表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/8

第3話

目を覚ます。昨日の記憶がまだ鮮明に残っている。森の中で不思議な場所を見つけたこと,休んでいたら、急に眩暈に襲われたこと,気がつけば、目の前には星空が広がっており、綺麗な少女と会ったこと。その記憶を思い返し、そのことが夢ではなかったと改めて感じることだろう。眠りから覚め、まだ寝ぼけながらも彼らは昨日のようにいつもの公園に向かう準備をする。もう一度行ってみよう。そう思いながら、彼らは扉を開き、行ってきますと一言響かせ、外の世界へと足を踏み入れた。彼らはたくさんの人で賑わう街中を無我夢中に駆けていく。もう一度あの場所へ行こうと心を弾ませているのだ。行ける確証はない。そもそもあれが本当に現実の出来事なのかいまだに定かじゃない。そうであっても、そうであるからこそ、自分たちの目で真実を明らかにしようと思うのだ。息を切らせ、額に汗を滲ませ、足元がおぼつかなくなる。しかし彼らの心の中は幻想的な非日常の記憶で満たされていた。今はただその軌跡を追いかけている。そうして各々が公園に着くともうすでに仲間たちがそこにいた。

エミール「あ…おはよう…。」

ジョゼフ「うん…おはよう…。」

ウィリアム「お…おう…。」

エマ「おは…よう…。」

サンドラ「おはよ…。」

5人とも胸を大きく動かして、汗を頬に滴らせている。5人とも皆がいつもと様子が違うことに少し困惑している。加えてへとへとであったり、昨日の様子がもしかしたら自分の夢であったのかと仲間たちに切り出せなくなっていたりとお互いに口を利き合えることができずにしばらくの間、彼らの周辺を静寂が包んだ。そんな中、ある1人が欲を抑えられずに声を発す。

エミール「ねぇ。昨日のことなんだけど…。あれは僕の夢だったの?」

ジョゼフ「昨日のことって、あの丘のこと?」

エミール「ああ。僕の勘違いじゃないよね?」

エマ「たぶんそうだと思うわ。私もあの丘のことを覚えているもの。」

ウィリアム「やっぱり…夢じゃねぇよな…。」

サンドラ「みたいね。」

エミール「…もう一回、行ってみない?あそこへ。」

サンドラ「…うん。」

ウィリアム「ま、俺もそれを目当てに来たからな。」

エマ「私も。」

ジョゼフ「僕も。」

彼の頼みに反対するものはおらず、それどころか彼と同じことを思っていた。それぞれの想いを持ってこの場所に来たのである。そうして彼らは一通り休憩を終えて、またあの場所へ足を踏み入れようとした。しかし、彼らは忘れていた。それは…

エマ「って、私たちあの場所がどこにあったのか覚えてないじゃない!!!」

ウィリアム「いや、たぶんこっちじゃねぇか?」

エミール「完全に忘れた。」

サンドラ「最悪…。」

ジョゼフ「この場所、見たことある気がするんだけど…。あれこっちだったっけ?」

そう、彼らはただ感覚に任せて気づいたらあそこへ辿り着いただけであって、帰りもなんとなくで帰ってきたのだ。そんな彼らは当然あの場所がどこにあるのかなどわかるはずもなくまた長い間森の中を彷徨っていたのだ。休憩して取り戻した彼らの体力は以前よりも消耗する羽目になってしまった。

エミール「目印をつけておくべきだった。」

エマ「今更言っても仕方ないじゃない。」

サンドラ「もうくたくた…。」

ジョゼフ「でも、今は進むしかないね。」

ウィリアム「お!こいつ滅多に見つからねぇやつだ!」

そう言ってウィリアムは茂みの中を手でガサゴソと漁ると、その両手を少しふんわりと何かを包むように重ねていた。そうして、彼はバッと振り返ってこちらを見る。その目がやけにキラキラとしている気がした。

エミール「なんか嫌な予感…。」

すると彼は包んでいたそれを露わにする。何やら毒々しい色をしたそのカエルが彼の掌でゲコゲコと鳴く。

ジョゼフ「えっと…確かそのカエル、前本で見たことあるんだけど…。そのカエル、確かすごく危険な毒を持っていたような…。」

エマ「いやぁぁぁ!!!ちょっと!そんなもの近づけないでよ!」

エミール「はぁー。やっぱりこうなるのか…。」

サンドラ「最悪。」

ウィリアム「えぇー。こんなに綺麗な色してやがんのに。」

エマ「いいから早くそれをどうにかしてぇぇぇぇ!!!!」

ウィリアムはそんな皆の反応に少し残念に思いながらも、渋々その手に載せているカエルを元の場所に還した。

ウィリアム「ちぇー、あいつなかなか見られないのになぁー。」

エマ「そういうのは1人でやりなさいよ。」

ウィリアム「分かったよ。そんなにみんながビビリだから仕方nぐぉっふぇぇぇぇ!!」

そう彼が言った刹那、エマの渾身の一撃が彼の腹にクリティカルヒットする。彼は地面に倒れ込む。呻き、腹部を両手で庇い、身悶える彼にものすごい剣幕で彼女は告げる。

エマ「いい?" 二 度 と "やらないでよね?賢い賢いウィル君なら分かってくれるわよね?」

彼女の顔には笑顔が浮かんでいたが、彼女の後ろには巨大な龍が彼を睨んでいるような気がした。

ウィリアム「はい。ずびばぜんでじだ。はんぜいじまず。」

彼女の剣幕に完全に気圧されたウィリアムは正座をして、少し声と体をガタガタと震えながら応えた。

エマ「分かればよろしい。」

エミール「ちょっと、おっかないなぁ。」

ジョゼフ「僕の目がおかしくなってたのかな?エマの後ろに何やら恐ろしいものがいた気がするけど。」

サンドラ「エマ、怖い。」

エマ「何か言ったかしら?」

彼女は3人の方をゆっくりと向くと、地響きのような音が彼女から発せられ、彼女の背景が赤く染まり、彼女が鬼と化しているような気がした。間違いなくここで下手に返事でもすればウィリアムの二の舞になることは明らかだった。

