第七話 変化していく心(一)
志乃は荷物を抱え直すと、死神の屋敷に戻るため、奥にそびえる竹林を目指して足を進める。
昨日、久しぶりに見た母の顔色はとても良く、田所先生からもかなり快方に向かってると説明を受けた。
二人の妹も元気そうで、特に華はしばらく見ない内に、また背が伸びたようだった。
藤は相変わらず甘えん坊な様子だが、ここ最近は夜中でも華を起こさずに、一人でトイレに行けるようになったらしい。
久しぶりの実家はやはり温かく、志乃の心を和ませた。
妹たちは現金なもので、最初でこそ志乃の顔を見て涙を流しながら飛びついてきたが、土産物を見た途端、きゃあきゃあと騒いでうるさいほどだった。
志乃が家を出てからは、家族の世話は隣のおばちゃんがしてくれている。
志乃は、おばちゃんにお礼を言い、土産物と一緒に死神からもらっている現金の中から十分な額をおばちゃんに渡した。
おばちゃんは申し訳なさそうにしていたが、そういうことはきちんとしておいた方が後々良いと、五木に助言されていたのだ。
一晩家で過ごした志乃は、妹たちを学校へやった後、母に見送られながら再び死神の家へと戻って行った。
「ただいま戻りました」
志乃が玄関から顔を覗かせると、家の中はしーんと静まり返っている。
五木はどこかに出かけているのだろうか。
志乃は荷物を一旦脇に置くと、外に出て辺りをぐるりと見渡した。
すると裏の畑の方から、何やら鍬を振る音が聞こえて来る。
裏手に回り顔を覗かせると、五木が畑で作業をしているところだった。
「おや、志乃様お帰りなさいませ。お早うございましたな」
五木は大粒の汗をかきながら、土を掘り返して雑草を抜いていた。
「私も手伝います」
志乃はすぐに襷をかけると、着物の裾を上げて畑に入っていく。
「志乃様、汚れますからおやめなさい」
慌てて制止する五木に構わず、志乃は腰をかがめると、四方八方自由に生える雑草を引っこ抜く。
二人で黙々と作業をし、麻袋がいっぱいになった所で手を止めた。
「志乃様、お茶にしましょう。縁側にお持ちしますので、かけてお待ちください」
ほほ笑みながら炊事場へと戻っていく五木の背中を見ながら、志乃は冷たい井戸水で手をすすいだ。
濡らした手ぬぐいで汗を拭きとると、とても爽快な気持ちになる。
志乃は庭に面した縁側にちょこんと腰かけ、子どもの頃のように足をぶらぶらと揺らした。
ふと振り返って部屋の中を覗くと、風を入れるためなのか、死神の部屋の障子が開いている。
ぼんやりとその中を見た志乃は、途端にはっと目を見開き、部屋の中に身をのり出した。
昨日アイロンをあてた着物は、確かに羽織と一緒に衣紋かけに引っかけたはずだ。
でも今は、衣紋かけにかかるのは着物のみで、羽織は書斎机の椅子にかかっている。
――もしかして、旦那様がお帰りになったの……?
急に死神の存在を近くで感じた志乃は、そわそわと落ち着きがなくなる。
するとそんな志乃の前に、五木がのんびりとした足取りで現れ、お盆にのせたスイカを志乃の前に置いた。




