたが、急に「きゃー」と叫んで満面の笑みを見せると、志乃に飛びついた。
「藤、また随分と背が伸びたんじゃない?」
志乃は藤の成長ぶりに驚きながら、優しく頭を撫でる。
藤は「えへへ」と照れた様子を見せていたが、はっとすると玄関を振り返った。
「お母さぁん、お姉たんが帰ってきたぁ」
藤の大きな声が響き渡り、ドタドタという足音が室内から聞こえてくる。
すると今度は、華が玄関を飛び出してきた。
しばらく見ない内に、華も随分と落ち着いた雰囲気になっている。
「お姉ちゃん、どうしたの!? まさか、家を追い出されたんじゃ……」
眉間に皺を寄せた華は、そこまで言ってはっと頬を赤くする。
志乃の後ろから、花奏が顔を覗かせていたのだ。
「はじめまして」
にっこりとほほ笑む花奏を見上げ、途端に華も藤もぽーっと棒立ちになってしまった。
すると母が玄関に顔を見せ、志乃は二人を促すと、久しぶりの実家に入っていった。
志乃は以前と変わらない家の装いに、懐かしさを噛みしめながら部屋に上がる。
あれから母は体調を崩すこともなく、親子三人で穏やかに暮らしているようだ。
「お姉たん、こっちこっち」
藤にせかされるように、志乃は花奏とともに居間に腰を下ろす。
花奏に興味津々な妹たちは、それからしばらくは、興奮したようにはしゃいでいた。
藤がお気に入りのビー玉やおはじきを持ってきたり、華が恥ずかしそうに学校で習った読み書きを披露したり。
花奏もまるで今日初めて会ったのが嘘のように、志乃の家族と打ち解けて、楽しい時間を過ごした。
「志乃、あなたの幸せそうな顔を見られて、母はこんなに嬉しい日はありませんよ」
帰り際、母が志乃にそっと声をかける。
「家族のために、あなたを嫁がせると決めた後も、本当はとても悩んでいたのです」
「お母さん……」
「でも今日、あなたと斎宮司様の仲睦まじい姿を見て、心から救われました。志乃、とにかく身体を大切に、旦那様に尽くすのですよ」
涙をためながら志乃の手を優しくさする母に、志乃は瞳を潤ませると何度もうなずいたのだ。