エミール・サンドラ・ジョゼフ「何にも言ってません。」

エマ「そうよね。何も言ってるわけないわよね?」

うふふと彼女は不敵に笑う。そんな彼女に4人はこう思うのだった。

エミール・ウィリアム・ジョゼフ・サンドラ(次から逆らうのはやめておこう。)

それから少し経った。未だに彼らは鬱蒼と生える木々の間を突き進んでいた。やっぱりあんなところなかったのであろうか。しかし、確かに記憶に残っている。そしてあの場所で出会った友と約束をしたのだ。だから彼らは突き進む。どれだけ疲労しようとも、どれだけ弱音を吐こうとも…彼らの心を突き動かすのはそれだけで十分だった。とその時、パキッ枝が折れる音がした。それは彼らの足元で鳴ったのではなく、少し離れたところから聞こえた。そこからグルルルと何かが唸る声が聞こえる。

エマ「ねぇ。これって大変なことになってないわよね?」

ジョゼフ「そうだと思いたんだけど。」

エミール「俺もだが、これはたぶんダメな気がする。」

ウィリアム「こいつはまずい。」

サンドラ「どうしてこうなるの…。」

彼らは怯える。おそらくだが、彼らは今絶体絶命という状況にいるのだろう。彼らの本能が逃げろと言っている気がするが、それでも彼らはその恐怖故に足を動かすことができなかった。そうして、それは姿を現す。茶色の体毛に身を包み、歯茎をこちらに見せながら、鋭い眼光でこちらを睨みつけるそれは彼らの顔をみるみるうちに青ざめさせた。そいつがのそり、のそりと彼らの方へにじり寄ってくる。彼らはどうすることもできなかった。彼らが唯一できることといえば、神に望むことくらいしかできなかっただろう。

ウィリアム「おい、絶対背中を向けずに、ゆっくりと後退りしろ。刺激しちまえば襲ってくるぞ。」ボソボソ

エミール「後退りなんかできるわけねぇだろ!足がすくんで動けねぇよ!」ボソボソ

エマ「やめなさいよ!あんたたちこんな時に何してるのよ!」ボソボソ

ジョゼフ「静かに!今はこいつがどこかへ去ることを祈ろう。」ボソボソ

サンドラ「そうなるわけないじゃない。」ボソボソ

そいつはその瞬間にもこちらに近づいてくる。もう彼らとの間はない。グルグルとひたすらに鳴らしてこちらに敵意を剥き出しにしてくる。冷や汗が全身からとめどなく溢れてくる。どうにかなってしまいそうなほどに彼らの精神は限界だった。殺されてしまう。そう思った次の瞬間、パァァンとものすごい爆発音がどこからか聞こえてくる。その直後、彼らの目の前では熊の横側から赤い液体が吹き出していた。そいつはうめき苦しみながら、フラフラと森の中へと駆けていった。彼らは一瞬の出来事に頭が追いつかなかった。しばらくその場に立ち尽くしていると、

???「こるあぁぁぁぁ!子供がこんな森の中にはいってくるんじゃぁぁなぁぁぁい!危ないじゃろうがぁぁぁ!」

怒声が彼らの鼓膜を激しく揺らす。声がした方向へ目を向けるとそこには口から煙が出ている銃を両手で持ちながら、顔を般若のようにしながらドスドスと歩み寄ってくる老人がいた。

???「ともかく説教はあとじゃ。わしについて来い。ここは危ないからな。」

そう言うとその老人は手でこっちに来いと合図をした。わけもわからず彼らはただ困惑するばかりであった。しかし、その場で留まっていても埒が開かないと思った彼らはひとまずその老人についていくのであった。一方で…

オリヴィア「…また…みんな来てくれるかな…。」

少女はただ独り花畑に寝転がりながら星空を見つめていた。孤独であったこの空間に自分と同じくらいの子供たちが突然やってきて、気がつけば友達になっていて、そしてまた会うとそう約束した。その約束を信じて彼女はただ友達を待つ。彼女はヒョイっと起き上がると丘のてっぺんに生えた巨木に近づく。

オリヴィア「…きっと来てくれる。約束したもの。」

彼女は木にそっと手を添え、想いを馳せる。刹那、彼女の頭にノイズが走ったような気がした。

オリヴィア「うぐっ、何!?」

次から次へと流れてくるノイズに彼女は頭を抱える。悶え苦しむ彼女の目には何か映画のフィルムのような映像が映し出されていた。全てをはっきりと見ることはできなかったが、そこには自分の村の情景や、かつての村人や友達、両親の姿がいたような気がした。

オリヴィア「っこれ…って。お父…さん…お母…さん…。」

その瞬間彼女は気を失う。なぜこんなことが起こったのか。考える暇もなくその体を地面に衝突させ、意識を深い闇に手放す。少しずつ、彼らの物語が話を進めているようだ。しかし、これはまだ始まりに過ぎない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