第七話 変化していく心(二)
「井戸水で冷やすのも良いですが、今日は冷蔵庫の氷が、新しいのが届きましたからね。とても良く冷えておりますよ」
五木は嬉しそうにそう言うと、スイカを一切れ取り上げ、ひょいと志乃に手渡す。
「いただきます」
志乃は、死神の事を聞きたい気持ちを抑えるように手を合わせると、真っ赤なスイカを受け取った。
スイカは本当によく冷えていて、志乃は両手の指先で持ちながら、大きな口を開けてがぶりと頬張る。
するとシャクリという音とともに、キーンという冷たさが、一気に口の中に伝わった。
でもすぐにそれは、甘くてみずみずしいスイカの蜜で満たされる。
「わぁ、すごく甘くて美味しい!」
志乃の弾むような声に、五木は満足そうだ。
火照った身体が一気に冷やされ、ふうと息をついた志乃は、遠慮がちに五木を見た。
「あの……昨晩、旦那様はこちらに?」
もじもじと声を出す志乃に、五木はお茶をズズッとすすると「はい、さようで」とうなずいた。
やはり死神は昨晩こちらに戻っていたのか。
「そ、それで、あの……その……」
死神は自分が書いた手紙を読んだのだろうか。
志乃はそれが気になって、再びもじもじと声を出す。
すると五木がフォッフォッと笑い声をあげながら、大きくうなずいた。
「旦那様は、志乃様のお手紙を、ちゃんと読んでおいででしたよ」
「本当ですか!」
志乃は途端にぱっと笑顔を咲かせる。
「そ、それで、旦那様は何と……?」
様子を伺うような志乃に、五木は「うーむ」と考える振りをしてから「あ、そうそう」と手を叩いた。
「死神の旦那様という宛名に、少々驚いておいででした」
「え……そうなのですね。私、旦那様のお名前を存じ上げないもので……。やはり、失礼だったでしょうか……?」
今にも泣きそうになった志乃に、五木は大きく頭をふる。
「そんなことはございませんよ。大切にしまわれておりましたから、きっと心の中ではほほ笑まれていたことでしょう」
五木の声に途端に安心すると、志乃はにっこりと笑顔を見せる。
「実はお土産のお礼に、妹たちから旦那様宛に、千代紙で作った鶴を預かってきたのです。また旦那様に、お手紙を書いてもよろしいでしょうか?」
「もちろんでございますとも。きっとお喜びになられるでしょう」
「はい!」
志乃は元気に返事をすると、再びスイカにがぶりとかじりついた。
その日以降、志乃は毎日のように、死神に宛てて手紙を書くようになった。
次第にそれは日記のようにもなり、誰かに宛てた恋文のようでもあり、それでも手紙を書くことによって、志乃は少しでも死神と繋がりたいと思い、書き続けたのだ。
手紙は何通か机の上に溜まることもあれば、ある日さっぱりと消えていることもあったが、死神から返事が来たことは一度もなかった。
時には“死神の旦那様”が本当に実在する人物なのか、疑問に思うほどであったが、それでも志乃は手紙を書くことを辞めなかった。




